――僕は、そのまま『夢』を見た。

 僕は、夢の中で、何故なのか『蝶』になっていた。人間の体、意識を持つにも関わらず、己が『蝶』だと理解していた。そして僕は、十字架状の木の柱に括りつけられていた。手首を紐が拘束していて、柱から動けない。その紐には、まるで蝶を箱に収める時に使うような、ピンに似た球体がついていた。宝玉のようでもあり、その色は不思議な金色に見える。

「お前が、茜、か」

 その時、冷たい声が響いた。気づくと、眼前に一人の青年が立っていた。鋭い眼差しをしていて、僕を射抜くように見据えている。

「もっとも『人』の血を色濃く継いでいる為に、捨てられた哀れな『蝶』か」

 僕はその言葉に目を見開いた。すると、記憶にないはずの、孤児院に行く前の記憶が僕の脳裏によぎった。見知らぬ記憶が僕を埋め尽くしていく。

 ――そうだ。僕は、座敷牢に軟禁されていたのだ。いいや、正確には、監禁だ。
 首輪で繋がれ、手足を縛られ、口布を宛てがわれ。
 鞭で、何度も、打たれた記憶だ。全身に痛みが走った気がした。

「だというのに、後年になって、『力』が発現するとは、な。今では、もっとも推されている当主候補、か」

 青年の言葉の意味は、一切理解出来なかった。だが、己が蝶だというのは、本能的に、直感的に理解できた。では、この青年は? そう考えた瞬間、僕の思考がノイズでまみれた。

「俺を識りたければ、遺言状に従う事だな」


 ――そこで、夢は終わった。
 飛び起きた俺は、激しい動悸に襲われていた。

「……」

 僕は、夢の中の青年の声を、脳裏で反芻する。そして、気づくと、無意識に呟いていた。

「行かなくちゃ。彼は――僕を助けてくれる『蟲』だ」


 ――数日後。
 僕は電車とバス、そしてタクシーに乗って、指定された場所へと向かった。何故なのか、そうしなければならないという強迫観念じみた衝動に駆られていた。

 到着した館は、古い洋館だった。僕が高い屋根を見上げていると、扉が開いた。

「執事の高田と申します。ようこそおいで下さいました、茜様」
「……砂永茜です」
「いいえ。七穂積茜様です」

 そう言うと執事さんは、館の中へと引き返した。少し戸惑ってから、僕も後に続く事に決める。すると正面にある巨大な白い階段の前に、一人の青年が立っていた。

 ――夢の中で目にした青年だった。

「やっと来たのか」
「……」

 夢の中の人物が実在するというのは、不思議な感覚だった。

「着いてこい」

 青年はそう言うと、僕へと歩み寄り、強引に手首を握った。足がもつれかける。しかし青年はそれには構わず、近くの部屋に僕を促して、扉に鍵をかけた。どうやら応接間らしく、シャンデリアが光を放っていて、巨大なソファとテーブルがある。

「!」

 そのソファの上に、彼はいきなり僕を押し付けた。後頭部を軽くぶつけたが、ふかふかのソファのおかげでそれほどの衝撃は無かった。

「な」

 青年はそのまま僕の服を引きちぎった。呆然としていた僕は、それに逆らえなかった。服を引き裂かれて、ボロ布をまとっているような状態になった僕を見て、青年が酷薄な笑みを浮かべた。

「あ」

 そうして僕の首筋に突然噛み付いた。

「う」

 痛みが全身に走る。食い破られたのが分かった。血の感触がするからだ。しかし――痛みがすぐに快楽に変化した。体が瞬時に熱くなる。

「あ、何、何これ――」
「俺が、『蟲』は、お前の後継人になると決めた。拒絶は許さない」

 青年が、僕の陰茎を握る。そして擦り始めた。その時には、既に僕のものはそそり立っていた。

「あああっ、嫌だ、やめ――」
「俺の事が識りたくて、ここへと来たんだろう?」
「!」

 そう言われた瞬間、僕の思考に霞がかかった。そうだ、そうだった。青年の言葉は真実だ。青年が舌で僕の脇腹をなぞる。そうされた瞬間、僕は果てていた。

 その白液を掬った青年は、迷いなく僕の菊門に、濡れた指を二本突き立てた。

「あ、ハ」
「俺に身を委ねろ。これからは、それがお前の『仕事』だ」

 僕は全身に走った快楽に、抗えない。それは決して彼が、僕の体に体重をかけているからでは無かった。快楽に体が絡め取られてしまったからだった。

 青年が楔で僕を穿つ。右の太ももを持ち上げられた僕は、涙をこぼした。気持ちの良い場所を巨大な先端で突かれる度に、僕は果てた。そんなに出るわけが無いと理性では思うのに、彼に貫かれる度に液が溢れていく。

「あ、あ、あ」
「出すぞ」
「っ」
「これでお前は、『蟲』のものだ。所有物となる。それを、決して忘れるな」

 そう言うと青年が僕の中に放ったのが分かった。僕の中が蠢いているのが分かる。青年の陰茎を締め付けてしまう。すると青年が息を詰めてから、嘲笑するように僕を見た。その瞳は冷ややかだ。

 ――その時、僕は、彼の楔によって、この『世界』にピンで止められた事を理解した。

 体が作り変わっていくのが、直感的に理解できた。それがどうしようもなく怖くて、僕は絶叫した。

「いやあああああああああああああああ!」