【2】新生・勇者パーティのメンバーとして、僕は出立した。



 こうして、即座に旅の準備が整えられて、新生勇者パーティが組まれる事となった。
 参加者は、勇者であり付け焼刃で剣士となったライト青年。
 次に、第二王子殿下のアルクス様。そして、大神官のマスティス様。
 最後に僕、魔術師であるジルバ=ナイトレイとなった。

 勇者ライトの第一印象は、それこそ、だるっとしていた。やる気の欠片も感じられない。長身で、ポケットに両手を突っ込んで、僕を面倒そうな顔で、見下すように見ていた。

 口だけでは、少なくともアルクス様とマスティス様は、やる気を見せた。
 六歳年上の従兄であるからアルクス様の柔和な笑顔が、完全に作り笑いで、中身は腹黒いというのを僕は知っていたが、「頑張りましょうね」と言われたら、悪い気はしない。マスティス様は、「回復しか出来ないので後方支援となりますが、全力を尽くします」と微笑していた。感じの良い人だった。

 早速僕らは出発するに至った。
 四人旅である――が、少し距離を置いて、新聞記者達や、各国の騎士団の人々が着いてくる。たった四人で魔王や、大量に居る魔族に立ち向かうなんて、自殺行為だ。しかし、勇者機密という扱いで、僕達四人の周囲には、風の結界魔術で、盗聴防止がなされている。どこで魔王の配下が聞いているかも分からないからだ。

 最初に魔族と遭遇したのは、出発した日の午後の事だった。

 僕は、何度かその魔族と戦闘した経験があった。
 魔族というのは、理性が無い凶暴な動物に似ている。時折僅かに知性は持っている。
 今回出現した魔族は、蟻に似ていて群れで行動する――どこかに女王蟻風の要の魔族がいるはずだった。僕は、それをパーティメンバーに説明した。実戦経験は、圧倒的に僕が豊富であると、自分でも理解していたからだ。

「文献でしか知らなかった。さすがはジルバだ。頼りになります」

 アルクス殿下に微笑され、俺は少し気を良くした。
 魔族を初めて目視したというマスティス様は、青い顔をして十字架を握り締めている。さて、どうするか。そんな思いで、僕は勇者を見た。するとライトが僕を一瞥し、頷いた。

「倒しておいてくれ」
「――へ?」
「経験豊富何だろう? これまで、一人で、アレ、倒してたんだろ? 一人で出来るんだから、お前、やっといてくれ」

 その言葉に僕がポカンとしていたら、アルクス殿下も微笑したまま頷いた。

「よろしくお願いします」

 え。
 そんな心境で、マスティス様を見る。

「怪我をなさっても、回復は僕がいますので」

 笑顔の二名、及び、気怠そうな顔の勇者に、僕はそのまま送り出された。
 ――ま、まぁ、初戦だし、ね。
 一人そう頷いて、僕は死神の鎌の柄を握った。地を蹴り、飛びながら魔術の呪文を唱え、鎌を振り下ろしながら、魔術を炸裂させた。行進していた巨大蟻(魔族)の群れが、消滅した。僕はその気配を辿り、単独で女王蟻(魔族)の元に向かい、巣ごと駆除した。

「さすが! 従兄として誇らしい!」
「無傷! お怪我が無くて良かったです!」
「へぇ。すっげぇな」

 帰還すると、三人に賞賛された。ま、まぁ、そう言われて悪い気はしない……。
 そんなこんなで、戦闘により、すっかり日が暮れていた。

「野宿、か」

 勇者がポツリと呟きながら、星空を見上げた。

「テント、設置しておいてくれ」
「僕……神殿から出た事が無いので、見てますね!」
「私も王宮から出た事が無くて……心苦しいけど、よろしくね! ジルバ!」

 三人が僕を見た。え。
 硬直した僕は、それぞれを見た。
 ――まず、階級的に、王族と、次期法王猊下に逆らうのは、僕には無理だった。
 次、ライトであるが、本来であれば彼は一村人に過ぎないし、彼が設置をするべきなのだろうが……彼は、勇者だ。伝説の勇者の再来だ……。

 ま、まだ初日であるし、迂闊に階級差別して怒らせる事も無いだろう。

 僕は単独で討伐に行く事にも慣れていたし、テントを一人で設置して野宿した事も多数ある……。みんなが慣れるまで、率先して設営すべきなのかもしれない。そう考え、意識を切り替えて、僕はテントを設置した。

 その間、彼らは食事の用意をするでもなく、テントを眺めていた。
 僕はてっきり、後方から着いてくる人々が、食事を持ってきてくれるのだろうと考えていた。テントに関しては、魔王の影響を排除するため、勇者パーティで独自に設置して、結界魔導具等を展開する事になっていたが、食事については聞いていなかったのだ。

「終わった。こんな感じでどうだろう?」

 僕が聞くと、勇者が顎で頷いた。

「良いだろう。じゃ、食事頼むな」
「――へ?」

 首を傾げた僕に、アルクス殿下が言った。

「毒を盛られては困るので、自炊と出発直前に決まったんです。が、僕は、料理なんてこれまで一度もした事がなくて……」
「僕も神殿で暮らしていたので経験が……」
「俺、常に買い食いだったからな」

 僕は、呆気に取られた。まな板を用意し、人参を輪切りにしている間も、ずっと呆然としていた。その後、ジャガイモの皮を剥きつつ、まさか魔王城にたどり着くまでの間、僕は料理や野営の家庭教師もやるのだろうかと考える。いやいやいや。

 その日食べたカレーは、概ね好評だったが、僕は何とも言えない心境になった。

 しかも――これは、序幕に過ぎなかったのだ……。