【7】俺の指名は、いつもローラだ。(★)





 翌、水曜日……!!
 俺は、やっと、やっと、マッサージに出かけられる事になった。
 嬉しすぎて、出かける前からウキウキしっぱなしだった。

 ――最早、店に対しての恐怖など微塵も感じない。
 多分、俺が過敏になっていただけなのだろうと、今では確信している。

「いらっしゃいませ」

 笑顔のローラの声を聞きながら、俺は顧客リストに名前を書いた。最近では、本当にこの店にしか、通っていない。気分はさながら、キャバに通う客かもしれない。俺の指名は、いつもローラだ。

 ただ、ちょっと疑問なのは、俺が来るのが遅いせいなのか、ローラ以外のマッサージ師を見ない事である。初めは小さい店舗だからかとも思っていたのだが、時々俺以外の客がいても、俺が終わる頃には、誰もいなくなっているのに、他のマッサージ師を見ないのだ。不思議だよなぁ。そんな事を考えながら、俺はバスローブに着替えた。



「ぁ……ァ、ぁ……っぅ」

 俺は、気づくと、後ろから抱き抱えるようにして、下から楔を穿たれていた。両方の乳首をユルユルと両手で弄られながら、挿入されている。背中をローラの思ったよりも厚い胸板に預け、顔を蕩けさせながら、声を漏らしていた。

 今日で、三回目に見る、挿入の夢だ。回数自体はもっと多いが、日にちにしたら、三回目だ。漠然とそう思いながら、俺は内部でローラの陰茎を締め付けた。自分の意志ではない。挿入されると、勝手に俺の中が蠢くのだ。

「あ、あ、ああっ、ハ」
「奥、どうだ? 好きか?」
「うん、好き、好き」
「胸は?」
「好き、け、けど……」
「出したいか?」
「うん、ぁ、ァ」

 俺は果ててはならない事――果てたくても出せない事を思い出しながら、既にガチガチの自身を意識した。熱い繋がった箇所へと響いてくる乳首の快楽。だが、それらだけでは、達する事が出来ない。

「今日は、乳首だけで、イかせてやろうな」
「あ、ああ、あっ、ン」

 ローラの指の動きが激しくなる。俺の両方の乳頭を嬲るその指先からの刺激は、それでも繊細だった。

「やぁっ」

 ゾクゾクと快楽が浮かんでくるが、もどかしい。ひとりでに俺の腰は揺れる。しかし、自分では上手く、感じる場所に当てられない。次第にローラの指の動きが、更に早まる。乳頭を擦られ過ぎて、既に真っ赤だ。俺は涎を翻そうになった。震える喉から、声が出ない。だが、乳首からの快楽ばかりを感じるようになりだして、すると勝手に嬌声が漏れた。

「ぁ、ぁ、ああっ、あ、あ、ああ、ア」
「乳首を弄られるだけで、雌イキしろ。『命令』だ」
「あああ――!!」

 何かを囁かれた瞬間、胸への快楽が強まった。そして、首筋を噛まれた時、俺の頭の中が焼き切れた。

「うああああああああああああっ!!!!」

 もうすっかり覚えさせられたドライオルガズムの感覚が、襲いかかってくる。ただ、いつもよりもその漣はゆっくりで、代わりに長かった。ピクピクと俺の陰茎が動く。だが、前からは出せない。けれど射精しているような感覚が、ずっと続いている。その間も、コリコリと乳首を弾かれ、摘まれ、嬲られる。

「次は、挿れられてるだけで、果てろ」
「あ、はっ、ンあ」
「果てるまで、繋がってような。その代わり、何度でも出して良いぞ」

 耳の中をピチャピチャと舐められながら、甘く囁かれた。そのままローラは動く事無く、俺に両腕を回して抱きしめた。全身が汗ばんできて、俺はガクガクと震える。

「あ」

 そして。
 俺は、そのまま出した。俺の先端から白液が飛ぶ。

「う、うあ、あ、ああ」

 だが、すぐに体が再び熱を持った。剛直なローラの肉茎の存在感だけで、俺の楔は首を擡げる。また反り返った俺の陰茎の先からは、たらりと蜜が漏れる。

「あ、あ、あ、また出る、イく」
「好きに出せ」
「あン――!!」

 俺はまた果てた。そうしながら、今日は何度もイかせてもらえる――イかせられる日なのだと理解した。強すぎる快楽は苦痛なのだが、その苦痛すらも俺の夢の中では、全てが愛おしく変わる。

「や、やぁ、また、また出る、ァ」
「中、どろっどろだぞ?」
「あ、あ、う、ぅぁ」
「俺のを搾り取ろうとするみたいに、絡み付いてくる。お前、男なのにな」
「あ、やだ、そんな事言わないでくれ」
「いいだろ、別に。お前は俺の雌なんだから」
「――っ、うあ、あああああ!」

 再度果てた。俺の双眸からは、涙が止めどなく溢れていく。快楽からだ。

「スローも良いだろ?」
「あ、あ……」
「俺は、スローセックスって、お前がいるって実感できるから大好きだ」

 俺の胸を再び弄りながら、ペロペロとローラが俺の首元を舐める。その舌先の感覚に、俺の体中にジワリと快楽が染み込んでくる。けれど――これは、辛い。

「お願いだ、動いてくれ」
「堪え性が無いな」
「あ、ああっ、あ」

 はっきりと俺の思考は、無茶苦茶に貫かれ、かき混ぜられたいという欲望を思い描いていた。どんどん灼熱のような快楽が、全身に溜まっていく。なのに、不思議とそれらは穏やかだ。何度でも果てられるような気さえする。

「あ、あ、っ、いや、あ、ン」
「お前は? 俺と繋がるの、好きか?」
「あ、っ、好き、大好き」
「素直になったのは、本当、良いな」
「ン、あ、ま、また……――ッッッ」

 更に放った時、既に俺の液は、透明に変わっていた。

「――良いだろう、動いてやる」
「うあ、あああ、あ、ああ、あ、あ、あ、あああっ」

 その時、ガンガンと下から突き上げられて、俺は悶えた。気持ちの良い場所を、ダイレクトに刺激される。そのまま前立腺を突き上げられて放ったのを最後に、俺は記憶を飛ばした。



「今日も、お越し頂いて、有難うございました」
「あ、ああ……?」

 気づくと俺は、寝台に着替えた状態で座っていた。
 ――最近、我に返ると、終わっているどころか、着替えが終わっていたり、立ち去ろうとしている場合も多い。何なんだろうな……。俺は首を傾げた。なお、今日は全身に心地の良い倦怠感があるものの、体には違和感等は無い。

 立ち上がり、体が軽くなったのを確認してから、俺は伝えた。

「また来る」
「お待ちしています」

 こうして、この日も俺は、マッサージ店を後にした。


 そして――歩きながら、考えた。
 やはり、何かがおかしい。だいぶ遠ざかってから、俺は振り返った。
 遠目に店の看板が見える。

 最初の頃の恐怖は、既に無い。だが、こんなにも頻繁に、微睡む――と言うよりも、記憶を飛ばすマッサージ等、本当にあるのだろうか。そう考えた時、ツキンと首筋が鈍く痛んだ。無意識に、右手で、左の首筋を抑える。

 すると、頭の中に、一糸まとわぬ姿になっている自分が過ぎった。
 狼狽えて口元を抑える。
 それが思い浮かんだ瞬間、ありえない場所が疼いた。体の最奥だ。

 ――貫かれたい。

 無意識にそう考えた時、俺はハッとした。俺は、一体何を考えているんだ。自分の思考に動揺した時、意地悪く笑うローラの瞳が頭に浮かんだ。そんな表情、見た事が無いはずなのに。しかし俺は……ローラの太く長く硬いモノで、思う存分突き上げられたいと感じていた。嘘だ。え、なんで?

 思わず赤面しながら、歩みを再開する。
 どうしてこんな事を考えているんだろう。これじゃあ、まるで恋だ。
 けれど、ローラの指先で、ドロドロにされていく全身に思いを馳せてしまう。
 ぬちゃぬちゃとかき混ぜられたい。

 そんな馬鹿な。嘘だろ?
 だが俺はこの時、はっきりと感じていた――足りない、と。
 歩いたまま、首だけで店に振り返る。
 店に行ったからといって、性的なマッサージのお店ではない以上、こんな願望は叶わない。そもそも性風俗だって、本番は禁止であったような気もする。

「俺、何を考えて……」

 片手で唇を抑えたまま、呟いた。


 その夜――俺は、自分で自分の乳首を左手で弄り、右手で陰茎を握りながら、自慰に没頭した。ローラの姿を思い浮かべながら。