ラビットソウル――My Dear Valentine.
二月十六日――バレンタインから、二日も経過してしまった。
だけど僕のリアルは空虚なので、問題はない。
問題があるとすれば、今月いっぱい続くVRMMORPGのバレンタインイベントのクリアについてだ。僕がプレイしている【ラビットソウル】というゲーム……僕にとってこのゲームは、ライフワークである。
リアルには友達は一人もいない僕だけれど……ちなみにゲームの中にもフレンドは、実を言えば少数しかいない……。フレンドリストは、フレンド登録した相手がログインすると光り輝く仕様なのだけれど、全然光らない……。
リアルでもゲームでも、コミュ障の僕は、ぼっち力が極まっている……。
だからこうしてゲームのイベントが来た場合でも、基本的に、単独(ソロ)で討伐してばかりだ……。
ここで問題となってくるのは、討伐相手のボスが強かったり、ギミックが複雑なクエスト内容の時だ。それも基本的に一人でこなしている僕は、端的に言って……とても寂しい。
それでも僕はくじけない。
例え、ゲーム内ですら、アイテムのチョコを貰えなかったとはいえ、イベントとはクリアするものなのだから……!
課金アバターに身を包んだ僕は、帽子をかぶりなおした。現在の髪色は銀にしている。現実では黒だけど。
「よし、やるか」
嘆息してから、僕はあと二週間以内にクリアしなければならないイベントクエストに望む事にし、イベント会場のフィールドへと向かう事にした。僕の職業は、闇魔導師(ウィザード)だ。色々とソロが厳しい、本来はパーティ職なのだけれど、ぼっち力が極まっているので、一人でも戦える装備は大体そろえた。
本日の敵は、このゲームのイメージキャラクターでもある、モンスターラビットの中でも、ブランデーラビットと呼ばれるバレンタインの時にしか倒せない相手である。ドロップするレアアイテムは高値で売れる。
「いざ!」
一人気合いを入れなおしてから、僕は討伐を開始した。ブランデーラビットを十五分かけて一人で倒してから、ボスブランデーラビットの討伐には一時間かけた。
こうやってゲームをしていると、一日は本当にあっという間だ。
僕はリアルからは目を背けてゲームで生きているので、大抵毎日がゲームをして終わる。
「あの、すみません」
クエストを三つほど進め、午後の十九時を少し過ぎた頃、不意に僕は呼び止められた。視線を向けると、そこには一人の青年が立っていた。
「はい?」
ゲーム内ですら滅多に人には話しかけられないので、ちょっと声が上ずってしまったが、僕は頑張って返事をした。だってこのフィールドには、現在僕達二人しかいないし。
「もしかして、【イオ】さんですか?」
――僕のキャラ名である。なお本名は、唯織(いおり)だ。
「そうですけど……?」
「ピアスとリボン、どちらもレアで持ってる人がイオさんだけだって聞いてたから、もしかしたらって思ったら……ほ、本物……」
「ああ、なるほど」
僕は納得して頷いた。このゲームには、レイドがあるのだが、そこで最高火力を出したキャラクターに贈呈されるアイテムは、ゲーム内に唯一無二なので、僕しかもっていない。レイドは年に一回、このゲームは今年で三周年で、まだ三回目のレイドは行われていない。
「俺、【リョウガ】って言います」
「はぁ」
「今年は、俺がレイドでトップ取るんで」
笑顔でニッと青年が笑った。
急に声をかけてきて、早速の宣戦布告に、僕はイラっと――……するようなオリハルコンメンタルは持ち合わせていないので、普通に怯えた。何この人、怖い……。
「そ、そうですか」
「ああ。良かったら、勝負しませんか?」
「し、しません」
「えー。俺なんて相手にする価値もないと?」
「そうじゃなくて、ああいうのは、自分との勝負だから……」
「わー、ストイック」
「……」
僕は、目を輝かせている青年を改めてみた。
アーモンド型の瞳は青で、黒い髪をしている。僕より長身だ。VRMMORPGは、基本的に身体情報を取得するので、身長をはじめとした体型と顔立ちは、現在の技術では弄る事が出来ないらしい。変更可能なのは髪色や服装くらいだ。リョウガと名乗った青年は、そこを行くと、非常に精悍で整った顔立ちをしている男前だ。どちらかというと僕は痩せ気味なので、殴り合いのPK戦にでもなったら、一瞬で負ける自信しかない……。
PK機能は、プレイヤー同士の殺し合いだ。このゲームは、死ぬと最寄りの街の教会で復活する。
「でも噂には聞いてたけど、イオさんは美人だな」
「……」
「良かったらフレ良いですか?」
「え」
思わず声を出すと、僕の目の前に、フレンド登録画面が出現した。
反射的にOKを押してしまう。
「有難うございます」
「い、いえ……」
「俺、剣闘士(グラディエーター)なんで、前衛火力だから、壁も出来るし、闇魔導師とはスキル的に相性良いですよ」
「そ、そうですね」
実際それは事実だった。パーティを組む場合、キャラクターの職業ごとの相性というのは確かに存在する。このラビットソウルの場合は、剣闘士と闇魔導師の組み合わせは、最強の組み合わせの内の一つだ。
「良かったら、一緒にイベントしませんか?」
「……」
「次のボス、闇魔導師のソロはきついと思うぞ、俺」
「……」
それも攻略情報を見た限り間違いはない。僕は返答に窮した。
ただリョウガの距離の詰め方が早すぎて、困惑の方が強い。
そう思っていたら、早速パーティ申請が飛んできた。こちらも思わずOKを押してしまった僕は、押しに弱くとても流されやすい性格だ。
「ほら、行くぞ」
リョウガは両頬を持ち上げて笑ってから、歩き始めた。僕は二度瞬きをしてから、意を決してその後を追いかけることに決める。他人と話す緊張感が強くて、胸中はドキドキしっぱなしだった。
その後僕達は、ブランデーラビットUを無事に討伐した。
これが、僕とリョウガの出会いだった。
その後、長時間ログインしている僕に匹敵するくらい、リョウガもイン率が高いプレイヤーだと僕が知ったのは、毎日挨拶のヴォイスチャットが飛んできたからだ。気づくといつしか、毎日一緒にバレンタインベントをしていたし、その内に、ホワイトデーイベントや、通常ボスの討伐も一緒にするようになった。
この年のレイドが開催されたのは八月で、初対面時の宣言通り、リョウガが僕を抜いて一位になった。僕は二位だったけど、この頃になると、リョウガを大切なフレだと思うようになっていたから、素直に祝福できた。
「これで、やっと対等になれた感じがする」
レイド後、リョウガに言われて、僕は思わず笑ってしまった。
別に強さや限定アイテムで、対等かどうかが決まるわけじゃないと思うし、僕はもずうっとリョウガを大切だと思っていたけれど、なんとなく嬉しかった。
「これからも宜しくな」
初回一位の特典がピアス、二回目一位の特典がリボンだから、現在僕とリョウガの耳には同じ黒いピアスが嵌っている。
「こちらこそ」
僕が笑うと、リョウガも笑顔になった。
そんな風にしていると一年はあっという間で、クリスマスイベントを経て、正月イベントも共にこなし、そうして再び出会った季節、バレンタインイベントの期間が訪れた。
現在、二月十三日。
僕は――実は、ひっそりと、ゲームアイテムのチョコを用意していた。
VRが普及してから、実性別に問わない恋愛は、仮想現実でもリアルでも主流になりつつある。だから、男同士でチョコを上げるのは、決して珍しくはない。その事実がありがたかった。一日の大半をリョウガと過ごす内に、僕はあっさりと、片想いするようになってしまったのだったりする。
リョウガはフレも多いし、一緒にいると分かるが、老若男女にモテる。
多分僕が、レイド一位を二回取っていなかったならば、リョウガは僕の事なんか気にも留めなかっただろう。その点で僕は、ゲームを本気でしてきて良かったと思っている。
今は、十三日の23:59だ。
僕とリョウガは二人で、酒場で雑談をしている。明日から始まるイベントの打ち合わせだ。だけど僕の気はそぞろで、その時を待った。するとあっさり日付が変わった。
そこで僕は、わざと手紙機能のタイトルに【義理チョコ】と書いて、本文に【今年もよろしく】としたためて、アイテムをリョウガに送った。
――すると。
リョウガが沈黙した。
きっと大量に届き始めたからだろうなぁと眺める。僕は今年もゼロ個だろうなぁ。
「……なぁ、イオ」
「ん?」
「……義理、か」
「へ?」
「……本命は、誰かいるのか?」
そんなのはリョウガだけれども、伝えてこの関係が壊れるのが何よりも怖い。
「いないけど」
「俺、は……その、ずっと言いたかったんだけどな」
「うん?」
「イオの本命になりたい」
「え?」
「義理ならいらない。本命チョコをくれ。先に言うけどな、これは冗談ではなく、本気」
リョウガの顔が真剣なものに変化した。僕は息を呑み、目を見開く。
「そ、それって……えっと……リョウガは……僕の事を――」
「好きだ。鈍いとは思ってたけどな、言わないと分からないか?」
「分からないよ!」
「どれくらい好きかというと、リアルで恋人になりたいくらい好きだ」
「っ」
「イオは、俺の事はそういう風には見られないか?」
「そ、そんな事ないというか……え、本当に?」
まさかの、両想い……? 逆にそれが信じられない。
「本気だ」
「……僕も、その……好きだけど……」
「本当か? じゃ、俺の恋人になってくれるか?」
「……なりたいけど……」
「けど?」
「リアルで会う自信は無いよ……」
「どうして?」
「髪もゲームと違ってボサボサだし、服もアバターと違って滅多に買わないし……」
「全然気にならない」
「絶対嫌われる」
「俺を信じてくれ」
「……本当に嫌いにならない?」
「別に俺は、お前の外見やアバターに惚れたわけじゃない。なんというか、お前強いのに、臆病で繊細で、守ってやりたくなるというか、俺がついててやりたい、って感じる所に惚れたんだよ」
リョウガはそう言うと、僕の頭を手で撫でた。嬉しくなって、僕は赤面した。
「明日、というか今日。会いに行ってもいいか?」
「え」
「俺は我慢できない。両想いと思っていいんだろ?」
「う、うん、僕も好きだけど……でも」
「じゃあ行く」
過去にも、同じ都内に住んでいる事は話していたから、実際会おうと思えばそれは困難ではない。だけど僕は本当に、リアルの外見は悲惨だ。
「という事で、今日は早く寝よう。明日の朝、お前の最寄りの駅に着いたら連絡する」
何処に住んでいるかは既に話していたから、実際それは可能だろう。
僕は戸惑いながらもうなずいた。
こうして揃ってログアウト後――僕は、慌ててクローゼットへと向かった。そしてマシな私服を探してみる。ゲームの世界で生きていたから、最後に購入したのは二年前だ。当時勤務していた会社用のスーツである……。
僕は退職後は、退職金を元手に資産運用をして生きてきた。チマチマと増やしているから、とても富裕層とはいえないが、ゲーム代金と生活費くらいはどうにかなっている。僕は慌てて、封を切っていないシャツを一つ見つけて、そのあとはネクタイの確認をした。え、スーツで良いよね? と、おどおどしてから、次に鏡の前に向かった。最後に髪を切りに行ったのは先月だ。僕はネットスーパーで買い物をしているので、月に一度の外出が髪を切る事である。そろそろいかないとダメだと思っていたくらい長い……。いつ買ったのか忘れたワックスを一瞥する。これをつけたらどうにかなるだろうか……?
この夜僕は、うーんうーんと悩みながら、一人眠れないままで過ごした。
しかし遅刻したくは無かったし、僕も会いたいという気持ちはあったので、翌朝八時に、駅へと向かった。待ち合わせは、十時だ。
『ついた』
トークアプリで連絡が着たのは、九時半の事だった。ハッとして返信してから、僕は周囲を見渡す。すると、すぐに一人の青年と目が合った。VRでは顔面造形は変わらないから、僕はすぐに、リョウガを見つけた。あちらも僕だと気づいた様子で、ニッと口角を持ち上げる。
「イオ」
「っ」
「――なんだよ、普通に美人さんだろうが。スーツっていう印象は無かったが」
「これしか服が……」
「俺は買い物デートに連れて行ってから、美容院に放り込むかも検討してたぞ」
「っ」
「冗談だ。少し、その辺で話でもしよう」
楽しそうな眼をしているリョウガは、洒落た私服姿で、瞳の色だけがゲームとは違い黒だった。そのまま僕達は、最寄りのカフェに入った。店内はバレンタインムード一色で、僕達はチョコレートのケーキと珈琲を頼んだ。
「イオは、本名は何て言うんだ?」
「唯織です……」
「なんで敬語なんだよ」
「う……緊張して……」
「俺達、歳変わらないだろ」
実際ゲームで年齢を聞いた限り、僕は二十七歳、リョウガは二十八歳で、学年が一つ違うだけだ。
「リョウガは、なんていうの?」
「本名が涼雅だ。カタカナにしただけだ」
「そ、そうなんだ」
「仕事は、土地を転がしてる」
「?」
「不動産の会社をいくつかやってる。名前だけの代表だよ」
「え、セ、セレブリティな感じ?」
「どうだろうなあ。一日中ゲームしていても食うには困らない程度は入ってくるけどな」
そんな話をしてから、僕達はプライベートについて語り合った。
僕はいちいち緊張していたから――ゲーム以上に、時が経つのを早く感じてしまった。
するとあっさりと夕方になってしまい、寂しくなってきた。
「ねぇ、涼雅」
「ん?」
「何時ごろ帰るの?」
「疲れたか?」
「そ、そうじゃないけ、けど、えっと……」
「帰りたくない。あるいは、唯織を連れて帰りたい」
「えっ」
「――駅前のホテルの、レストランに予約を入れてる。部屋も取ってある。一緒にどうだ?」
僕は眩暈がした。駅前にあるのは高級ホテルが一つきりで、一泊確か、最安値でも三十万円以上したはずだ……。
「俺は、もっと唯織と一緒にいたい」
「僕もいたいけど、割り勘は無理」
「俺が出す」
「それは悪すぎる」
「どうして?」
「どうしてって……」
「お前との時間が金で買えるなら安い」
僕は思わず両手で顔を覆った。ちょいちょい涼雅は、口説くような事を口にする。僕は、本当に現実でも愛されている感覚がして怖い。ゲームの中だけの関係はありふれているから、それで十分だと思っていたのに、ずっとこうして現実でもそばにいたくなる。
「ほら、行くぞ。俺に一人で飯を食わせるつもりか?」
「……お供します」
「おう」
こうして僕らは駅前のホテルへと向かった。
そこで食べたフレンチがまた美味で、僕は生きていて良かったと思ったが、それ以上に手慣れた様子でワインを頼む涼雅に見惚れた。長い指でグラスを持ち、酒を呷る姿が格好良かった。僕は会社員時代の新人研修で覚えたマナーを必死で思い出しながら、仔羊の肉を切り分けて口へと運んだ。なんだか、格差を感じずにはいられないので、やっぱり現実で付き合うのは難しいかなとも思う。いつか涼雅は対等といったけど、完全に現実では僕は下の方に位置している……。
「俺の部屋、二人用なんだ」
「!」
「ベッドは一つだけどな」
「っ!」
「チョコより欲しいものがあるんだけどな?」
「な……」
「恋人同士になったら俺は我慢は出来ない。で、俺達は、もうなってる認識でいいんだよな?」
「え、えっと……で、でも……」
「俺は現実の唯織の方が好きだぞ」
「……」
「部屋、来るよな? 泊っていけ」
涼雅の積極性は、ゲーム内と全く変わらなかった。僕は赤面してから、ギュッと目を閉じる。どうしよう、困る、嫌じゃない。
結局そのまま、僕は押し流されて、食後は涼雅の客室へと向かった。
ド緊張しながら、高層階の部屋で、僕はぎこちなく涼雅を見る。コミュ力ゼロの僕は、過去に告白された事はあれど、他者と付き合った事が一回もない。付き合いを持続できる自信が無くて、いつも断ってきた。本当に、涼雅だけが、特別に好きになってしまって、付き合うと言ってしまったのである。
「唯織」
正面から涼雅が僕を抱きしめた。その温もりに、さらに緊張しながら、僕はされるがままになる。
「お前を抱きたい」
耳元で囁くように言われて、僕はドキリとした。
「唯織が欲しい」
「……僕でいいなら」
「お前が良いんだよ。お前以外はいらない」
こうして、僕達の夜が始まった。
せめてシャワーをと言おうとした時には、唇を塞がれ、服を開けられ、それからすぐに巨大なダブルベッドへと押し倒されていた。涼雅が手慣れているのは明らかで、いつから用意していたのか、ローションを取り出すと、じっくりと僕の後孔を解し始めた。膝をついてバックの体勢で俺はそれを受け入れる。
「ぁ、ァ……ッ……」
丹念に丹念に解される内、じっとりと僕の体は汗ばんでいった。ローションの立てる水音が僕の羞恥を煽る。指は、一本から二本、三本に増え、その指先がバラバラに動き始める。
「あ!」
その時内部の感じる場所を、三本の指をそろえて刺激された。知識としては知っている。前立腺だ。思わず僕が背を撓らせると、気を良くしたように、そこばかりを涼雅が刺激する。そうされる内、いつの間にか僕の陰茎はガチガチに張りつめていた。
「そろそろ良いか」
「ん、ぁ……」
背後で、ゴムの封を破る音がした。それからすぐに、涼雅の屹立の先端が、僕の菊門へとあてがわれた。
「あ、あ、あ」
硬い質量が入ってくる。押し広げられる感覚に、僕は涙ぐみながら、シーツをギュッと掴んで耐える。
「ほら、やっと先が入った」
「あ、ぁ……んぅ……っ」
一呼吸置いてから、グッと涼雅が陰茎を進める。そのまま、根元まで突き立てられた。
「全部入った」
「あ、ああ!」
すると涼雅が腰を揺すぶり始めた。そうされると満杯の中に、快楽が響いてくる。どんどんスムーズに動くようになってから、涼雅が抽挿を始めた。奥深くまで貫いては、限界まで引き抜き、再びより深く僕を穿つ。次第にその動きが早くなっていく。
「あ、ああ、あァ! ア! ん――! っあア!」
僕は声を堪えられえなくなり、快楽から涙ぐみながら、大きく嬌声を上げた。すると涼雅の動きが一段と激しくなる。僕の腰をギュッと掴み、激しく何度も打ち付ける。そうされると僕の頭が真っ白に染まる。肌と肌がぶつかる音が響いている。
「出すぞ」
「ん――!!」
一際強く貫かれた瞬間、僕は放った。ほぼ同時に、涼雅も僕の中で果てたようだった。
「あ、は……」
ベッドにぐったりと僕が上体を預けると、僕から陰茎を引き抜き、隣に涼雅が寝転んだ。そして僕を抱き寄せた。
「最高のバレンタインだ」
「……っ」
「ただ、まだまだ足りない。今夜は、まだまだ長いからな?」
「え?」
「もっと唯織が欲しい」
こうして、二回目が始まった。
この夜、僕はバレンタインが終わり、朝が白むまでの間、ずっと涼雅の存在感を体に刻み込まれた。何度も何度も果てさせられて、僕は人生で初めてSEXの快楽を叩き込まれた。全身がドロドロになってしまい、溶けたチョコレートの気分が少しだけわかってしまったほどだった。
――そんな風にして、恋人同士になった僕達であるが。
四回目のレイドが開催された直後から、同棲している。
同性婚制度も整備されて久しいから、今は、入籍しようと、お互いの家族に挨拶をしたり、結納や式の準備をしているところだ。僕は呼ぶ友達もいないから、本当は結婚式はしたくないのだけれど、涼雅の家は古風らしい。僕の両親の方が、結納行事に焦って縮こまっていたほどである。
今日もそろって、僕達は、新居でVRMMORPGにログインしている。
R18制限コードを解除すると、ゲーム内でもSEXできる為、時々そちらで行為をする事もある。けれど大抵毎夜、涼雅は現実で僕を抱く事を好む。すっかり僕の体は、涼雅に開発されてしまった……。
最初はリアルが空虚だと思っていた僕だけれど、そのぽっかりと空いていた場所を、涼雅が今では埋め尽くしてくれた。今の僕にとって、無くてはならないのは、ゲームではない。変わらずラビットソウルは大好きだけれど、一番は、涼雅になった。僕は涼雅が大好きだ。
僕達は、次のバレンタインイベントが来る頃に、入籍しようと話している。
思い出の季節となった、大切な二月。
「もうすぐだね」
僕はラビットソウルのイメージキャラクターのラビットのぬいぐるみアイテムを抱きしめながら、目の前にいるログイン中の涼雅を見た。すると僕を見て、涼雅も微笑し頷いた。
「今年は、きちんと本命チョコをよこせよ? いいや、来年も、再来年も」
「うん、約束する」
こんな風にして、僕にとっての大切なバレンタインの季節が流れていった。涼雅の隣にいるだけで、僕は現在非常に満たされている。
【終】
こちらは「My Dear Valentine.」という素敵なイラストにSSつけさせて頂く内輪企画で書かせて頂いた作品です。