素っ裸ゴシゴシ!


俺はゴミ屋敷に住んでいる。自他共に認めるゴミ屋敷だ。歩く場所もゴミの上。自分が座る一角だけが、ぽかんと空いている。そこにだけ絨毯が覗いている。
別に元からそうだったわけじゃない。
単純に俺は掃除が苦手中の苦手で嫌い中の嫌いなのだ。
面倒くさい。
洗濯は好きだ、魔導シャワーを浴びるのも嫌いじゃない。
ただ掃除だけはどうしてもダメだ。片付けようと決意しても、二分で過去の雑誌を読み始めるタイプだ。時折魔法何でも屋に掃除を頼もうかとも思うが、そんな金はない。2Kに住んでいる俺は、普段は魔導レントゲン技師をしている。
今この世界は、かつての科学と魔法が融合した魔道技術と、純粋な個人の魔力を使う魔法が発展している。だが俺の掃除能力が発展することはない。何故だ……!
ここサンダディルディア王国がいくら発展しようとも、俺の家はゴミ屋敷なのだ。
テレビでは国王陛下と王妃様が、春のヨーグレット展覧会にご出席なさっている姿が流れている。俺の勤務先はその会場の真後ろにあったため、廊下を偶然よぎっていた俺は見事に映っている。まぁ誰も注目していないだろうけど。しかし行動が逐一放映される国王陛下たちも本当に大変だろう。第一王子殿下なんて、非公式ファンクラブまで存在すると聞いたことがある。王族は見目麗しい方々が多いのだ。それはこの国の誇りだ。

ーーその時玄関のチャイムがなった。

こんなゴミ屋敷に訪ねてくる人など、宅配業者か出前の人しかいない。
本日はどちらの予定もなかったから、不審に思いながらも俺は扉を開けた。
そして俺は首を傾げた。そこには何処かで見た覚えのある老夫婦らしき人が立っていたのである。そしてハッとした。きっと病院の患者に違いない!

「ど、どちらさまです?」
「国王です」
「は?」
「王妃です」
「え?」

俺は残念ながら精神科は担当していない。この人々は、自分たちを国王夫妻と思い込んでいるに違いない。しかし、しかしだ。俺は振り返って思わず付けっ放しだったテレビを見た。そこには相変わらず国王陛下たちが立っている。ーーそっくりだった。なんでここに? いいや、やっぱり人違いだろう。

「部屋に通してもらえませんか?」
「いやその……ちょっと汚れているんで」

国王陛下(仮)に俺はそう言った。本当はちょっとどころの騒ぎではない。
絶対に部屋に通す訳にはいかない。

「展覧会の会場で、あなたの部屋がゴミ屋敷だと察知しました。魔法で」
「わたくし達に、お掃除をさせてくださいませ!」

いやいやいや、なんだって?
俺は思わず唾液を嚥下した。魔法で察知? なんで??
冷や汗がこめかみを伝って行く。そういえば確かに、過去の雑誌で、王族の皆様は綺麗好きだと読んだ覚えはある。
いいや、やはり人違いだろう。何せ王族は、大多数の人々に等しく優しくすることはあっても、個人と親しくすることはない。展覧会の会場で来客者に声を掛けることはあっても、よりにもよって俺の部屋に来て、掃除をさせてくれなんて言わないはずだ。そもそも護衛も魔導ビデオカメラも無いし。俺個人一人に急に親切心を働かせて、優しく(?)するような理由もない。まぁもしカメラがあったら、俺のゴミ屋敷は全国放送されてしまうわけだが……。

と、思っていたら、黒づくめの人々が大勢やってきて、二人に腰をおった。

「陛下方、お戻りになってください」
「いやよ」
「そうだ、私たちは掃除をする!」

事態が飲み込めず、俺は困惑するしかない。ダラダラと汗をかいた。無理矢理笑顔を浮かべて見たが、我ながら引き攣った。
そこに新たなる来訪者があった。

「お父様、お母様、また国民を困らせて!」

やってきたのは、第一王子っぽい人だった。おそらく本人だ。嘘だろ?

「王子よ……」
「わたくし達は掃除をしたいのですが、あなたが言うのならば仕方が無いわね……」

すると素直に、護衛に誘導されながら国王陛下たちは、マンションの外へと出て行った。残ったのは数人の護衛と、王子殿下だ。

「今回の事は、これで無かったことにして欲しい」

殿下はそう言うと、俺に金塊が多数入った袋を手渡してきた。
思ったよりもーーあんまりにも重くて、俺はよろけながら後づさる。
結果、王子様に手を伸ばして支えられる形になりーーゴミ屋敷を見られてしまった。

「あ、有難うございますーーその、お恥ずかしい限りです」
「これは……」
「ははははは」

もう俺は笑うしかない。おもいっきりから笑いを返す。そうしていたら、殿下にガシっと両腕で肩を掴まれた。

「俺に掃除をさせてくれ!」
「お断りします!」

まずい、まずいぞ、同類だった。さすが親子。あの親にしてこの子ありだ。それにしてもつい大きな声で断ってしまった。不敬罪で捕まったらどうしたらいいんだ……。いやこれ、俺は悪くないだろ……!

「護衛たちはそこで待機していろ」
「で、殿下! 殿下まで!」
「本日の俺の政務は全て終了している!」

頑張れ護衛の人! とにかく連れ帰ってくれ、俺にとっての不審者を!
しかし口論の末、護衛の人たちは黙ってしまった。弱い……。
俺は室内にそのまま押し込まれ、部屋の扉はしまってガチャリと鍵をかけられた。

そして。

床の上のゴミ掃除から始まった。どこから取り出したのか、巨大なゴミ袋に、放置しすぎてツユが干からびてしまったカップラーメンやら、お菓子の箱や、紙パックの飲み物の残骸、酒類の缶や瓶を分類しつつ手際良く捨てて行く。
その後、撒き散らされているコーヒーの粉をはき取り、念入りに絨毯の上を、やはり持参したらしきコロコロで掃除した。掃除機が取り出されたのはその直後だ。俺は気づいた、これは収納魔法だ。なぜそんな難易度が高い魔法を使ってまで、掃除に命をかけているのだろう。
床が見えるようになると、次に机の上のゴミが片付けられていった。何もかもを捨てているわけではなく、書類はきっちりまとめて行く。雑多に並んだ仕事用のテキストは、姿を現した本棚に、几帳面に並べられて行く。レントゲン全集が俺の部屋でまさか、1から9まで、規則正しくなる日が来るとは思わなかった。
その後王子様は、窓をピカピカに磨き上げ、空調の掃除に取り掛かった。魔道エアコンの掃除なんて三年くらいしていない。舞い散った埃は、「先にこっちを掃除すればよかった、まだまだ甘いな俺も」とか言っている殿下の手で再びコロコロにくっついた。
俺が呆然としているうちに、今度はキッチンの掃除が始まった。
何年前のものか不明な油汚れが取れて行く。ガスコンロの周りを掃除している殿下は実に生き生きとしていた。
もうなんか俺は着いていけなかった。
ピカピカになった室内は、まるで新居のような、借りたて時のような輝きを放っている。

「ふぅ。あとは一つだけだな」

王子はひたいの汗をぬぐいながら言った。
どこだ? トイレか? 風呂場か? この二つと洗濯槽だけは、我が家においても最初から綺麗だったぞ。俺が珍しく掃除をするところなのだから。

「着いてきてくれ」
「はぁ」
「服を全て脱いでくれ」
「洗濯なら自分でできますが……」
「いいや、ダメだ。埃で汚れている!」

確かにそれもそうかと思い、服を脱ぐと、王子様が眉を潜めた。

「トランクスもだ」
「え」
「早く裸になれ」
「いや……下着は、ズボンはいてたんで埃はついていないと……は、思いません!」

殿下が腰元の剣のつかに手をかけた。もう同意するしかない。脅しか。わけがわからず、そのまま俺は言葉に窮した。そのまま俺は風呂場に連行された。
素っ裸で。
現在、ゴシゴシと髪を洗われている。何がどうしてこうなっているのか、誰か教えてくれたら、さっき渡された金塊を全部やってもいい。シャンプーとリンスが済むと、今度はゴシゴシと背中を洗われた。俺は何となーく嫌な予感がしてきた。その予想は当たる。俺の胸へと手が伸びてきて、ゴシゴシと乳首を中心に洗われた。泡と指先の感触に、不覚にも俺は息を飲む。

「そ、そこは自分で……っ……できますので」
「いいやダメだ。綺麗にしないと落ち着かないんだ」
「待ってくれ、そこを洗われてる俺の方が落ち着かないから!」

次第に敬語を使う余裕がなくなって行く。乳首をこねくり回されるたびに体がジンと疼くのだ。もう俺は泣きそうだ。しかもそののち、腹部を全部ゴシゴシした後、俺の息子に王子の手が伸びた。

「本当、やめてくれ! マジで自分でできるから! ……ゥ、ア」
「無理だ。念入りに洗うべき箇所だ」

そして俺は本当に念入りに洗われて、思わず勃起してしまった。人体の生理的反応だ。とはいえ、本当に俺は泣き出してしまった。体が震える。困っていると、いきなり体を四つん這いにさせられた。
え?

「ちょ、何をーー」

何と泡でぬめった指先が、俺の後孔に勢いよく入ってきた。逃げようとすると、腰を掴まれ、片手で中をゴシゴシされた。なんで俺は素っ裸で、ゴシゴシされなきゃならないんだ。しかもそんな場所を!

「ぁああっ、ひっ、ん」

やめろと言おうとしたが、その瞬間に、内部のゾクリと快楽が走る場所を刺激され俺は身悶えた。

「ここを突くと大人しくなるな。体は。ちゃんと洗い終わるまで、口も大人しくなるまで、ここを刺激してやる」
「ヤメーーうアーーーー??」
「ちゃんと綺麗にしないとな」
「もう嫌だーー! ア、あ、あ、わ、えあ、わかったから、わかったから、つ、突かないでくれ……っ、やめ??」

しかしそのまま刺激され、俺は精を放った。すると今度は後ろをゴシゴシされたまま、再び前もゴシゴシされた。前と後ろからの刺激に、全身が熱くなり、腰が震えるのが止まらない。

「わるいな、なんだか妙な気分になってきたから挿れるぞ」
「は? ふ、ふざけんな……ぅああああああ!」

今度は王子の息子で、俺の体がゴシゴシされて行く。
だが見知らぬ快楽に酔いしれはじめた俺は、哀願していた。

「も、もっと……んぅあああっ」
「わかった。いいだろう!」

そして俺が二度目を放つ頃、王子様も放った。

「また汚れてしまったな」

……また中と後ろをゴシゴシされる俺。泣き叫んだが、王子のては止まらず、俺はそのうちに理性を飛ばし、最後には意識まで飛ばした。
ーー気がつくと俺は、綺麗になっている寝台の上に、ちゃんと服をきて横になっていた。すぐそばの椅子には、清々しい表情で殿下が座っていた。

「もうこれで汚れは去った」
「さっさと、てめぇも去ってくれ!」
「名残惜しいが、帰るとしよう。また来るからな」

そう告げ王子は帰って行った。腰が痛くて、俺は鍵をかけに行けなかった。
ただし腰痛が治ってから。
俺はもう素っ裸でゴシゴシされないよう、掃除をしようと決意した。

そんな俺の部屋が再びゴミ屋敷になったのは三日後のことで、それを嗅ぎつけた王子はどこからともなくやってきたのだった。そして俺はまたゴシゴシされるのだ。ーーそうして、今となっては、気持ち良くなっちゃっていたりもする。だからある日聞いて見た。もう、王子が来ないとなったら、精神的にも肉体的にも部屋的にも辛い気がしたからだ。

「殿下は、なんで俺のところに掃除に来るんだ?」
「好きだからだな」
「掃除ってそんなにいいのか?」
「いや? お前のことが今では好きだから来るんだ」

その言葉に、俺も王子のことが好きだと悟った。身分違いも甚だしいが。
ーー俺が、王族初の同性婚をすることになるまで、あと少し。