ゼクスと高砂と時東の働き
さてその後、日常的となった光景である。
高砂が言う。
「ねぇ、ゼクス」
「ああ、今やった」
「あのさ、ゼクス」
「終わった」
「ところで、ゼクス」
「終わってる」
「あれはどうなったの?」
「終了した」
ゼクスと高砂の阿吽の呼吸である。高砂が聴くと、ゼクスが終わったというのだ。何が終わったのかはさっぱりわからない。だが、バシバシと亜空間拘置所が稼働していたり、モニターに遠隔破壊風景が映ったりするから、どれかだろうとわかる。
さて、その間で、たまに。
「なぁ、高砂」
「ああ、処理しておいたよ」
と、ロードクロサイト議長が高砂に声をかけ、高砂が返事をする。こちらはたまにだが、こちらも阿吽だ。どちらとも話ができる高砂もすごい。
ただこれ力関係を見ると、時東がやってほしいことを高砂がやり、高砂がやってほしいことをゼクスがやっているようにも見える。けどうまく回っているので、みんな何も言わない。普段は、ゼクスは宰相代行の書類仕事を円卓で始めた。高砂はPSYで人探しおよび敵探知だ。橘はお茶を出しながら、いつでも避難できる準備である。名目だが。榎波は総合リーダーとして、情報をここで待っている。時東は、意識不明者の元に行きつつ、あとは座っている。座っているのは、モニターを表示しているだけで高砂も同じだ。むしろ働いているのは、ゼクスだけである。討伐も捜索でも、ゼクスが圧倒的だろう。
「ねぇゼクス」
「終わった」
「あのさゼクス」
「できた」
「ちなみにゼクス」
「終わってる」
「そういえば高砂」
「今やった。あのね、ゼクス」
「終わりだ」
「そうそうゼクス」
「もう終わってる」
「ところで高砂」
「完了したよ。あとさ、ゼクス」
「終わった」
書類整理をしているゼクスと高砂と、時々ロードクロサイト議長のやりとりである。なんだか不思議な光景だ。榎波と橘がそれを眺めている。だが、ある日ついに榎波が聞いた。
「これは、思いつくのが、一番遅いのが時東で、次が高砂で、お前らが思いついたときには、ゼクスが終わらせているのか? それとも時東が最高指揮者で、最下位がゼクスなのか? それとも高砂が全ての指示を出しているのか?」
すると三人が顔を上げた。
「ん? 何の話だ?」
ゼクス、首をひねっている。すると高砂が嘆息した。
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「俺とゼクスの場合は、俺が思いついた時にはゼクスが終わらせてる。俺と時東の場合は、時東の指示を俺が先回りしてやってる」
「――ゼクスと時東のどちらかがリーダーをやるとどうなるんだ?」
「時東が指示を出す前にゼクスが終わらせるから、時東は指示をする必要が無くなって、結果、ゼクスのみが働く」
****
「俺達の、主語しかない会話の意味が知りたいってことでしょ?」
「そうだ」
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そんなある日だった。
「ロードクロサイト議長はさすがだな……過労死しないのか?」
傍から見ているとどう考えても逆なのだが、ゼクスが時東に声をかけた。尊敬するような顔をしているし、珍しく瞳がキラキラしていた。人々ちょっと息を呑む。すると時東もまた珍しくニッと笑った。
「――俺の有能さを分かってくれるのは、お前で三人目だ。高砂、ユクス、お前だ」
それを聞いた榎波が、高砂を見た。
「解説を頼む」
「俺、この二人の解説係じゃないんだけど」
「だがこの二人両方の右腕はお前だ」
「……ええとね、それ、一応俺は、万象院からの偵察に行ったらなっちゃっただけなんだよ」
「結果は同じだ」
高砂がため息をついた。