ゼクスと時東の馴れ初めのひとつ




 ゼクスは、時東を見て、すごいなぁと思っていた。時東は、なんでもできるし、頭も顔も家柄も良い。世の中には、こんなにパーフェクトな人がいるのかと驚いていた。条件的には高砂だってそうなのだが、高砂は一応対立宗教の万象院の人間だったし、前から知っていた。だが、ロードクロサイト議長として初対面の時東には、なんだか感銘を受けていた。何かと比較される事が多かったが、勝てないなとゼクスは思っている。

 しかも闇猫の自分にも、ロードクロサイト議長は優しい。最下層の孤児であるのに、優しい。ゼクスは……次第に、時東に惹かれ始めた。もちろん叶うはずもない恋だから、決して顔には出さなかったが。

 が――時東は、本来別に優しくない。ゼクスが相手だから優しいのだ。時東は、慈善救済診療所の医師時代に、ゼスペリア教会の牧師であるゼクスに一目惚れしていたし、そのゼクスが闇猫隊長として同僚(?)になったものだから、浮かれに浮かれているだけだ。時東が優しいのは、ゼクスのみにである。

 これには、闇猫も黒色も気づいた。ガチ勢は、最初から知っていた。ゼクスの前でのみ、時東はロイヤルな笑顔になる。しかし傍から見ていると、ゼクスの方が無反応である。困ったのは、レクスだ。異母兄弟である。蔑んできたが――……なんだか複雑だった。ロードクロサイト議長派とも仲が良いわけではない。しかし一応、ゼクスの保護者は、年下だがレクスだ。所属も違うが、兄弟である。

 時々ゼクスも時東に対して優しい顔をする事に、人々は気づいた。この二人のあわーいあまーい遅々とした恋愛に、次第にみんな、興味津々になった。ゼクスは気づいていないが。時東も実はそこまで注目されているとは、思っていなかった。

 ついに二人が結ばれたのは、ある雨の日だった。
 激しい雨足に足止めされた二人は、最初宿屋の軒先で雨宿りをしていたのだが――雨が止むまで休もうということになり、部屋に入った。風邪をひいたら悪いからとゼクスが先にシャワーを浴び、続いて時東が入った。

 ふたり揃ってバスローブ、ベッドは一つだった。
 時東は……今更になって、ゼクスと二人きりだと認識して、ゾクリとした。ゼクスは……時東が綺麗だと思った。ふたりは……自然と距離を縮め、キスをした。そのまま転ぶようにベッドになだれ込み、ふたりは一線を超えた。

 こうして闇猫の隊長とロードクロサイト議長が付き合い始めた。
 これは直ぐにバレた。もうふたりの空気が甘すぎて、何かあったと気づかない方が無理だった。時東はでれっでれだし、ゼクスはあからさまに照れ始め、時東を目で追いかけている。そんな場合ではないのだが、使徒オーウェン礼拝堂に、ちょっとした祝福ムードが流れた。