26:王宮における毎朝の謁見(2)
象牙色の石が、その部屋を占める。
それは建国祭の以後も代わらぬ、古からの玉座の姿だ。
玉座は三段ほど高い場所にあり、黄金が惜しげもなく散りばめられた王座がそこにはあった。座している若き国王は、黄緑色の髪を揺らし、金色の瞳を傍らに控えている宰相へと向ける。この大陸においては、純粋な金色の瞳は、このクロックストーン王家にしか発現しない。少しタレ目の27歳である国王は、深緑色の服を纏った右腕を、肘当てに付き、頬杖をついている(いつも通りだとは分かっているが、この時の国王は、なんだかいたたまれない気分でいた)。
「何か連絡はあるか?」
「ございません」
文官の正装である黒に限りなく近い紫色のハイネックの装束を纏った宰相が、淡々と応えた。宰相、フェルシア・クラフトは、縁取るように金色が施された服を優雅に着こなしている。26歳の青年だ。切れ長の凛々しい眼差しをしていて、その髪と目の色は、ダークブラウンと言う言葉では表現できない、黒と金の中間をした色合だ。色白で痩身。物腰の一つ一つが見る者の目を奪うほど洗練されていて、声もまた流麗だ。聞く者を惚れ惚れさせる。
そしてたちが悪いのは、本人がソレを自覚していいる事だった。
――なんて僕って洗練されているんだろうな!
宰相の言葉に頷いてから、国王コンプリート・クロックストーンが続いて、向かって左手に控えている全騎士男を統括する青年を見る。
「騎士団長ジーク・オデッセイ。何か報告は?」
「ございません」
いつも通り応えた騎士団長は、腐葉土色の髪と瞳を静かに揺らした。鷹のように鋭い目つきをしていて、そこにいるだけで威圧感を与える。四大侯爵家の一つ、オデッセイ侯爵家の次男で、同じ歳であるコンという愛称の国王とは、幼なじみ兼学友でもある。181cmの長身で、がっしりとした肩幅をしているが、決して筋肉だるまと言った風ではない。良く均整の取れた体で、騎士団の正装である黒い服を纏っている。こちらにも、金色の刺繍が施されていて、文官との差異は、その色合いだけだ。ジークは、各団長以上と文官の各部署の長にのみ許されている白い布を羽織っている。勿論フェルシアもそうだ。
「宮廷魔術師長ゼルダ・ワインレッド。何か報告は?」
「ございません」
続いて毎日の所作通り声をかけられたゼルダは、ワインレッド伯爵家の長男だ。彼は26歳。宰相と、魔術学校時代から親交がある。宮廷魔術師の装束は、深紅だ。それ以外の、金の縁取りや肩布を羽織ることが出来る条件は、他の武官や文官と変わらず、やはり各部署の長以上である。173cmの彼は、ワインレッド色の瞳に、金髪をしている。アーモンド型の瞳を、彼は国王へと向けた。
ここまでが、毎日繰り返される朝礼での光景である。
強いて言うならば――こんな日々が、戻ってきたと言うべきなのか。
「他に、何かある者はいるか?」
そこに出席を許されている者達は、誰も何も言わない。
「それでは本日も励むように。解散」
このようにして、王宮の一日は始まった。
始まるはずだった。
「――って、ちょっと待って下さいよ!」
宰相執務室でレガシーが声を上げた。
「なんだ騒がしいな」
カップを受け取りながら、フェルがレガシーを見る。
「あれですよね、あれですよね、建国祭って言う一大行事を終えて、勇者の事はサクッと元の世界に返して」
「ん、ああ」
「それで!?」
「ん? それで十分だろうが」
「ど・こ・が! 結局あんたは誰と付き合うんだよ!」
レガシーの叫び声に、窓の外を一瞥しながら、フェルが微笑を浮かべた。