ゼクスのじゃがいも
「何をしているんだゼクス」
「ああ、榎波。高砂がな、じゃがいもの苗をくれたんだ。それで、育たないかと思ってな」
ゼクスが微笑すると、榎波が片目を細めた。理由は三つだ。一つはあんまりにも綺麗な顔でゼクスが笑ったから、犯し方を考えた。二つ目は、いくら品種が強い芋であっても、土壌が貧弱な上に汚染されきっているこの最下層という土地では、レストラン経営者として産地にこだわった食品も扱っている身として、絶対に真っ当な食物など育たないと断言できるからだ。最後、三つ目は、それらを言わずにゼクスを応援し、毎日育たないじゃがいもに水をあげるゼクスをせせら笑ったら気分が良いだろうなと思った。
恐らく高砂も同様の考えだろう。今から泣きそうな顔のゼクスを想像しては、嗜虐心が満たされた。
「よぉ、何してるんだお前ら」
そこへ時東がやってきた。白衣のポケットに両手を入れた彼は、しゃがんでいるゼクスと、その隣に立っている榎波を交互に見ている。
「ゼクスがじゃがいもを植えるそうだ」
「イモ?」
「じゃがいもが採れたら、榎波がポテトサラダを作ってくれるだろう」
嬉しそうなゼクスの声に、時東が榎波を見た。榎波は何も言わない。無論、作る気などない。榎波のそんな考えを察し、時東は曖昧に笑った。
「ゼクス様よ、あんまり周囲に期待をしてはダメだぞ」
「何でだ?」
キラキラした笑顔のゼクスを見て、時東は吹き出しかけた。ゼクスはお人好しである。性善説を信じているらしい。