常識人な高砂
――高砂が恋しているらしい。
この衝撃的な事実は、全集団を駆け巡った。もっとも、全集団に高砂が関わりがあるからかもしれない。きっかけは、一言だった。
「まぁ俺も気持ちは分かるよ」
「好きな相手がいるのか?」
「うん」
頷いたのは無意識だったらしい。だが、人々は聞き逃さなかった。直後、高砂がはっとした顔をした時には、既に遅かった。榎波は意地悪く、橘は楽しそうに、時東は興味深そうに、ゼクスはキラキラとした瞳で笑っている。黒咲・猟犬・ギルド・闇猫の各自は、万象院&ガチ勢トップの高砂に目が釘付けだ。
「誰なんだ?」
翌日の円卓で。榎波が聞いた。お茶を持っていた高砂が咳き込みそうになったのを、気合でこらえた。いつもは無表情のゼクスが、ちらっと高砂を見た。いつもは気だるい顔の時東なんて、笑顔でガン見だ。橘はいつも通りである。笑顔だ。
「何が?」
「好きな相手だ」
「……別に俺の好きな相手なんて、榎波には無関係でしょう?」
「無関係? とんでもない。応援してやる。言え、言うんだ」
ここまで共闘も何もあったものではない円卓であるが――なんだかみんな、今回、高砂に人間味を感じていた。しかし高砂は面白くなさそうだ。
「せめてどこの集団か教えろ。今この円卓に、全集団のリーダーがいる。表の対応も可能だ。学府時代なら時東が顔が利くし、華族は私、貴族は橘、ガチ勢ならゼクスが詳しい」
その言葉に、これまで協調性など存在しなかった時東もこみで、みんなが頷いた。
「俺より、君達はどうなの?」
高砂がボソッと言った。話を変えたのは明らかだ。だが……みんな少し考える顔をした。そして、榎波が言った。
「私は普通に恋愛をしている」
「俺も俺も」
橘が頷く。するとゼクスが目を丸くした。
「俺はこれまで恋愛なんて考えたこともなかったが……羨ましい」
純粋だった。子供のようだった。
「俺はそんなゼクスが好きだ」
さらっと時東が言った。これに、何人も吹いた。
「?」
「闇猫と黒色の道ならぬ恋。どうだ?」
「何がだ?」
「俺と付き合ってくれ」
「お前頭がついにおかしくなったんだな」
しかしゼクスには伝わらなかったし、時東が本気かどうかも人々には不明だった。時東はたまにくだらない冗談を言う。
「で、高砂は誰なんだ?」
時東が話を戻した。するとおせんべいを食べながら、高砂がジト目になった。
「俺? 俺はね、許嫁がいるんだよ。緑羽の若御院。今度紹介するよ」
「「「「!」」」」
まっとうな結果に、四人は何も言えなくなった。