深刻な穴不足です。
「この馬鹿息子――!!」
父上が怒鳴っている。ちょっと朝帰りをしたくらいで、なんだっていうんだよ本当……。こっちは二日酔いで頭がグワングワンするんだから、大きな声を出さないで欲しい限りだ。
「お前はそれでも、このワーレイ男爵家の三男だという自覚はあるのか!?」
男爵家とは言うが、祖父が商人で、一発鉱山で魔石を掘り当てて加工し、その功績を国王陛下に認められただけの成金だ。我が家に由緒もへったくれもない。
「聞いているのか、ヴェス! お前は今年で二十一。成人もとっくに迎えている。それが仕事も疎かにしてフラフラと……」
そんな事を言われても困る。俺が暮らすこのベリル村は、ど田舎のため、仕事がない。二人の兄上も、父上の手伝いをしている。一人は王都に出て貿易を、もう一人は魔石の加工職人になった。
俺はといえば、小さな畑を与えられたので、毎日鍬を持っている。が、鍬は重いので、俺は毎朝、柄を握って満足し――村唯一の酒場に繰り出す毎日だ。毎日、記憶が飛ぶくらい酒を飲んでいる。それしか楽しみがないのだ。
……俺だって、これでも最初の頃は頑張ろうと思っていた(三ヶ月くらい)。しかし十八歳で畑仕事を始めた三ヶ月後から、運が悪い事に、このベリル村には、深刻な水不足が訪れた。雨が全く降らなくなってしまったのである。食物が全く育たない。
父上の商会を経由して、村には輸入した食べ物や飲料水が届くから、大多数の人々は生きてはいられるが……それで収入を得るのはとても無理だ。
我が家は、十八歳になると一人前と見なされて、一定の資産を分与されて、あとは好きに生きろと言われる。だから俺は畑を買って残った貯金を切り崩しながら、毎日やけ酒を飲んでいるという次第だ。ま、まぁ、もう三年も酒を飲んでいるから、お酒自体が好きなんだと思う。
自分でも贅沢だとは思う。農業一本で生きてきた村人の中には、栄養が行き届かなかったり、流行病にかかっても薬代が出せなくて、亡くなってしまった人がいるのも知っている。村には最近、孤児も増えた。父上がだいぶ支援をしていて、この前も孤児院を建てていた。俺とは違い、父上は良い人物である。
人は俺、ヴェス=ワーレイを、放蕩息子と呼んでいる。
勿論、悪口だ。
けれど優秀な兄上達とは違って俺は頭も悪く、算学も苦手だから、毎日酒に逃げているのである。だって美味しいし、酒場の奴らはみんな気が良く優しいし。
「私は会合に行ってくるから、きちんと酒を抜いて、畑仕事に精を出すように!」
激怒した顔つきのままで、父上が出かけて行った。俺は玄関に座り込み、そのまま床に突っ伏して眠ってしまった。本当、飲みすぎた。
「ヴェス! ヴェス!!」
「ん……」
揺り起こされて薄らと目を開くと、そこには父上の顔があった。どうやら会合から帰ってきたのだろう。それまで眠っていたとは……やっちゃったなー! 俺は怒られる事を覚悟した。だが、俺の両肩を、指が食い込むほど強く握った父上は、泣きそうな顔で唇を噛んでいる。
「……? 別に飲みすぎて倒れたとかじゃなく、寝てただけだぞ?」
「分かっている。お前はザルだからな。その細い体に、樽ごと入るのが不思議でならない」
「じゃあどうしてそんなに顔色が悪いんだ? 何かあったのか?」
俺が尋ねながら体を起こすと、俺から手を離した父上が真剣な目で俺を見た。
「雨が降らなくなって、早三年。分かっているな?」
「まぁな。俺の畑も干からびているからな」
「――村のしきたりに乗っ取り、水の魔神に生贄を差し出して、雨乞いをする事に決まったのだ……」
「は?」
「厳正なくじ引きの結果……ヴェスが選ばれた」
「いや、そんな大切な事を、くじで決めたのか? って、俺? え? 生贄って何をするんだ?」
そもそもそんなしきたりがある事すら、俺は知らなかった。俺には学がないのだ。家庭教師の先生が来ても、いつも逃げ出していた。
「白い服を着て、山の上の神殿の最奥に行くようだ」
「それから?」
「それしか伝わっておらん。だが、行った者は、二度と帰ってこないそうだ」
「山の上? って、あの小さな丘だろ? 神殿跡もあるしな。徒歩二時間って所なのに、帰ってこられない? どうして?」
首を捻っていた俺の前で、父上がついに涙ぐんだ。
「大切な息子を生贄に差し出すなど、心が張り裂けそうだ」
「そうか。じゃあもう一回、会合を開いて取り消してきてくれ」
「もう決まった事なのだ……ヴェス。これも村のため。生贄となってくれ」
俺は返す言葉を探した。
しかしその日の内には、俺のために白いローブが用意され、数日分の食料が詰まった鞄を手渡された。館の者も村の者も泣いているが、誰も俺が生贄になる事を止めない……止めろよ! 『ご武運を!』と言われたが、戦う予定もないし、そもそも行きたくない。
しかし――雨が降らないままじゃ、確かに困る。俺は帰ってこられるとタカをくくっていた事もあり、同時にしきたりとやらの正体も気になったので、素直に山(丘)に入る事にした。木々がポツポツ立っている間の細い坂道を進んでいく。
幸い二日酔いが収まってきた、夕暮れの事である。
約二時間ほどかけて朽ちかけている神殿へと到着した俺は、蔦が垂れ下がっている入口を見た。中には瓦礫が散乱している。奥に地下へと伸びる階段が見えたので、俺はとりあえず中に入る事にした。ろくに説明すら受けていないが、父上は『最奥』と言っていたのだから、一番奥を目指せば良いはずだ。
階段を下りていき、地下一階に出ると、荒れた地上一階とは異なり、青緑色の石が規則正しく、床と壁と天井を構築していて、壁にはロウソクが点っていた。ロウソク……だと思うのだが、その色は水色だ。たまに青い火も存在するが、何というか……水が揺れているように見える。ただ、明り取りになっているし別にいいか。
そのまま進んでいき、更に階段を見つけては下るという動作を繰り返した。
すると大きな広間に出た。
「ん」
そこには、水色に金の模様が描かれた布がかかっていて――その上に、長身の青年が寝ていた。もしや、俺の前の生贄? いいや、それにしては、身なりが良すぎる。大体、俺が生まれてからは、生贄なんて一回も無かったはずだから、きっとこの人物は……いや、人? これがあれか? 水の魔神とやらか?
近寄って、俺はまじまじと青年(?)を見る。長い睫毛をしていて、目の形は綺麗なアーモンド型だ。整っているなぁと思いながら、俺は更に顔を近づけた。
「!」
するとその時、彼が目を薄らと開けた。ビクリとした俺が反射的に体を退こうとすると、俺の後頭部に大きな手が回った。
「え、ちょ――ン!」
そのまま気づけば、俺は口腔を深々と貪られていた。え、何事? そう思ったのもつかの間の事で、丹念に歯列をなぞられ、舌を絡め取られると、すぐに思考が停止した。お口が、あんまりにも気持ち良かったのである。
「ん、フ……っ、ッ」
舌を甘く噛まれると、体の芯がツキンとした。俺はキスに即落ちしていた。巧い。うますぎる。一度口が離れ、角度を変えて、再び口づけられる。俺の思考がぼんやりとし始めて、呼吸が上がり始めた頃、漸く唇同士が離れ、そこには透明な唾液の線が繋がっていた。俺はちょっと勃ってしまった。半勃ち状態で、俺は真っ赤になりながら相手を見る。
「な、な、何するんだよ!」
しかし抗議する事は、忘れなかった。これは挨拶のキスとはレベルが違う代物だ。
「やっと来たか」
「へ?」
「深刻な穴不足で、力が使えず身体機能を落として眠りについていたのだが」
「?」
深刻な穴不足? なんだそれは?
「いやあの、俺は深刻な雨不足で。ナとメじゃ、だいぶ意味合い、違わないか?」
「雨不足か。それは当然だろう。水の魔神が、雨の制御をしている。その魔神が眠りに付けば、自ずと摂理が崩れる」
「つまりお前がスヤスヤ寝てたから、俺の畑は枯れちゃったって事か?」
思わず俺が目を細めると、水の魔神(自称)は、上半身を起こして、俺をじっと見据えた。
「水の魔神が代替わりをしたら、穴を提供するというしきたりを失念していたのは、そちらの過失であり、落ち度ではないのか?」
「代替わりっていつしたんだ?」
「五年前だ。代替わりをすると、村長宅に託した水の魔石が輝く魔術がかけてあったはずだが?」
それを聞いて、俺は青ざめた。村長様の家にあった水の魔石は、俺が十二歳の時、遊びに出かけて落っことして、割ってしまったのである……。
「その後二年は、残った力で、我は我なりに雨を降らせていたが、三年前ついにその力も無くなり、眠りに就いたのだ。穴がなければ、魔神は魔力を維持できぬからな」
「穴って、なんだ?」
「人間の体液を吸い取る穴だ」
「!? エグっ! そ、そ、それって、血を吸うとかって事か? お、俺、無理! どこにも穴、空いてない!」
思わず両腕で体を抱くと、魔神が首を振った。
「主に精気を吸収するんだ。お前、名前は?」
「ヴェス。魔神の名前は?」
「我はユリシスと言う。人間に分かりやすいように端的に言うのであれば、人間にとってのSEXを行うという意味だ。我のモノを突っ込んで、そこから吸収する」
「穴ってそういう事? つ、つ、つまり、ヤるって事か?」
「そうなるな」
淡々とユリシスが、俺に告げた。俺の理解が追いつかない。
「それは人間じゃないとダメなのか?」
「魔神同士が交われば、魔力量が強すぎて天変地異が起きるからな」
「ヤギとか」
「獣姦の趣味は無い。せめて、意思疎通が可能な人型である、人間が望ましい」
俺の言葉に、ユリシスの目が据わった。完全に呆れている顔だ。
「眠りにつく前の禁欲生活が、どれほど辛かったかお前に分かるか? 即位するまでは、魔神は他者との交わりも禁じられている。水の魔神の位を襲名するまでの二百年と、即位してからの二年間、我はずっとずっと……乾いていた」
「つまり童貞?」
「……」
「その割にはキスが上手いんだな?」
「イメージトレーニングは万端だ」
まぁ俺もお酒ばっかり飲んでいるせいで、誰も相手にしてくれなかったので、童貞であるから、人の事は言えないかもしれないが。
「魔神って、寿命が長いんだな。大変だったな、その間ずっと右手が恋人だったなんて。俺なんて二十一年間も右手さんと付き合ってるけど、段々別れたいもん」
「魔神と交われば、その穴もまた、不老となる。代替わりを決め、二人で魔界に隠居する事になるまでの間は、この村と魔界の狭間の異空間の『城』において暮らす事となる。今後は、我を恋人とし、穴としての役目を果たすが良い」
「恋人=穴っていう表現についていけないわ」
「穴は穴だ。来ればわかる」
「どこに?」
「異空間の城だ」
そう言うと、ユリシスが指をパチンと鳴らした。すると俺は、まるで深海のような場所にある宮殿の前に立っていた。ポカンとしていると、ユリシスが俺の背中を押す。直後、正面の扉が音もなく開いた。促されるがままに中に入り、俺は目を丸くする。
「なんだこれ?」
そこには、確かにまごうことなき『穴』があった。
四角い大ホールの一角の壁に、穴があるのだ。他には寝台と、別室に続くのだろう扉しかない。
「とりあえずトイレは? 俺ちょっと抜いてきたい気分で」
「この床の魔法陣には体内をきれいにする魔術が込められていて――抜いて?」
「あ、いや……」
まだキスの抜群の威力が残っているので、俺は引きつった笑みを浮かべるしかない。
「とにかくあの穴に、上半身をいれるのだ」
「それで?」
「ぴたりと尻を突き出す形に、壁が変形する」
「は?」
「以後、お前は、我専用の穴となる」
「ちょっと待て、おかしいだろ。壁尻? お前さっき、恋人が云々言ってなかったか?」
「? 恋人とは穴だ」
「つまりユリシスは、俺を穴だとしか思ってないって事だな」
いっそ潔い。思わず俺は笑顔を浮かべてしまった。すると神妙な顔に変わったユリシスが、少し困ったような様子になった。
「……だって、そうしなければ、帰ってしまうであろう?」
「へ?」
「我はもうこの場において、一人で過ごす事もまた、嫌なのだ。両親が魔界に隠居後、我はずっと独りきり。物言わぬ使い魔がいるのみだ」
しゅんっと、寂しそうな顔になったユリシスを見ていたら、俺の胸が僅かにズキンとした。俺も母が亡くなった直後は、とても寂しかった記憶がある。
「ちなみにお前の両親も、片方がここで穴役をして、もう片方が突っ込んでいたのか?」
「いいや、我の父である前水の魔神と、産みの父である前生贄は、そこの寝台を使っていた。隠居時に、ベッド自体は新しい品を買いおいていったのだが」
「産みの父? え? 男同士で子供が生まれるのか?」
「簡単に言えばそうなる。魔神とは、強い魔力の塊が知性を持った存在であるから、人間のように母体を必要としないので、性別は問わない」
「へ、へぇ……」
思わず俺は頬を引きつらせた。ユリシスはそんな俺を見ると、小さく首を動かした。
「我も本音を言えば、仲睦まじく暮らしたい」
「じゃ、じゃあさ? そうしよう? な? 俺、穴とか嫌だ」
「だが、更に本心を述べるのであれば、早急に突っ込みたい」
「ただヤりたいだけじゃねぇか!」
「先ほどの口づけで、僅かに魔力が戻ったとはいえ……早く体を繋がなければ、いつまた魔力が枯渇するか……と、いうのは兎も角として、とにかく、とにかく! 挿れたいのだ! 頼む! 一発、とりあえず一発、我に抱かれてくれ!」
ユリシスはそう言うと、床に手をつき土下座した。非常に複雑な心境で、俺は片手で両目を覆った。
「そうすれば、雨が降るのか?」
「約束しよう」
「俺をそこの穴に入れないと誓うか?」
「それは……と、とりあえずは」
「……い、痛くしないか?」
「魔神の魔力には、人とのSEXを容易にする力が備わっている。問題はないはずだ」
そ、そうだな。俺はそもそも生贄としてきたんだから断る権利はないし、あんなにキスが上手いんだから、大丈夫だよな? まだ俺、ムラムラしてるしな……なんだか、体がちょっと熱いのだ。
「俺は、どうすれば良い? 服を脱げば良いのか?」
「寝台に座ってくれ。あとは、我に任せれば良い」
「イメージトレーニングしかしてないんだろ? 本当に大丈夫なのか?」
苦笑しながら、俺は言われた通りにする。結果、そのまま性急に押し倒された。服の下に、ユリシスの長い指先が入ってくる。その手が、俺の乳頭を掠めた瞬間、俺の体がピクンと跳ねた。
「え、何?」
まるでローションでも指につけているかのように、トロリとした何かが乳頭を刺激したのだ。瞬間、俺の腰が熔けた。
「水の魔力だ」
「ぁ、ァ……あ、あ、それ、それダメだ」
ヌルヌルした指先で、ユリシスが俺の左の乳首を捏ねたり摘んだり、甘く弾いたりする。その度に、ゾクゾクと異常なほどの快楽が背筋を駆け抜ける。すぐに俺の陰茎はガチガチに反応し、先走りの液が零れ始めた。おかしい、これはおかしい。ちょっと乳首を触られたくらいで、こんな風に体が蕩けてしまうなんて変だ。
困惑している内に、ユリシスに服を乱されていた。気づけば一糸まとわぬ姿で、俺は寝台の上で震えていた。そんな俺の首筋を、ぺろりとユリシスが舐める。その感触にまで感じ入り、俺は涙ぐんだ。
「やぁ、ゃ、ァ……ああああ!」
快楽が染み込んでくる。触れられている箇所の全てが熱い。俺は陰茎も、それこそ穴も直接は触られていないというのに、放っていた。そのままぐったりと寝台に沈んだ俺は、必死で呼吸をする。
「ん、フ……ふ、ぁ」
するとユリシスが、俺の顎を掴んで、強引にキスをしてきた。やっぱり、お口が気持ち良い。舌を蹂躙される刺激だけで、再び俺は勃起した。長い口づけが終わった頃には、俺の唇の端からは、タラタラと唾液が零れていた。
「ひ!」
ユリシスが、二本の長い指を、一気に根元まで俺の後孔に突き立てる。痛みもなにもなく、それはすんなりと入ってきた。やはりヌルヌルしている。
「あ、あ、あ」
ぐちゅりぐちゅりとその指をかき混ぜるようにされた瞬間、俺の理性が吹き飛んだ。
「あ――!!」
このまま弄られたらどうなってしまうのだろうと未知の快楽に恐怖した瞬間、前立腺をコリコリと刺激され、俺は泣きじゃくった。再び俺は射精していた。しかしユリシスの指の動きは止まらず、激しく抜き差しを始める。時に弧を描くようにしながら、どんどん俺の最奥までを暴こうとしている。
「だめ、あ、もう出ない」
「水の魔力で、何度でも果てられる穴に作り替えたから、問題はない」
「嘘だろ……ああああ、体熱い、やぁ、なんだこれ、あ、あ、あ」
ユリシスが漸く指を引き抜くと、巨大な肉茎の先端を俺の菊門にあてがった。それを見て、一瞬だけ俺は我に返った。とてもじゃないが、人間のサイズではない。
「え、え? は、挿るわけな――うあああああ!」
しかし俺の言葉など聞く訳もなく、ユリシスが俺に逸物を突き立てた。そして激しく腰を打ち付け始める。満杯になってしまった中は、動かれる度、前立腺も結腸も刺激されているような状況になり、俺は再び何も考えられなくなる。打ち付けられる都度、俺は前から白液を放つ。こんなに出るなんて、人生で初めての事だ。というか、普通は出るはずがない。本当に俺の体は、おかしくなってしまったようだ。
「あ、あ、気持ち良……気持ち良い、うあああ、だめ、だめだ、ああああ」
「っ、そうか。それは何よりだ」
俺の言葉を聞いた瞬間、俺の内側でユリシスの欲望が爆ぜた。膨大な白液が、俺の中へと注がれたのが分かる。脈動する肉茎が、俺の内側で動いていて、俺の肉壁はそれを締め上げている。
ユリシスが俺から陰茎を引き抜くと、コポと音を立てて、大量の精液が零れたのが分かった。俺は汗ばむ体で、ユリシスを見上げる。するとユリシスが、俺の体を反転させ、今度はバックから貫いた。思わず俺はシーツを握り締める。そんな俺の腰骨を掴み、先程までとは一転して、今度はゆっくりとユリシスが動き始める。
「あ、ぁ……ァ」
それが焦れったくて、俺はかぶりを振り、むせび泣く。
「や、もっとさっきみたいに――あ、あ」
「激しい方が好みか?」
「だって、あ、あ、変になる。体熱い。そこ、そんな風に突かれたら、頭が真っ白に……あ、ああああ!」
ユリシスが俺の陰茎に手をかけ、扱きながら、ゆっくりと突き上げてきた。あまりにも快楽が強すぎて、俺はそのままビクビクと震えながら放つ。
この夜俺は散々果てさせられて、ユリシスもまた何度も俺の中を染め上げた。
抱き潰された俺が次に目を覚ますと、体が綺麗になっていて、寝台で毛布にくるまっていた。隣を見ると、着替えて座っているユリシスがいた。
「お前、絶倫だな」
「目が覚めたか。魔力が欠乏していたからな、堪えられなかった」
果たして本当に魔力の問題なのだろうか? 俺には童貞のイメージトレーニングの結果が爆発していたようにも思えたが、あんまりにもユリシスが良い笑顔で笑っているので何も言わない事に決める。
「雨はどうなった?」
「ああ。きちんと、約束した通り、降らせておいた。お前が我に精気を提供してくれる度に降らせよう」
「つまり月に三回くらいか?」
「え」
「え?」
「毎日ではないのか?」
「いやそれじゃあ逆に洪水が発生するだろ!」
俺の言葉に、ユリシスが腕を組んだ。そして唸った。
「では、毎日抱いて、魔力を蓄え、必要時にだけ適量を降雨させよう」
「それでよろしくお願いします」
と、とりあえず、これで俺の生贄としてのお役目は、成功か? と、考えつつ、俺はまだ体が怠かったので、二度寝する事に決めた。次に目を覚ますと、ユリシスが勝手に俺に陰茎を突っ込んでいたので、俺は快楽に泣きながら抗議したのだが――すぐにそんな毎日が日常に変わった。
――しかし、本当にここには、会話可能なのはユリシスしかいない。食事の準備などは、動物みたいな形をした使い魔がやってくれるのだが、喋るわけではない。ここに一人ではさぞかしユリシスも寂しかっただろうな。
次第に俺は、穴としての生活に慣れ始めた。不思議と、やるべき事(SEX)があるせいなのか、酒は滅多に飲まなくなった。代わりに、毎晩どころか昼夜問わず抱かれまくってはいるのだが。
その内に、俺はユリシスが愛おしく思えてきた。決して体を絆されたわけではない。寂しそうな顔を見たり、時折魔石で村の様子を見たり、雨の具合を管理する仕事をする姿が、率直に言って格好良かったのだ。
……しかし、ユリシスは、俺を『穴』としか思っていないはずだ。穴のルビが仮にコイビトだとしても、俺の考える恋人とはきっと異なるはずだ。俺はあくまでも生贄なのだろう。そう考えると、辛い片思いの始まりだった。
そんなある日の事後、俺の髪を撫でながらポツリとユリシスが言った。
「ヴェスは、生贄に選ばれてしまったから、雨を降らすために仕方がなく我のそばにいるのだものな……」
「へ? な、なんだよ急に……」
「我は、最近ヴェスが大切で、愛おしくてならないのだ。ヴェスが笑っている顔を見ると幸せな気持ちになって、ヴェスが時々物憂げな顔をしていると辛くなる。もしや、帰りたいのかと思ってな……」
「か、帰りたいわけじゃ――……って、え? それって、つまり、どういう事だ?」
俺が目を丸くすると、ユリシスが俺の唇に触れるだけのキスをした。
「ヴェスが好きだ。愛しているという事だ」
「!」
それを耳にした瞬間、俺の心は満たされた。思わず笑顔を浮かべて、俺はユリシスに抱きついた。
「俺も、ユリシスを愛している」
どうやら俺達は両片思いをしていたらしい。
俺の声に、ユリシスが硬直した。ちらりとその表情を見れば、真っ赤だった。
その後俺達は、何度も啄むようなキスを繰り返し、この夜は体を重ねるでもなく、ずっとお互いの事を話していた。
「なぁユリシス。帰りたい訳じゃないけど、父上に手紙を書きたい」
「ああ、構わない。我の産みの父も、よく外界と手紙のやりとりをしていた。使い魔が届けてくれる」
それを聞き、俺は頷いた。
さてその翌日、俺は早速下手くそな文字で、手紙を書き始めた。
「ええと……俺は元気です。水の魔神は良い人で、結婚します。生贄扱いは、今現在、受けていません。それとお酒もやめました。俺の事は心配しないで下さい――こんな感じか?」
うんうん唸りながら、俺はたった数行を書くのに二時間かけた。
それを封筒に入れて、蝋印し、使い魔に持って行ってもらうと、父上からの返事が数日後に届いた。
『酒をやめた事、本当に何よりだ。お前の体の健康を一番に願っている。しかし、結婚? 水の魔神は女性型なのか? 孫が出来たら、見せに来るように。あるいは私を見に行かせるように』
その手紙をユリシスに見せると、小さく両頬を持ち上げていた。
「義父殿となるわけだな。我にとっても家族と同じ」
「この返事には、きちんと男だって書いておいた」
「しかし、子か。いつか、作るとするか。今暫くは、ヴェスと二人の時間を楽しみたいが」
俺を抱きしめながら、ユリシスがそんな事を言った。
現在俺は、非常に幸せである。
――このようにして、深刻な雨不足の原因だった、深刻な穴不足は解消されたのだが、現在俺は、ユリシスの恋人に収まり、穴とは呼ばれなくなった。もう穴のルビがコイビトなのではないようである。
(終)