「いいねぇ、ドアマット……」

 俺は、悲惨な主人公が、主要攻略対象の王子に助けられたスチルを回収しながら、思わず呟いた。このゲームは、18禁BLゲームで、魔法学校が舞台のシュミレーションだ。

 俺はドアマットものならば、ジャンルを問わず好きなだけで、別段腐男子というわけではない。ただ、主人公がドアマット的な扱いを受ける上に男であるゲームは、圧倒的にBLが多いので、半ば必然的にBLゲーに手を出した次第である。

 ドアマットというのは、まぁ、幸せになる前に、主人公が踏みつけられるかのように悲惨な目に合う、一連の流れだ。

 中でも今回俺が遊んでいる、【荊棘の牢獄】というゲームは、レビューでも高評価が多く、俺も期待して臨み、結果として現在までは、非常に良い感じに進んでいる。

 内容は、主人公のアルス(名前変換可能)という少年が、貴族とごく一部の平民のみが通う事が許される、エストワール魔術学園に入学する所から始まる。王国一番の名門校だ。

 舞台の国、アリアステッドでは、貴族は全員が魔力を持って生まれ、平民は魔力を持たない。持っている場合は、突然変異だ。その突然変異者の中でも力がより強い者と、貴族達が通っている学園に、生まれつき貴族のアルスも通う事が決定されていた。本人意思では無い。

 アルスが生まれた、ディノス伯爵家は魔術の名門なので、通わないのは恥とされたからである。しかしアルスには、魔力がほぼ無かった。そのため、家でも肩身が非常に狭い生活を送っていた――というのは、まぁオチではメタ的に言うと、出生時の魔力暴発の危機で、膨大な魔力を封印されていただけだったから、周囲が誤解していたというのが正しいのだが、通う前から悲惨な生活を送っていたわけである。

 当然入学後も、魔力がほぼなく、ほとんど魔術が使えないため、悲惨な目に遭う。非常に不憫だ。まったく……ニヤニヤしてしまう。俺は、可哀想な目に遭う主人公が大好物だ。俺の性格が悪い――から、というよりは、可哀想な目に遭った方が、幸せになった時を目にした瞬間に、俺の中のハッピーエンドゲージが最高潮に達するからというのが正しい。カタルシス的な。

 このゲームは、BでLなゲームなので、男同士の恋愛ものとなる。そのため、ここでいう幸せとは、最終的には恋愛をして結ばれるという事になる。

 攻略対象は、一人目が、この国の第二王子だ。ゼルス殿下である。王族は、非常に膨大な魔力を持ち、この人物は権力も持ち、お顔もよく、俗に言うスパダリだ。当然性格も良い――と、いう設定だ。

 二人目は、魔術学園風紀委員会委員長のロイル委員長だ。風紀委員長は、平等に悪を取り締まるので、この人物に限っては、最初から主人公を庇うというか、職務上助ける。ドアマット的に、俺はあんまり好きな攻略対象では無い。やっぱり最初は、少しは冷たい態度が見たい。

 三人目は、平民出身者から初の生徒会長となったキリア会長だ。魔力を持たない人間を馬鹿にする、完全実力主義者である。この人物は中々良い。だが、主人公に最初冷たい態度を取りすぎているので、ハッピーエンド後に、若干もやっとする。掌を返した感が。

 まぁ、この三人が、攻略対象で、フラグを回収して、誰かと恋に落ちるというのが、ゲームの流れである。他に特筆すべきなのは、脇役の三人だ。

 一人目は、ひったすらに主人公のアルスをいじめ続ける、ライバル伯爵家のヴァルワ。俺の好きなキャラである。この人物は良い。中々に素晴らしいドアマットの立役者となる。

 二人目の脇役は、同僚者のエツゼアである。人目のあるところでは塩対応だが、部屋で主人公と二人きりの時は、謝りながら手当などをしてくれる。小物っぽい人間味が俺は好きだ。

 最後の脇役は、保険医のデュークス先生だ。怪我をした主人公の手当をしてくれる。普段は無表情で冷たく、いやいや仕事で手当をしているのかと思いきや、実は優しいという中々美味しい設定の持ち主で、結構ユーザーに人気だという。俺も嫌いではない。

 主人公のアルスと、名前が出てくるこの六キャラクター、内三人が攻略対象で、ゲームは進んでいく。舞台が魔術学園なので、ファンタジー要素もあるようだが、シナリオにはあまり絡んでは来ない。

「次、誰攻略しようかなぁ」

 俺は既に、三週ほど、このゲームを楽しんでいる。ゲームをする前に攻略サイトを見ていたし、開始後にも三回もやっているので、内容は既に頭に入っている。フラグの建て方もばっちりだ。最近のチケットで読むアプリゲームよりも、古の美少女ゲームに近い内容で、構成としては時々頭を使うのが楽しい。

 ――爆発音がしたのは、その時の事だった。

「!?」

 硬直した俺は、天井に穴があいて、何かが降ってきたのを見た。それは俺の正面の机に落下――どう見ても隕石だ、と、理解した瞬間、その衝撃で俺の体は吹っ飛ばされた。後頭部を壁にぶつけ、俺は思わず咳き込んだ。周囲には砂埃が溢れていく。

 続いて更なる轟音が響いた。痛む頭を必死で動かし視線を向けると、第二第三の隕石が次々と降ってきていた。

 すると、周囲に光が溢れた。何やら魔法陣のようなものが広がっていく。

 しかしそれを認識した頃には、俺は鈍く痛む頭に手を沿え、ほとんど意識が無い状態となっていた。あ、俺、これは死ぬわ。そう考えたのを最後に、俺は意識を手放した。