【◆】待っている高砂





 高砂は、最高学府の研究室で、ぼんやりと窓際に立っていた。
 窓の外を、黒い鴉が飛んでいく。
 昼下がり、いつもと変わらぬ風景だ。

「……」

 それから、テーブルの上の、鳴らない通信機を一瞥した。
 正確には、鳴る事は鳴るのだが、待ち人からの連絡が無いのである。
 続いて高砂は、壁に掛けてあるカレンダーを見た。

「……五ヶ月と三週間と六日、か」

 明日で、丁度半年間、連絡が無い。誰からかと問われたならば、恋人のゼクスからだとしか言えないのだが、ここまで来ると、本来であれば自然消滅を疑う。高砂自身も、半分程度は、その可能性を考えていた。

「絶対にそれは認めない」

 無表情で、ポツリと高砂は呟く。それから静かに瞼を伏せて、改めてゼクスの事を考えた。ゼクスは、ゼスペリア教の法王よりも偉い存在を守るための部隊の隊長をしている。実に多忙だ。それは、分かっている。

 実際には守っておらず、その偉い存在はゼクス自身であるから、本人の判断で、彼は、地下の廃棄都市遺跡にて、生体兵器を討伐している。それが多忙の理由だ。