１

　俺には、最愛の弟がいる。
　その弟が、馬車の横転で意識を失ったまま、目を覚まさない。
　俺は事故があった昨日から、ずっと隣にいる。

「神様……どうか、弟をお助け下さい」

　なお、俺と弟は、決して仲が良いわけではない。それは、俺が冷たい対応をするからだろう。いざ本人を目の前にすると、俺は素直な態度を取る事が出来ないのだ。それでも心の中では、大切だと思っている。異母兄弟で、家督争いをしているというのもあるし、弟は俺の事が嫌いだろうとは思うのだが……。

「ん……」
「リュート！？」

　その時、ぴくりと弟の瞼が動いた。俺が思わず声をかけると、弟のリュートが上半身を起こした。

「大丈夫か？」
「お兄様……？　え、ええええ？　ロワルが兄？　え」
「混乱しているのか？　俺は確かにお前の兄の、ロワル＝エンドリュークだ」

　エンドリューク伯爵家は、この国でも名門中の名門だ。俺はそこの長子であり、弟のリュートは異母兄弟で一つ年下だ。

「俺、思い出したんだ」
「何を？」
「ここは、BLゲームの世界なんだ」
「は？　びーえるげーむ？　とは、なんだ？」

　どうやら弟は、まだ錯乱しているらしい。初めて聞く言葉に、俺は首を捻る。

「ロワルは、ザマァされる悪役貴族なんだ！」
「ざまぁ……？　すぐに医術師を呼んでくる、待っていろ」
「いいから、聞いて！」