【8】初夜(★)



 式はしなかった。今の世の中では、式はしない人間の方が多い。だが、入籍するとやはり、意識はなんとなく切り替わる。伴侶別姓制度があるため、俺の苗字は高杉のまま、種田も種田のままである。

 入籍届を出した夜、俺はいつもより長風呂をしてしまった。
 ――初夜だ。
 ドキドキしながらバスローブを纏った俺は、浴室から出た後、種田を見た。種田は俺に水の入ったグラスを差し出してくれた。それを飲み終えて、グラスをテーブルに置いた時、種田が不意に俺を抱きしめた。

「礼人さんが好きだよ」
「俺も種田が好きだ」

 口に出すと、一気に照れくさくなった。種田はそっと俺の頬に触れると、じっと俺を覗き込んできた。

「キス、しても良い?」
「う、うん」

 その後種田は、俺の唇に唇で触れた。それだけで、俺は真っ赤になってしまった。柔らかい……緊張が這い上がってきて、俺は思わず体を硬くした。それから種田は啄むように何度も俺に触れるだけのキスをした。片腕を俺の腰に回し、抱き寄せながらキスを繰り返す種田を見て、俺は本当に大事にされていると実感してしまう。

「礼人さんが好きすぎ、僕は困ってる」
「……ベッド、行くか?」
「良いんだね?」
「うん……」

 俺が頷くと、種田が俺の手を軽く引いて、寝室へと促した。巨大なベッドに押し倒された俺は、すぐにバスローブをはだけられる。種田は俺の首筋に唇を落とすと、柔和な微笑を浮かべた。俺はガチガチに緊張しているのだが、種田はいつも通りに見える。

「ン」

 種田が俺の右胸の突起を舐めた。湿った感触に、俺は思わず目を閉じる。もう一方の手で種田は俺の左胸の乳頭を捏ねるように嬲る。そうされる内に、ゾクリとした見知らぬ感覚が込み上げてきた。

「ぁ……」

 丁寧に愛撫されていると、体が熱くなってくる。未知の熱が、すぐに俺の陰茎に集まり始めた。

「んぅ」

 種田が俺の陰茎を握りこむ。そうしてゆるゆると擦り始めた。そうされるとすぐに、俺の陰茎は硬くなった。初めて他者から与えられる刺激に、俺は頬が熱くなってきたのを自覚した。無性に照れくさい。

「もっと声を聞かせて?」
「恥ずかしいから嫌だ」
「本当に礼人さんは可愛いな。それに、すごく綺麗」
「そう言うセリフも照れるからやめてくれ……ぁ……」

 種田が口に俺の陰茎を含んだ。ねっとりとしゃぶられて、俺は快楽と困惑から泣きそうになってしまった。熱い種田の口腔が、気持ち良い。すぐにガチガチになってしまった俺の陰茎を、種田が唇に力を込めて扱いている。そうしながら種田は、俺の後孔に指を挿入した。強烈な違和感に襲われたのは最初だけで、人差し指が進んでくる内に、俺の体は更に熱を孕んだ。

「あ、ァ!」

 指先を折り曲げられた瞬間、俺の体が跳ねた。ビリっと快楽が全身を駆け抜ける。

「ここが好き?」

 俺の陰茎から口を離して、種田が笑みを浮かべながら囁くように言う。動揺してしまった俺は、真っ赤のままで種田を見上げた。

「あ、あ!」

 種田はそんな俺の感じる場所を、指先で更に嬲る。そうされる度に、ジンジンと快楽が、俺の全身に響いていく。その後指が二本に増え、種田はかき混ぜるように手を動かした。広げられていく俺の内側は、収縮しているのが自分でも理解出来た。

 丹念に丹念に解されてから、指を引き抜かれ、種田の先端をあてがわれた。

「んぅ……ひゃ! あ、ああ……」

 種田の肉茎が、俺の中へと挿ってくる。押し広げられる感覚に、俺はのけぞった。熱い。繋がっている場所から熔けてしまいそうになる。グっと根元まで一気に挿入してきた種田は、入りきると、微笑した。

「礼人さんの中、本当に気持ち良い」
「ン、ぁ……あ……」

 硬い種田の陰茎が、次第に動き始める。腰を種田が揺らす度、俺の体を快楽が絡め取っていく。それから種田が抽挿を開始した。ゆっくりと突き上げては、ギリギリまで引き抜く。その動作が次第に早くなっていく。

「あ、あ、あ」

 俺の口から嬌声が零れた。快楽が怖くなって、思わず種田にしがみつく。震える息を吐きながら、俺は涙ぐんだ。初めての快楽は、あんまりにも強烈で、何も考えられなくなっていく。俺の張り詰めた陰茎が、種田の腹部で擦れた。

「あああ! だ、ダメだ、や、気持良い……ああ! 種田、っ!」
「もっと僕の名前を呼んで?」
「種田、種田……うあ、あ、出る……! ン――!」

 そのまま感じる場所を突き上げられた時、俺はあっさりと射精した。全身から力が抜ける。熱を逃がそうと、俺は浅い呼吸を繰り返す。

「ひゃ!」

 一度動きを止めてから、種田が余韻に浸っていた俺の最奥を貫いた。頭が真っ白になった俺は、目を見開く。涙が零れた。奥が、気持ち良い。

「ああ、種田ぁ……ァあ! ダメ、ダメだ、おかしくなっちゃう、やぁァ!」
「凄艶だな。乱れてる礼人さん、本当にたまらない」
「ああア! ああああ!」

 種田が激しく動き始めた。怖くなって腰をひこうとした時、種田に正面から体重をかけられる。身動きが出来なくなった俺は、快楽からむせび泣いた。種田は喉で笑ってから――不意に俺の脇の下に触れた。

「や、あ! あああ! 待ってくれ、やだ、あ、あ、ああ!」

 それまで、脇の下はくすぐったい場所だったのに、今は敏感になっているのか、ゾクリとしてしまった。再び俺の陰茎が持ち上がる。種田の動きが再び激しさを増した。それから激しく攻め立てられる内に、俺の理性が飛んだ。

「あ、あああ! 種田、あ、あッ!」
「出すよ」
「ん――!」

 種田が俺の最奥を一際強く突き上げ、俺の中に放った。俺は震えながら涙をこぼし、ぐったりと寝台に体を預ける。汗で髪が肌に張り付いてくる。種田は一度陰茎を引き抜いてから、吐息に笑みをのせた後、今度は俺の太ももを持ち上げて、斜めに穿った。肌と肌がぶつかる音がする。

 その夜俺は、散々種田に体を貪られた。いつ意識を飛ばしてしまったのか、俺は覚えていない。

 翌朝目が覚めると、俺は種田に抱きしめられていた。ぼんやりとしながら気だるい体で目を開けた俺の頭を、種田が撫でている。その表情を見た瞬間、俺は顔から火が出そうになった。

「おはよう、礼人さん」
「お、おはよう……」

 羞恥がこみ上げてきて、まともに種田の顔を見る事ができない。

「体は辛くない?」
「平気だ……ちょっと腰が違和感あるけどな」

 俺の言葉にクスクスと笑ってから、種田が俺をより強く抱き寄せた。


 このようにして――種田と俺は結ばれた。人生何があるか分からないものである。ただ、幸せだから、良いのかなとも思う。種田は俺に悪役をして欲しくない様子だったので、その後俺は会社をやめた。現在俺は、マンションで種田の帰りを待つ生活をしている。家庭に入った形だ。専業主夫である。

 種田は変わらず俺を溺愛しているのだが……本当、どうしてこんなにも愛されてしまったのか、俺にはよく分からない。毎日種田の愛を受け止めながら過ごすのは、正直……うん、まぁ、幸せだ。

 俺はたまに怖くなる。この幸せが、リアルライフオンラインのように、ゲームの中の幻想だったらどうしようか、と。しかし現在までの所、幸いな事に、目は覚めないでいる。俺はこの幸せが、死が二人を分かつまで続く事を願っている。



(終)