【九】鳥と樹(★)






「あ……ぁ、ァ……ん」

 そこからは、ずっと貫かれていた。時間軸が曖昧になっていく。自分がどこにいて、どのように存在しているのか、分からなくなっていった。風のような魔力が、俺の肌を愛撫しているのは分かる。

「あ、あ……ァ、んは」

 ずっとフェル殿下は、俺の乳首を吸っている。薔薇に掌をあてながら、逆側の乳首を吸うのだ。その度に、体から力と――魔力が抜けていく。どんどん俺の体が空っぽになっていく。

「動いてくれ……ああ」

 貫いたままで、殿下は動きを止めている。淫らに俺の腰だけが動いている。気持ちの良い場所に当たらなくて、もどかしくて、瞳が濡れた。壮絶な快楽の記憶が甦ってくるのだが――どうやら今宵は新月らしい。俺の体は、純粋な性交がもたらす熱しか拾わない。

 それでは、もうダメなのに。薔薇を撫でられる度に、俺は自分の体を熱に絡め取って欲しいと、朦朧とした意識で考えていた。

「あ、あ、フェル殿下」
「やはり私を知っているのか――が、今の私は神の代理だ」
「ああ……」

 ゆっくりとフェル殿下が腰を動かした。そこに生まれた僅かな刺激がもたらした快楽が、ゾクゾクと背筋を這い上がる。

「んン!」

 フェル殿下が甘く乳首を噛んだ。ジンとそこから広がる甘い快楽に、俺の体が跳ねる。だが穏やかすぎる快楽は――エガルの元で味わったような解放はもたらしてくれない。

「ぁ……ァ、あ……やだ、いやぁ、嫌だ、も、もう……」
「そうか。そんなに欲しいか?」
「ああ、は……ん、ン……欲しい、欲しいんだ。突いてくれ」
「では樹の神の力、喰らわせてもらうとするか」
「っ、ぅあ」
「その意味が分かるか?」
「ん、ぅ……うう」

 殿下が何事か口にしているのは理解出来た。だが、何も考えられない。俺はただ喘ぎながら、哀願するしか出来ない。

「あ」

 俺はその時、目を見開いた。

「ああああああ!」

 気づくと、殿下の姿が変化していたのだ。それは、巨大な鳥だった。凶悪な陰茎だけが、人の形をしているのだが、その他の全てが変化している。

「嘘だ、やめ、アアア」

 恐怖に駆られた俺は、無我夢中で藻掻く。だが鳥に変わった殿下の笑い声が響いてきた。

「風の国の神は、鳥だ。天空を滑る不死鳥だ。火で炙るように、風で愛撫するように、その体に宿る魔力、啜ってやろうな」
「いやああああ!」

 鳥に変わった途端、太さと長さを増した硬い剛直が、俺を深々と貫いた。結腸が刺激され、俺の頭が真っ白に染まる。全身から何かが抜けていく。

「いやああああああ!」

 鳥の羽で撫でられるように、俺の皮膚の内側で、快楽が羽ばたいた。同時にトロトロと炙るように、奥底から熱が浮かんでくる。果てているのに、じわじわと昂め続けられ、ずっと愛撫されている感覚に、俺は気が狂いそうになった。

「あ――、――ッ、――」

 もう声が出ない。号泣しながら震える俺は、直後何度も突き上げられて放った。同時に内部に飛び散る――力を感じた。内側に放たれた魔力が、瞬時に俺の体を侵食していく。ああ、喰われている。俺の体の魔力が吸われていく。そうされると、気持ち良いのだ。それはエガルに教え込まれていた。魔力を吸われると、俺の体は快楽を訴えるように、変えられていたのだ。

「っく、ぁ……あああ、待ってくれ、おかしくなっちゃ、う、うあ」
「もうお前は逃れられない」

 吸い尽くされ、俺は気絶した。
 次に目が覚めると、俺の体は樹の枝に絡め取られていた。何だろうかと視線を彷徨わせると、床から生えている巨大な樹の根のようなものが、俺の体を持ち上げていたのだ。その樹に触れていると――どこか懐かしさを覚えた。しかし体が全く動かない。全裸の俺の肢体を絡め取っている根は……俺の内部にも入り込んでいた。それに気づいて目を見開く。樹の根が蠢いている。

「あ、あ、何、なんだこれ、うあ、ア」
「目が覚めたか。お前の中に残っていた樹の神の力が抜けている所だ。樹の神は屈し、お前の体を差し出しているんだ」

 正面に立っている殿下は、不意に細い棒を取り出した。それは、何らかの魔導具だと分かる。独特の気配がした。

「残りは、吸い出しきるだけだ」
「っ、や、ぁ」

 殿下が露わになっている俺の陰茎に手をかけた。そして――鈴口から、その棒を挿入してきた。ゆっくりと進んでくる先端が丸い棒は、俺の尿道を犯しながら、触れる箇所から魔力を吸っていく。目を見開き、ガクガクと俺は震えた。

「ま、待――、っ……!!」

 正面から前立腺を暴かれた瞬間、俺の内部で木の根がドクンと動いた。

「ああああああああああ!」

 体内と外部から同時に前立腺を暴かれた瞬間、俺の魔力が完全に抜かれたのが分かった。絶叫し、俺は再び気絶した。

 気づくと俺は、頬を涙で濡らし、俯いていた。まだ樹の根は、俺に絡みついている。しかしもう、陰茎からは棒が外されていた。だが、残酷なことに、体内で柔らかな根が、まるで肉のように蠢いている。びちゃりびちゃりと、根の先が何度も俺の内側に、何かを放っている。ボタボタと結合部分から、何かが零れていくのが分かる。

「あ、あ……あ? うあ? あ、は……ん」
「空になったようで何よりだ。神の血を持つ器が、空いたということは、神生みが出来る。新たな神を宿せる」
「ふ、ぁ……あ、あ」
「樹の神の種と、風の神の卵、生んでもらうぞ」

 殿下が俺の耳元で囁いた。その吐息にすら感じていた時、ゾクリと俺の体が震えた。

「あ……あ、ああああ!」

 俺の体内が熱くなる。その瞬間、俺の体から光が溢れ、目の前に巨大な卵とひまわりに似た種のようなものが出現した。

「良い兵器が二つも手に入った。もう用はない。あとは配下にでもくれてやるか。ご苦労だったな、ネルス殿下。いいや、もう性奴か。お前は、民草以下の家畜だ。もう何の力も無い」

 その言葉に手の甲を見れば、冒険者の魔力を示す魔法陣の色が、透き通って消えていった。こうして俺は、生まれ持った魔力を失った。