【1】麦茶→風紀委員長




 俺は、麦茶のパックだった……と、思う。

 いつ使われるんだろうなと思いながら、青い袋の中で順番を待っていた。
 そしてついにその日は来た。

 俺はポットのようなものに投下され、無事に茶色い麦茶を作った。
 こうして俺は捨てられる――はずだった。


 何でこんな事になっていたかというと、俺は生前、国王陛下から女王様を寝取って、その罪で麦茶に転生させられたのだ。俺はそれまでは、侍従をしていた。まぁ平凡な人生だったが一応人間だったわけだ。それが一転、麦茶のパックになり、”現代日本”というところで暮らしていた(?)……麦茶のパックとして。

 当初は粉で、後にパックに詰められ、さらに青い袋に包装されて、スーパーに並び、私立の陛楽学園(へいがくがくえん)という所の生徒に購入された。そこまでは麦茶だった。

 そして俺は悲惨な光景を見た。
 なんと、その生徒が他の生徒に刺殺されてしまったのだ。

 ポットの中で俺は、顔はないけどポカンとしていた。
 そうして――光に飲まれた。


「委員長! 委員長、目を覚まされたのですね!!」

 ――え?

 気づくと俺は、見慣れてしまった学園の制服のボトムスを履き、腹部に包帯をぐるぐる巻かれて、見知らぬ天井を見上げていた。そこへ俺をのぞき込みながら、泣いている生徒がいた。俺を購入した生徒――確か、箕坂(みのさか)と呼ばれていた気がする。
委員長というのは、刺殺された生徒の名前(?)だ。

 繰り返すが、俺は、麦茶のパックである。委員長何某では無い。

「……ここは?」

 思わず聞いた。声が出た。あ、俺、喋れる。手を持ち上げてみた。おお! 人間の手がついている!

「保健室です……! 委員長は刺されたんです! 幸い軽傷で……学園は、不祥事を嫌うから……」

 軽傷? 絶対に嘘だ。俺は大流血して絶命した”委員長”をポットの中から見たぞ!?
しかしこれはどういう事だ? どうして俺は人間の体を得ているんだ? そもそも包帯……? 周囲を見回してみると、窓ガラスに俺らしき人物が映っていた。え――そこに映っていたのは、”委員長”だった。

 そうして何故なのか――俺は、委員長になった。


 多分だが、これは推測だが、亡くなった委員長に、代わりに俺がなったのだろう。何故だ。

 しかし委員長――風紀委員長は、死ぬほど忙しかった。
 長閑な麦茶生活が懐かしい。

「委員長大変です! 西館で強姦被害が発生しました!」
「……そうか。すぐに急行しろ」

 俺は出来るだけ偉そうに告げた。当初低姿勢で接していたら、刺殺のショックを受けているのだろうと、皆に悩まれて居心地が悪かったのだ。

 さてここは、男子校である。

 ……なのに何故、強姦被害が出るのか。俺は元々寝取るくらいだから、それなりに性的には奔放な自信がある。風紀委員長がそれではまずいから、今はおとなしくしているが。だが、しかしながら異性愛者だ。一体何故この学園には男同士がさも当然のように広まっているのだ。俺には理解できない。

 ちなみに大問題がある。俺は未だに、風紀委員長の仕事内容が分からないのだ。そのため、俺の執務机の上には、どんどん書類が溜まっていき、一度も使ったことのない”ぱそこん”という代物がどーんと鎮座している。現在の所、刺殺の衝撃があったから、俺は偉そうに指示を出している風を装っていればいい。だが最近、周囲の視線が冷たくなりつつあるのを感じている。仕事をしないといけないらしい。どうしよう。誰かに相談したいが、俺は麦茶のパックだったんです、なんて言えない。言ったら絶対、変に思われる。別に変に思われても良いのだろうか……?

 そんな時だった。俺は、廊下で一人の生徒と激突した。

「あ、高郷様!」

 高郷光輝(たかさとこうき)は、委員長こと俺の名前である。激突した相手はどこかで見たことがあるが、誰だか分からなかった。