【1】前提
クラウンズ・ゲートというゲームがある。
日本初の国産VRMMORPGだ。テスト期間は1年で、その後正式公開・販売されてから、もう十年以上が経過した。ゼクスは、煙草に火を点けながら、久方ぶりに外部の掲示板まとめをiPadで見ていた。普段は、ネットを見る間も惜しんでゲームだから、本当に久しぶりだった。
なんのまとめかというと、『歴史』である。有名プレイヤーやギルドが出ている。
まず『テスト期』が、ある。ゼクスは、この時からやっている。この辺においての話題は、ゼスト・ルシフェリア・ハルベルト・クラウが同じギルドにいて、最初の大陸であるヨゼフを攻略して開放した、だとか、鴉羽卿がゼストの師匠だとか、そういう話だ。現在では違う方向性の四名が、そして各自伝説級の最強の四名が、一堂に会していたというのが、もう信じられないらしい。ゼストに師匠がいたとか、ゼストが憧れのプレイヤーがいたとか、そういう逸話も書いてある。今は無きゼストブログに書いてあったそうだ。
次がアイリス期だ。ヴェスゼストが出てきた辺りだ。知名度で言うなら、現在一位だろう。こちらもまた、先の四名のギルドに入れてもらった初心者だったと書いてある。後は、英刻院閣下のギルドの結成時期などだと書いてあった。ここは二番目の大陸であるアイリスを開放後、先の四名などもそれぞれが別個のギルドを作るまでの歴史要約が多い。
第三期がアイゼンバルド期だ。アイゼンバルド大陸は、今尚最強の土地であり、ゲーム内の高レベル者の憧れの土地で、伝説であるゼストやルシフェリアは、今もここを拠点にしていると書いてある。クラウのギルドの高砂だとか、聖職者No1をイリスと時東とミナスが争っただとか書いてある。
続いてがユレイズ期だ。新規の波である。ユレイズから開始した初心者から上級者集団になったハーヴェストというギルドの手腕が書いてある。ギルマスのレクス、サブマスの琉衣洲が有名だ。またユレイズから開始してアイゼンバルドに行った榎波も有名である。
そして第五期が、エフネス期だ。こうしてみると、新大陸開放のたびに、歴史が変わっていると言えなくもない。こちらは、最短で大陸が攻略された。ここで有名なのは、第三期から力をつけていった、アルトやクライスといった、伝説級ギルドの幹部経験者が新設したギルドが攻略した事や、共闘、生産専門ギルドとの連携としては橘の名前、後は、やはりギルドを横断しての初心者・中級者・上級者支援の話題などで、そこにはアンチノワールというギルド名が出てくる。
アンチノワールというのは、現在は『初心者憧れのブランド』『これを持っていると慣れてきた中級者』という位置づけの、武器ブランドと認知されている。高性能薬剤POTも販売しているし、お弁当というのもある。ただし後者二つは、超上級者向けのようだ。アンチノワールは、鴉羽卿の弟子が作っていると書いてある。そして『鴉羽・銘』の鴉羽商會は、超上級者向けブランドである。さらに鴉羽卿・ルシフェリア・イリスの『桃花源』というブランドに至っては、伝説であり、幻だそうだ。
自分に関係がある所だけピックアップして、ゼクスは煙を吐いた。瞳は気だるい。改めて、自分の周囲と事実を確認してみる。
最初の、ゼストやルシフェリア、クラウ達とのギルドは、『ゼスペリアの教会』という。ギルド名抽選ギルドだったから、今も『クラン』として、特別チャット枠と当選したギルドホームが残っている。実はここのギルマスはゼクスで、サブマスがゼストとルシフェリア、執権がクラウ・ハルベルト・イリスだったのである。他に、双子の義兄弟二名が最初から居た。アイリス開放後に、ヴェスゼスト・ミナスが加わり、NPCが抽選でついてきていたのだが、そちらは『ラファエリア』という。合計十人のギルドだったのだ。
なお、ゼストがブログに書いた、憧れのプレイヤーでステータスを真似た相手はゼクスだし(当時ゼクスのステータスが公式サイトに載ったのだ)、初心者のゼストに武器から攻略まで手を貸して、最終的にゼスペリアの教会メンバーに紹介したのもゼクスだ。鴉羽卿は師匠というか、ゼストのフレであり、ゼクスのフレでもある。本当はラフ牧師という名前なのだが、ゼクスとラフ牧師のステータスで被っている部分が鴉羽色相と言われるようになった流れで、ラフ牧師が鴉羽卿と呼ばれるようになった。広めたのは、自分もその部分が同じであるクラウだ。鴉羽の理由は、ゼクスが、『鴉羽商會』ブランドの『鴉羽銘』を作っていたからであり、それはラフ牧師が作っているわけではない。
これは同時に、ギルド実装前からルシフェリアとイリスと、『桃花源』として、共同のお店ブランドをしていたという話でもある。お店システムも今はだいぶ変わったが、変更時に、こちらも特別クランという位置づけになったため、ゼクスは、二名と今もこちらの特別チャットでいつも話せる。そしてこの頃から、ラフ牧師の他に、英刻院閣下ともフレだ。つまり、かなり長い付き合いなのである。
それからアイゼンバルド期には、そんなフレ達の手伝いと自分のレベル上げに邁進し、ユレイズ期は自分のレベル上げに専念した。その過程で顔見知りが増えていて、そのままエフネス期に入ったのである。ここで、個人的にじっくり話したのは初であるが高砂と時東とアンチノワールを作った。その後、再会した感じで、クライス・副と親しくなり、榎波とアルトと知り合い、琉衣洲が弟子のようになり、当時の初心者としては、桃雪・橘宮・榛名・政宗と知り合った。その後、榎波と橘がアンチノワールに入ったのは、大陸攻略が終了した頃である。
ここまでの間、ゼクスはずっと、鴉羽クラフトというクラウンズ・ゲートの情報サイトをやっていた。戦闘スキルと生産の情報サイトである。今なお、ここより詳しいサイトは存在しない。そしてスキルを全て習得して、全てのレベルをカンストさせ、生産もカンストなのは、ゼクスのみである。トッププレイヤーブログというより、完全に情報サイトとして人気である。そこには、『ゼクス』という名前は出てこない。管理人の名前は『鴉羽』である。
その状況で、現在のフレリスなどを見た。
フレは、ゼスト・ルシフェリア・イリス・ハルベルト・クラウ・双子の義兄弟二名・ラフ牧師・英刻院閣下・高砂・時東・榎波・橘・琉衣洲・桃雪・橘宮・副・榛名・政宗・アルト・クライスの――合計二十一名である。
クランで、追加しつつ分けると、以下だ。
桃花源が、ルシフェリアとイリス。
ゼスペリアの教会が、ゼスト・ルシフェリア・イリス・ハルベルト・クラウ・双子の義兄弟二名・ヴェスゼスト・ミナスの合計十名。ここで、ヴェスゼストとミナスが連絡可能者に追加である。
ハーヴェストクロウ大教会が、ラフ牧師・英刻院閣下・ゼストである。抽選ギルドへのクラン枠配布終了間際に、ゼスペリアの教会を先に解散して、クランチャット枠を取るために一瞬入って抜けたのである。入れ替わりの激しい初心者支援ギルドなので、ラフ牧師がクランチャット側はメンバー整理をしたので、現在はそこに、副をいれて四名とゼクスは連絡がこちらでも取れる形だ。
ここまでが、特別当選クランだった。
そして、エフネス大陸攻略時に、特別ではなく、各個人が3つまで入れるものとして、当時はエフネスの攻略・露店・初心者支援の三つのクランに入っていたのだが、攻略したため、これらが統一される事になった。統一というのは、内輪で再編成という事であり、それぞれは独立して残っている。枠が埋まっているから、開けるための処置だ。
それが、『猟犬クラウン』である。メンバーは、アルト・クライス・琉衣洲・桃雪・橘宮、アンチノワールのゼクスを入れて5人、副・榛名・政宗が象徴的だが、エフネスで攻略に携わった超上級者は全員入っている。初心者が桃雪と橘宮と榛名と政宗のみといえる。アイゼンバルド以外において、はっきり言えば、最強クランである。100名前後がいる。かつ、その初心者も、ユレイズ開始組で初心者を脱した琉衣洲に迫る勢いで強くなっているから、はっきり言って、超強いクランである。
また、ギルドクラン制というのが出来て、十名以下のギルド限定で、ギルチャがクランチャット枠になり、ギルドを解散してもそれを残しておけるし、他の機能はクランになってもギルド部分は全部そのまま、という制度ができた。相談したが、アンチノワールは、ギルドクランにしてしまおうと決まり、『アンチノワール』というクランになった。ギルドクラン枠は、特別枠配布だったので、ゼクスは、後二個程空いていた。そちらの二個にギルドクランを入れる事も可能である。普通枠使用なら、ギルドクランの人数は無制限だったりする。ただし、その場合は、作ってからクラン化しないとダメだが。
また、アンチノワールが、クランになったので、ギルド枠が空いた。しかも、ギルドに二つ入れるようになった。まぁこの辺りが、フレを振り返ってみた理由である。
五つ目の大陸のエフネスが攻略されてから、一年半が過ぎている。アンチノワールのクラン化は、半年前だ。理由は、ゼスペリアの教会がクランONLYになった時に似ていて、みんな自分のギルドを作るとか、新しい事をしたいとか、そういう感じである。ぼっち脱出フレ作りで、エフネスでの活動をしていたゼクスも、目標は達成していた。
しかしなんというか、今なお、ゼクスがTOPである。そう知っているのは、まぁ一部ではある。ゼクスと鴉羽クラフトがイコールだと知らない人もいる。ゼクスがWebでゼクスという名前を出さないのも大きい。アンチノワールのギルマスであるゼクス、として、他のアンチノワールメンバーと同じ、伝説級ではないが超上位というように思われていることのほうが、圧倒的に多い。それはそれで良い。対等なフレだ。