【6】魔王結婚記者会見「勇者パーティにいた魔術師だったのが出会い」(★)



 三日目、意識を取り戻すと魔王がいなくなっていて、僕は食事と水分を与えられた。魔王の部下の高位魔族達は、何も言わずに僕に水を飲ませた。毒の危険性など考える余裕もなく、僕は必死で力の入らない体を叱咤し、喉を潤した。

 魔王がやって来たのは、夕暮れの事だった。

「そなたを我が妃とする事に決めた」
「――な……え?」
「麗しい妃だ。皆、喜ぶであろう」

 何を言われているのか分からず、僕は呆然とした。
 パチンと魔王が指を鳴らすと、僕は再び、一番最初のように壁に張り付けにされていた。ただし今回は、全裸だ。大きく目を開いて瞬きをしていると、魔王が紺のベルベットの箱を手に、歩み寄ってきた。開いた蓋の下には、サファイアのピアスが二つ鎮座していた。

「そなたの瞳によく似た色だ。この婚姻の証を探し出すのに、今日の大半を使ってしまった」
「こ、婚姻の証……?」
「魔族は、配偶者に、ピアスを贈る事で婚姻とする。刺した側が、主人。肌に身につけている側が、伴侶となる」
「……そ、そんな。僕は、人間だ。魔族の婚姻なんて知らないし、結婚なんて出来るわけが……僕は、魔王を倒すために旅を――」
「我が決めた事は、この魔界において、絶対である。すぐに大陸全土が、魔界となるであろうが、な」

 魔王はそう言って笑うと、僕の左乳首を指で撫で、右の乳首に吸い付いた。

「安心せよ。痛みは無い。このピアスには、快楽を増大させる魔力がこもっている」
「――!!」

 その時、ツキンと体が疼いた。魔王が、僕の左の乳首に、サファイアのピアスの留め具を突き刺したのだ。

「いやあああああ!!!」

 確かに痛みは無かった。だが、恐怖はあった。

「次は、右だ」
「あああああああ!!!」

 しかし――右の突き刺された瞬間、僕は射精していた。恐怖に勝る快楽が、両乳首のピアスから、全身に流れ込んでくる。

「白い肌によく似合う。この暗いサファイアのピアスは、本当にそなたによく似合う」
「あ、あああっ、あ、あ、ああっ」
「次は、王妃の焼印だ」
「え?」

 魔王が、唇の両端を持ち上げると、指を鳴らして、焼きごてを出現させた。

「熱は感じぬように出来ておる。魔力熱だからな」
「な、何を……」
「魔王の妃は、これを区別のために、肌に押して、印を付けるのだ。魔王以外が触れても、決して不貞を働けぬようになる――出す事が出来なくなる。どころか、魔王の精を内側に受け入れなければ、体の熱がひかなくなる。魔王の血脈を維持するための紋章でもある」
「そんな、待ってくれ、僕は、男だ――ッ、ぁ、ぁ……やだ、怖い……」
「魔族の子は、卵で生まれる。そなたの中に沢山の精を注いで、じきに孕ませてやろう――しばらくは、二人で楽しんだ後に、な」
「やぁああっ!!! あ――!!」

 僕の左の太ももの付け根、内股に、焼きごてがあてがわれた。
 痛みも熱も無かったが、そこにはっきりと、焼印が押されたのが分かる。
 震えながら涙ぐんで、僕は刻印を見た。魔王にしか許されない外套のマークと同じものが、僕の太ももで、金色に輝いている。そこからも全身に、絶大な快楽が広まり始めた。

「さて、皆の前で、王妃として広めねばな。人間の記者も呼んである」
「っ!?」

 パチンと魔王が指を鳴らした。

「え」

 僕は、貫かれていた。

「あああああああああああああああああ!!!」

 後ろから抱き抱えるようにされ、魔王に両手で左右の太ももを持たれている。その状態で、太すぎる凶器で下から貫かれていた。最奥まで挿入された状態で、僕はその場の風景が変化している事に気がついた。

「やああああ!!」

 玉座の上に座っている魔王と、その上に乗っている僕。
 外の森に設置されているらしき会場で、壇上の下には多くの理性ある高位魔族達と――人間の集団がいた。バシャバシャとフラッシュが光る。魔導具のカメラだ。大陸新聞は、時折魔王や魔王軍の取材もしていたから、この場に記者がいたとしても、本当に婚姻会見ならば不思議はない。

「いや、いやあああっ!!」

 魔王が今度は両手で、ツンと僕の両方の乳首を弾いた。金色の金具が揺れ、サファイアが光る。足の支えが無くなったため、僕の内側で魔王の楔の角度が変わる。全身の力が抜けた。魔王が触れている肌全てから、快楽が滲み込んで来る。

「あ、あ、ああっ、あ、ああっ」
「――勇者パーティにいた魔術師でな。捕らえたのが出会いだ」

 楽しそうに、優しげに魔王が言った。僕は快楽に侵されていて、何も考えられない。記者達が何か質問していたが、その内容も理解できなかったし、寿ぐ魔族の言葉の意味すら理解できていなかった。そのまま何百人もいる公衆の面前で、僕は三日三晩貫かれた。体制はそのままで、魔王は動かない。時々乳首のピアスを弾かれて、僕は射精した。

 魔王は、三日に一度、僕に休息を許すつもりなのか、三日目に解放された僕は、その日は一日ベッドで眠りに就いた。そして四日目から、また体を開かれた。

 四つん這いにされた僕は、四肢をやはり鎖で繋がれている。この日は、首輪も付けられた。首輪と両方のピアスの間に細い糸を通された。ピンと張り詰めている糸のどこかを弾かれるだけでも、全身に快楽が過る。その状態で、両手で後ろの双丘を広げるように掴まれ、舌先で菊門を舐められている。もう何時間も舌で解されていて、時折舌が中に入ってくる度に、僕は快楽から涙している。既に僕の先端からは、透明な液が垂れていた。何でも、太ももの焼印のせいで、僕の体は、何度でも果てられる作りに変わったらしい。

「うう、っ、ぅ、ぁ……ゃ……早く……」
「早く、なんだ?」
「挿れてくれ……僕、ぁ、も、もう……」
「今日は、動くぞ。我が満足するまで許さぬ。覚悟は出来ておるのか?」
「うん、うん、あ、ああっ」

 深く考えず、僕は泣きながら頷いた。
 ――結果。

「――、――!!!!!」

 挿入された瞬間、まず僕の前からは精子が飛んだ。そして腰を掴まれ激しく打ち付けられた結果、衝撃で理性が飛んだ。もう訳が分からない。

「いやあああああああ!!!!」

 何度か理性を取り戻して泣き叫んだが、すぐに激しい抽挿に意識を絡め取られ、泣くしか出来なくなる。

「あっ、ああっ!! ン、あ、あああっ!! あ!!」
「満足に動かせるほど広がったな」
「あ、ハ、はっ、く、ン――!!」
「もう人間のものでは満足できまい。渡す気も無いが」
「ゃ、ぁ、ぁ、ア、あ、ああっ!! ン、あ、ああっ!!」

 何度も何度も貫かれながらピアスを弾かれて、僕は正気を失った。



 こんな日々が、半年続いた。旅に出て、丁度一年、魔王城に来てからは、半年である。相変わらず魔王は、三日間連続で僕を弄び、一日休暇をくれる。変化はといえば、逃げる気力が既に失せた僕の拘束を魔王が外してくれた事であり、さらに僕にちょっと体力がついたので、休みの一日には座ってお茶を飲む程度の余力が生まれた事だろう。

 僕は大陸新聞と裏・大陸新聞の購読を希望した。
 どうせ散々僕の悪口が書いてあるのだろうと思いきや――そうでもなかった。

『無能の勇者パーティ』

 乱舞しているのは、この言葉である。
 魔術師がいなければ何も出来なかった勇者パーティの実態――として、いくつもの記事が並んでいる。この魔術師というのは、紛れもなく僕の事だろう。何せ、『先日魔王妃になった魔術師であるが』と、書いてあった。

 ……何というか、これが一番反応が怖かったのであるが、記事を読んでいくと、『人と魔族を繋ぐ架け橋』みたいに書いてあった……。その上、前とは異なり、魔王に対して、好意的な記事も結構な数、並んでいた。これは、いくつかの人間の国が、勇者達を見限り、魔王と停戦協定や不可侵条約を結んだ結果らしい。実質――人間の国が複数、魔王が治める魔界の傘下になったという事のようで、勇者達の支援を打ち切ったと書いてある。

 僕は、複雑な心境だ。
 何せ、生まれてこの方、魔王を倒すために生きてきたのだ。
 だけど今の僕は、魔王の妃なのだ……。

 現在、二人でお茶を飲んでいる。性行為をしていない時、最近ではこうして、二人でお茶をしたりするようにもなった。魔王は、優しい。紅茶を淹れるのは僕の仕事ではなく、魔王が自ら淹れてくれる。僕を蔑ろにしたり、下僕のように扱ったりもしない。

 しかし、人間を、魔族に襲わせたりはしているのだ。
 こんなにも優しいのに、と、不思議になった。僕は、聞いてみた。

「どうして人間を襲うんだ?」
「理由はいくつかある。もっとも大きな理由は、人間側が、魔族を恐れて襲って来るゆえ撃退している」
「……」
「二つ目は、危険な兵器や魔術、武力を生み出し、人間はこの大陸を汚染している。止めなければ、魔族が暮らす魔界にも影響が出る」
「……」
「最後とするが、我は元々、身内以外には、優しくはない。たまたま魔族が身内であっただけだ。そなたに関しても、身内であるから人間だが優しくしたいと思うだけだ。ソナタの場合は、愛しているからでもあるが」

 少しだけ、僕は照れた。最近、魔王に愛の言葉を囁かれると、僕は動悸がする。

「――けど、魔王は数百年に一度しか現れないんだよね?」
「寿命の問題だな。人間の三倍はある」
「……前の魔王は、父親だったのか?」
「そうだ」
「……僕は、生まれつき、魔王討伐用の武器を持っていたけど……あれって、何なのかな?」
「その辺の村の茂みに突き刺して放置しても問題が無い程度の、無意味な産物の類似品であろう? 実際、それらを我が驚異に感じた事は無い」
「……」
「ただ――魔界の伝承によれば、魔王の運命の伴侶は、生まれながらにして、妃の証たる武力を手にして生まれるという。我が父も、伝説の勇者パーティ内にいた、生まれつき武器を所持していたという槍師と盾師を後宮に妃として迎えた。我は後宮を必要とせぬが、父は好色であった。我は、そなただけで良い」
「――え?」

 僕はその言葉に目を見開いた。

「え、えっと……槍師と盾師は、その後どうなったの?」
「槍師は我を生んだ。盾師は、寿命を全うした事以外特筆すべき事は無い」
「その二人の武器はどうなったんだ?」
「運命の相手と出会った後は、武器は生まれなくなると聞く。少なくとも、魔界には現在、槍も盾も存在しない。死ぬ時に、霞となって消えたままだ。我が思うに人間界に残っている他の三つは、嘗て霞として消えた品の模倣品ではなかろうか。我が祖父の伴侶は聖剣を所持して生まれたと聞くしな」

 何とも言えない気持ちになった。

「だけど、勇者にしか抜けなかった……」
「抜けた日の前日は、地盤が緩んでいたと魔王軍では記録している」
「え」
「偶発的な出来事であろう。現に、勇者に特殊な力があるようには思えぬ。もっとも、王子や神官にも、特に何も感じぬ。よって、我は当初から、そなたに狙いを定めていた――まさか、このような結果になるとは思わなんだが」

 微笑した魔王があんまりにも綺麗に見えて、僕は赤面した。僕だって、このような結果は想定外である。

「一生、我のそばにいてくれ」

 僕は、小さく頷いてしまった……。
 僕は、魔王の優しさに絆されてしまったのである。
もう僕も、魔王を愛し始めて――いいや、愛していた。