【四】交わり(★)





「飛鳥。お前との『絆』が欲しい」
「……ぁ」

 棒を奥深く突き入れた状態で動かすのを止め、水城さんが言った。僕は快楽に震えながら、ギュッとシーツを掴む。もう四つん這いのままではいられそうにないくらい、体が熱くて力が入らない。ずっと太股が震えている。

「その何も知らない体に、教えるのが俺だけというのは、実に気分が良いな」
「あ……ぁァ……っ」

 球体が前立腺を押し上げた状態で、動きを止めている。そのせいなのか、射精感に似た何かがせり上がってくる。その内に、ガクガクと僕の体が震え始めた。全身にびっしりと汗を掻く。

「ゃ、ぁ……」
「気が変わった。じっくり開こうかと思ったが――初めてを俺で染め尽くしたい。受け入れてくれるな? 『命令』だ、飛鳥」
「う、ん……あ……ああ……」

 訳が分からないままで頷くと、一気に棒が引き抜かれた。消えた感覚を名残惜しく思っていると、グっと菊門が押し広げられる感覚がした。

「あ、あ、ッ、ぁ……――!!」

 巨大な亀頭が、僕の中へと埋め込まれた。棒の無機質な冷たさとは異なり、酷く熱い。熱の暴力に僕は体を反らせた。挿ってくる、水城さんのものが。巨大な雁首までの部分が入りきった時、ついに僕は体勢を崩して、ベッドに上半身を預けた。

「|Crawl《クロール》と言っただろう?」

 水城さんが、僕の腰を両手で掴んだ。その『命令』は理解出来たけれど、僕の体は震えるばかりだ。声を出そうとすると、嬌声になってしまう。僕は涙ぐんだ。

「お仕置きが必要だな」
「あ、あ、ァ……僕、あ……」

 何か言おうとするその間も、ゆっくりと、水城さんの長く太く硬い肉茎が進んでくる。僕の内壁が、水城さんの形に広がっていく感覚がする。

「う、ぅァ……っ、ッ」

 根元まで入りきった時、僕はすすり泣いた。繋がっている感覚が、気持ち良すぎた。タラタラと僕の前からは先走りの液が垂れるのだが、リングで拘束されているから果てられない。

「今日は存分に中での快楽を味わってもらう。お仕置きは、その後だ」
「ああ!」

 水城さんが腰を揺さぶった。中が満杯だから、その動きだけで、感じる場所に刺激が響いてきて、快楽を煽られる。

「ぁ、ゃァ……」
「何が嫌なんだ? 言え。命令だ」
「き、気持ち良、っ……ああ……あ、体……変。あ、熱い。やぁ……あア!」
「初めてなのに淫らだな。ただ――これが俺だ。覚えておけ」
「ひ、あ――!!」

 激しい抽挿が始まった。水城さんが動く度、ローションが水音を響かせる。全身の隅々にまで、快楽が走る。

「あああ――!!」

 そのまま前立腺を刺激され、僕は絶叫した。確かに体を射精感が襲ったからだ。いいや、違う。もっと長い。ずっと果てている感覚がする。ビクビクと僕の肉壁が脈打って、水城さんのものを締め付けている。僕はシーツを握りしめ、快楽の奔流に耐える。頭が真っ白に染まった。

「ドライで果てたか。その感覚、よく覚えるようにな。今後、お前は俺のもので、いつもイけ」
「あ、あ……は、ッ、ん……あああ! 待って、まだ動かないで、ひゃ、ァ――!!」

 僕が中だけで果てた余韻に浸っていると、意地悪く再び水城さんが前立腺を陰茎で刺激した。強すぎる快楽に、僕は涙をボロボロと零す。

「これはお仕置きだ」
「!」
「連続でイけ。体勢を崩した悪い子には、仕置きが必要だ。そうだろう? 違うか?」
「あ、あ、ああ……ア――!!」

 そのまま前立腺を突き上げられて、僕は再び中だけで絶頂に達した。しかし、『お仕置き』という言葉に、僕は体を絡め取られたようになり、心が震えていた。どんどん水城さんに支配されていく。僕の体も心も、水城さんのものになっていく。水城さんに囚われる事が幸福でならない。

「あ、ぁ……あああ! あ、アぁ」

 水城さんが僕の背に体重をかけた。ベッドに押しつけられる形になり、僕は身動きが出来なくなる。その状態で、キュッと水城さんが僕の両乳首を摘まんだ。絶頂に達したばかりで敏感になっていた僕の体に、弾かれた乳頭から快楽が染みこんでくる。

「やぁ、ァ……」
「本当に嫌な時は、なんて言うんだった?」
「あ、あ……」
「嫌じゃないんだろう? 俺に体を奪われる事が。正直に、言ってみろ。どうされたい? 命令だ。今の感覚は? じっくり教えてくれ」
「気持ち良い、あ、あ、ああ……もっと動いて……お願い、あ」
「初めてにしては、上出来だ」
「ひ、ぁァ……!!」

 体勢を起こし、僕の腰骨を強く掴んで、水城さんが打ち付け始めた。それがあんまりにも気持ち良くて、僕は理性を飛ばした。

「あああああ!」

 その夜、僕は何度も中だけで果て、ドライオルガズムの感覚と水城さんの肉茎の形を覚え込ませられた。空が白む頃になって、漸くリングを外され、陰茎を擦られながら、中を一際強く突かれた瞬間、僕は中と前で同時に果て、気絶するように眠ってしまったのだった。そこにあったのは、あまりにも壮絶な快楽だった。


 目を覚ますと、僕の体は綺麗になっていた。水城さんが処理をしてくれたらしい。僕は横になったまま、緩慢に視線を動かした。するとソファに座り、葉巻を燻らせている水城さんと目が合った。

「初めてなのに、よく覚えたな。中の快楽を」

 くすりと笑ってから、水城さんが優しい顔をした。その言葉に、昨夜の痴態を思い出して、僕は真っ赤になった。それから不安になって、思わず聞いた。

「僕、どうでしたか?」
「最高だった」

 褒められた――その事実に、僕の胸に、じわりと温かい感覚が広がっていく。

「俺は今後も、飛鳥と共にいたい。飛鳥は?」
「僕も……水城さんが良いです」
「敬語でなくて良いという『命令』を破ったな?」
「あ……」
「またお仕置きをしなければな」

 水城さんの瞳が、僅かに獰猛な色を宿して煌めいた。僕の背筋がゾクリとする。
 ――歓喜からだ。僕は明確に、水城さんにお仕置きをされたいと感じていた。

「罰として、今後は俺の呼び出しを最優先にしろ。命令だ」
「う、うん……」
「よし。その調子で敬語をやめるようにな。さて、連絡先を教えてもらおうか」

 こうしてこの日、僕達は連絡先を交換した。
 それは、信頼関係を構築するための第一歩ともなった。