RE:インプット!
世には成り代わりと言う現象がある。
元々普通の生活を送っていた人間が、事故にあったり転生したり兎に角何でも良い、何らかの理由によって、別の人間の体に入ってしまうと言う現象だ。ただこの世界の神様に限っては、成り代わられる器(主に俺など)と、成り代わる対象(誰かの魂)の型が一致しないと、成り代わり現象を起こせないらしい。その未熟感がまたちょっと可愛いんだよな。
で、俺は、様々な人の魂に適合する体の持ち主だという。
だから今日も俺は、成り代わられるのを待ちながら生活を送っている。
何せ成り代わられないと、俺は天国に逝けないから、神様に会えない。
俺ほど世界に貢献している人間はいないわけだから、成り代わられた瞬間強制的に天国に逝けるのだ。それが、俺の最高の幸せ。なんたって神様がいるんだからな!
率直に言って、俺は神様に恋をしている。
神様の名前は……教えてくれないんだよなぁ、すごく寂しい。きっと照れているんだよな! 相思相愛になってから、こっそりと教えてもらうのも悪くない。寧ろその方が、俺だけって言う感じがして良いかもしれない。
そんな俺の今世は、高校生だ。高校生は二百六十七回目だ。もう慣れたもんである。俺は目を開けたまま眠れるし、ペン回しも出来るし、勉強なんて大得意だし(複数回授業を受けているわけだからな)、運動も出来る(なぜなら勇者の器になることは九千回を超えている、目指せ大台!)。そんな完璧な俺だ。神様が俺に堕ちるのも、時間の問題だよな。全く、本当に照れ屋さんなんだから。あんまり冷たくされると、俺、浮気するぞ――……なんてね、俺の中には神様しか愛しい人はいないんだよな。もうI LOVE GOD!
愛しているんだ、俺は。その愛はきっと宇宙よりも広い。太陽よりも熱い!
――その瞬間、成り代わられた。うわ、幸せな瞬間がきた!
「会いたかったです!!」
「……何でお前なんだよ……」
神様の瞼がスッと細められた。きっと俺に会いたくて仕方がなかったから、真正面から見られなかったんだろうな。あんまり見つめられると照れるし、いっかぁ。嫌でも、俺は神様の顔を見ていたい。だからじっくりと見ることにした。
神様は、黄土色の髪と目をしている。鼻筋が通っていて、目が大きく睫が長い。綺麗だ(言葉遣いは、そうでもないかもしれないが、そこすら愛おしい。きっと俺に心を許してくれているから砕けた口調であるに違いない)――いや、可愛いかな。どっちでもいい。俺のドストライク。背が小さいのも可愛い。何でも年をとると少しずつ身長が伸びていくらしい。代わりに老けないんだって。昔、「だから俺の方が年上なんだよ!」と、怒っていた。
「兎に角すぐに転生させてやるから」
「嫌だ!」
「確かに天国の居心地が良いのは分かるけどな……」
「そうじゃなくて、もっと神様の側にいたいんだ」
俺の言葉に、頬に朱を指し、神様が咳払いした。可愛い、可愛い! 照れている!
「いい加減に怒るからな。というか、僕は怒っているからな」
「何でですか?」
「……基本的に僕の側にいて良いのは、天使なんだよ! 我が儘言ってないで、さっさと転生しろ」
「じゃあ俺、天使に転生するよ」
「無理、不可、消えろ」
神様はそう言うと木製の杖を振った。
次の瞬間、俺は赤ん坊になっていた。うわぁ、また赤ちゃんだよ。百万回以上赤ちゃんやってるよ。まぁ当然だ。俺は、成り代われないから。成り代わられる方だから。そもそも成り代わりたいと思ったこともない。魔王退治とか怠すぎるし、逆に勇者に退治されるのも嫌だし、いきなり霊能力持ちの高校生として覚醒したくないし、左手に何かを封印されていて力が解き放たれるのも嫌だ。
しかも、しかもだ。
そういうのになると、必ず恋愛フラグが立つ。冗談じゃない。俺は神様一筋だ!
だが、何故なのか、転生した成り代わられる前の俺も大層もててしまう。ま、いわゆるチートだからな。俺大抵何でも出来るようになっちゃったし。老若男女問わずにやってくる。だが、俺は神様が好きなのだ。
それから十六年が経ち、俺は今度は第一王子になっていた。勿論、成り代わられる。
今回は比較的楽しい一生だったな。しかし恋愛フラグはことごとくへし折ってやったがな!
「会いたかったよー! 神様!!」
「何でまたお前なんだよ……ついさっき転生させたばっかりだろ……」
「それは色々な魂に適合するからって、前に自分で言ってただろう?」
「いや、いくら何でも適合しすぎだろ――僕はこんなの神様学校で習わなかったぞ……」
「神様にも学校って在るんだ」
「っ、そ、その、誰にも言うな……」
神様は、たまにぽろっと神様の世界のこと言っちゃうんだよね。
本当は禁忌らしい。だから神様は焦る。その焦りっぷりがさぁ、また良いんだよね。俺のツボを突きまくっているのだ。
「じゃ、交換条件な」
「な、なんだ? 天使以外には転生させてやる」
「キスして」
「え」
ポカンと神様が目を見開いた。透き通るような瞳に、俺が映っている。うわぁあ幸せ。今なら死んでも良い、まぁ死んでいるようなもんなんだけどな、今。
「……わ、分かった」
「唇だからな」
「っ、え……そ、それはちょっと……」
「俺、口軽いんだよね」
「……」
神様が無言になって俺を睨んできた。また照れているのだろう。これまでにもこういう顔された事があるから、俺は平気。いつまでも初々しい神様大好き!
俺は、屈んであげて、目を伏せた。
すると、唇が触れたので、後頭部に手を回す。神様の髪の毛、柔らかくて良い匂いがするなぁ。そしてがしっと掴んでから、俺は口腔を貪った。離す気はない。逃げようとする舌を追いつめて絡め取る。目を開けてみると、今度は神様がきつく目を閉じていて、肩が震えていた。睫、本当に長いなぁ。
「ぁ……っ」
神様の口から名残惜しそうな声が響いてきたのと、俺の唇が離れたのはほぼ同時だった。
俺は当然、キスだって転生効果で上手いわけだ。何せ、成り代わった相手がキス下手とかだと、可哀想だからな。愛があれば下手でも良い、なんて言うのは幻想だね。なぜなら俺は神様と体を重ねるために、日々脳内で訓練しているからだ! 浮気は出来ないから、あくまでも脳内で。しかし俺の想像力は、日常なんかが非日常に思えるほど現実感を持っている。こちらも転生効果だ。
「も、もういいだろう!? さっさと転生を――」
「うん。じゃ、次に会った時は、フェラね」
「は!?」
「寂しいけど、それじゃあまた!」
俺はいつもよりも気分良く、天国を後にしたのだった。
そして、転生した。当然だ。今度は誰に成り代わられるんだろう、今、竜なんだけど。竜人とかになれないから、成り代わる人も大変だろうな。せめて声帯を鍛えて、人間の言語を発音できるようにしておいてあげよう。俺もたまには親切心を働かせる。だって、だ。成り代わる人が来てくれないと、俺は神様に会えないのだ。
――そのまま俺は、二千五十年生きたところで成り代わられた。
「……もう、二千年も経ったのか……」
「会いたかったです神様ー!! 何度神様のことを思って交尾しそうになったことか!! 想いが高ぶり想像妊娠して、卵を産みそうになったことか!!」
「気持ち悪い……」
ま、確かに俺、雄だったしな。卵は言い過ぎか。
だけど綺麗な唇に手を当てて、吐きそうになるふりをして照れを隠している神様も、実に愛らしい。
「今度会ったらフェラしてくれる約束でしたよね?」
「してない、してないから! だから寿命が長い生き物に転生させたりしてないから!!」
「へぇ……私情で転生先選んだんだ。俺が選ぶのは別でしょうけど」
「そ、それは……」
神様が真っ青になった。規則で駄目らしいんだよね、そう言うの。これも前にぽろっと神様が話してた。本当に、駄目なんだから。駄目な子ほど可愛いんだけどさ!
「フェラ」
「無理!」
「じゃあ俺、言いつけちゃおっかなぁ」
「だ、誰に……?」
「ひ・み・つ★」
まぁぶっちゃけ、言いつける相手なんて知らないけどな。俺は、いかにも知っている風に言ってみた。神様が先ほどまでよりも真っ青になった。顔面蒼白だ。白磁のその肌に、今すぐにでもキスしたい。しかし、今の『秘密』の言い方、我ながらうぜぇな。けど、うざがってる神様も見てみたい。だが神様の顔色は青いままで、それから赤くなった。
「ちょ、ちょっとだけだから、な……」
「んー?」
「さっさと下を脱げ!!」
我ながら無茶ぶりかと思っていたが、神様……え、まじで?
高鳴る俺の胸、神速で動く俺の手、落下する下衣。
神様はそれから繊細な手を俺の陰茎に添えて、口を小さく開けた。目が、何もする前だというのに潤んでいて、まずい、押し倒したくなった。
「んっ……ハ……」
神様の息づかいと舌の動きが色っぽい。だけどな、口に含んでない。それ、フェラじゃない。仕方がないので、俺は腰を進めてあげた。
「! ひ、あ、ッ――!!」
目を見開いた神様の目から、涙がこぼれそうになった。しかし、まだまだだ。俺は余裕たっぷりなので、膝立ちしている神様を見下ろす。ガクガクと体が震えていた。それにしても、下手だな。ま、そういうのも良いか。俺だけが、してもらった、みたいなさ。
「神様、ちょっとチェンジで。手本見せるから」
「!」
俺のを口にくわえたままだった神様を、そのまま押し倒した。神様の服はゆるゆるなので、すぐに脱がせられた。そしてピンク色の陰茎を俺は手に取り、指の腹でなぞった。
「ぁ、ああッ、や、ヤダ、やめ……!!」
「嫌だ」
「待て、止めろ、ウア」
俺が口に含むと、次第に起ち上がり始めた。丹念に舐めあげて、それから、唇に力を込めて上下してみる。神様は、両手で口を押さえて、真っ赤になって俺を見ていた。睫が震えている。本当に可愛いな。いいなぁ。
「あ、あァ、あ、で、出ちゃう、ああっ」
神様の口調が、ちょっとだけ幼くなった。本当は、こっちの方が通常の口調なんだろうな。精一杯威厳を保とうとしているところも、愛おしい。
「ンあ――!!」
そして俺の口の中で、神様は果てた。
「気持ちよかった?」
そう尋ねた瞬間、神様に杖でぶったたかれて、俺は再び転生したのだった。
次に俺が転生したのは、太陽だった。太陽だ。太陽……? 太陽に成り代わるって、どんな奴だよ。俺は吹いた。吹き出さずにはいられなかった。鼻水が変なところに入りそうになった。が、顔はないので、それは俺の想像力の中の俺の体でのことである。
太陽の寿命って……いやまぁ、途中で成り代わられるわけだけれど。
それから俺は光り続けた。それはもう光り続けた。日がな一日、神様のことを考えながら。
――そして六十億年くらいが経過した時、俺は成り代わられた。
「な、なんで……なんで!? 太陽に成り代わるってどんなだよ!!」
「神様、また転生先弄ったんだ?」
「いや、その、あ、あれだ……お前に光り輝く存在になって欲しくて!」
「光りすぎだろ。俺の他に、太陽に転生させられた奴っていんの?」
「そんなのいるわけ……いや、その」
「へぇ」
ちょっと無理があるだろう神様。俺の胸はあんまりにも会えなかったから、はち切れそうだ。しかも、だ。ちょっと怒ってる。光り輝く存在とか、本当無理がありすぎる。こ・れ・は――フェラした・されたのが恥ずかしすぎて、俺を遠ざけたんだな。恥ずかしがりすぎるのも駄目だ。ちゃんと教えておかないと。無論、体に。
「うあ、ちょ、何をする気だ――っうあああッ!!」
神様の服をはぎ取ると、大げさに声を上げられた。しかし、俺は許す気にはなれない。何度妄想の中で、こうしたことか。全く。ああ、こういうのは、何回かやれば慣れるだろ、もうそれしかない。
俺は、人差し指と中指の間に、神様の左の胸の突起を挟み、もう一方の手で、陰茎を撫でた。すると神様が息を詰めた。
「止め、止め、あ、あの……溜まってるんなら誰か紹介するからッ」
「は?」
「僕は、その、無理だから――っ、ど、同性だし、神様にも性別あるからな!!」
「あ?」
「ひっ、そ、それに、僕とシたって……何も良いこと無いだろ?」
「……よ」
「へ?」
「それが俺の幸せなんだよ!」
俺の言葉に、神様が目を瞠った。何か言われる前に、俺は唇で、神様の口を塞ぐ。
何も見たくなかったので、俺は瞼を伏せた。
――正直、いやがってる顔を見たくなかったんだ。
いや、その、さ。
いくら俺がプラス思考だっていってもだな、本当は好かれていないことだなんてよく分かってるんだよ。俺のこと嫌がってるし気持ち悪がってるし、嫌悪しているわけだ、憎悪かもしれない。俺になんか近寄るのも嫌そうだ。だっていつも、前に立つと後退るし。俺を見るとビクビクするし。俺の目を見ると、真っ赤になって固まるし。きっと怒っているのだろう。手なんて触れようモノなら、泣きそうな顔になるし。目が潤むんだよ。泣くほど嫌だって事だろ……はぁ。
俺が静かに目を開けると、神様が真っ赤な顔で震えていた。やっぱり怒ってるんだろうな。
「――……ほ、本当か?」
「ああ、そうだよ。愛してる」
「!」
神様が泣き出した。だけど俺は、手の動きは止めない。するとピクンと神様の体が跳ねた。声を押し殺そうとしているようだったから、俺はわざとねっとりと弄ってやった。
「ァ、う……っ、ン」
「どこが気持ちいいんですか、神様?」
「あ、そ、そんな……ば、バカ!! ぼ、僕は……気持ちよくなんか……っぁああッ」
「じゃあその声は何?」
「ひゃっ、ぅああン、あ、ああッ……ま、待ってくれ」
「もう待てない」
俺は口に二本指を含んでから、神様の秘孔に触れた。すると神様が目を見開いた。
だけどもう良い。次に会えるのが何兆年後か知らないからな。なんてな。
「ち、違っ……うッ、あ……」
「ここじゃないって? じゃあどこが好いのか教えてくれよ」
「そ、そうじゃなく……――フあ、ぁあァ、あ、嫌だ、そこ、ああああ!!」
俺は前立腺を発見した。神様にもあるんだな。ま、気持ちよくなってくれれば何でも良いけどな。……神様がもうちょっと拒絶してくれないと、俺は本当に抑えられそうにないぞ。
「ぼ、僕も……好きだからっ」
「……? ここだろ?」
充分刺激してやってると思うんだけどな。案外、神様の体は不感症なんだろうか。じゃあもうちょっと強くしてやろうかな。俺を太陽にしたお返しだ。
「ひぁあ、う、ンあ、あ、待っ、聞いて……やぁ、もう、ああ」
「何を? もっと、って?」
「だ、だから、僕も……あ、愛してる」
「?」
何をだ。あれか。行為の最中に間違って、浮気相手の名前を呼ぶとか、本命の名前を呼んじゃうとか、そう言うことか。最低だろ、それ。俺は傷ついた。苛立ちが募ってきて、メチャクチャにしてやりたくなった。だけどそうしたらきっと、神様はもっともっともっと泣いちゃうんだろうな。
「好きだよ、太陽にしたの後悔した――っうあああッ!!」
「え」
「ず、ずっと、心配、して……ひぅ、ンあ――!!」
え……太陽になった? それって、俺が初めてって言ってたよな……?
え。神様、まさか……いや、まさか、俺のことが好きだなんて事はないだろうな。それは都合の良すぎる妄想だ。だけど俺は照れて、もう一方の手で口元を覆ってしまった。
「だ、から、本気じゃないなら、こういう、こういう事……しないで……っ」
「……」
「うあ、ア、ああ、ぼ、僕もう出る、出ちゃう、あ、ああッ」
思わず沈黙してしまった。冷静になれ、俺。何だ、何が起こっているんだ?
本気じゃないなら……?
いや、俺は本気で好きだけど?
本気で、最後までヤろうと思ってるけど?
そっちこそ本気じゃないんならもっと拒否れよ。
「大好きだよ、ああア――!!」
そのまま、俺の指で、中だけで神様は果てて、意識を飛ばしてしまった。
残された俺は、その体を抱き起こしながら、現状理解が出来なくて、何度も瞬きをした。
ま、まさか……両思い!?
神様が目を覚ますまで、俺は抱きしめていた。神様の体温は温かくて、心地が良い。
「ん……ッ!!」
ようやく目を覚ました神様は、色っぽい声を出した後、硬直した。
真っ赤になっていく。なんだよこれ、どういう反応なんだよ。俺は怒っているんだと理解して良いのか? それとも、都合良く解釈して良いのか?
とりあえず、腕に力を込めた。今だけでも良いから、絶対に手放したくなかった。
「目、さめた?」
「あ、ああ……え、あの……僕……」
「ん?」
「……本気で好きだから。いつもお前は冗談で言ってたんだと思うけど、僕はお前のことが本気で……」
「俺が冗談? 冗談なんか何も言ってないですけど」
「本当に……?」
神様が泣き始めた。俺がどうしたらいいのか分からなくてもっともっと抱きしめたら、腕を神様に掴まれた。力、弱いなぁ。こんなに華奢だったんだ。なんか、もっと大きいイメージあったけど、今は何かこう、折れそうな感覚。
「僕のこと、好きか?」
「ああ。好きだよ」
「僕のこと……愛してるか?」
「愛してるよ」
俺の答えに更に神様が泣き始めた。気持ち悪いと思われているのだろうか。震え始めてしまった。どうしたら良いんだろう、俺は。
「僕も好きだ、愛してる」
嗚呼、なんか幻聴が聞こえた。だけど、それでも幸せだから良いか。
それから次に転生するまでの間、俺達は一緒に暮らした。
するまでの間って言うか、今も一緒に暮らしているんだけどな……?
次はいつ俺は何に転生して、何に成り代わられるんだろう?
よく分からないが、幸せだから良いかと思うことにした。
「だから、どこででもキスをするなって言ってるだろう!!」
今日も真っ赤な顔で怒られるんだけれど、幸せなんだ。嗚呼、大好きだ。俺の神様。
そうして俺は、再びキスをする。
なんだそれで良いんだと思ったんだ。
これが実のところ、俺の転生生活&成り代わられ生活の終わりだったんだけどな。