恋に恋する弱っちいゼクス
苦労性の闇猫隊長のゼクス=ゼスペリアは、恋に恋する事はあったが、自分には無理だろうと考えていた。なにせ普段は、最下層の牧師である。闇猫時も、闇猫は立場が弱いから各集団から雑用係として蔑ろにされているし、闇猫内部でもゼクスは孤児上がりだから馬鹿にされている。さらにはメルディ猊下直属の護衛だから、ラクス猊下からなんかは目の敵にされている。誰もやりたがらなかったのと、ゼスト家直轄の仕事なのだが……ゼクスは、メルディ猊下の事もそんなに嫌いではない。
「なぁ闇猫隊長よ」
そんなある日、ロードクロサイト議長が、興味本位でいった。
「お面とってくれ。お前、どんな顔してるんだ?」
実はこれは、多くが気になっていた事だ。誰も止めない。レクスしか、ゼクスの顔は知らないのだ。
「ん? ああ、わかった」
すると、意外にもあっさりとゼクスが面を取った。別に隠していたわけじゃないのかと思った後――人々は目を見開いた。凍りついた。冷や汗が浮かぶ。
「――え? お前その顔、何?」
「?」
ロードクロサイト議長の言葉に、ゼクスが首を傾げた。変という意味か、考えているのが、周囲にはわかった。というのは、ゼクスはOther部分以外のESP-PKの操作が甘いので、みんなに丸見えなのである。これは闇猫の技術の問題だ。数値自体は問題がない。
考えてみれば、美形のレクスの兄なのだから、美しくても不思議はない。
――しかし、周囲の聖職者や貴族・華族から、ねっとりとした視線が飛ぶ。
最下層の孤児出自の闇猫だ――手を出しても処罰は受けない。
その一般人の思考も、勿論読み取るのは簡単なので、円卓の人々が思わず、失敗したと思った。ゼクスには、分かっている気配がないが――おそらく、頼まれて押し倒されたら、ゼクスは断れない。
「ゼクス。良いか? これは、ランバルト大公爵としての私の命令だ。宗教院の命令と考えろ。今後、お前に聖娼婦を迫ってきたものは、敵とみなし、監禁拘束後、こちらに連絡しろ」
「は? 俺をか? さすがにそんな人はいないだろうが……」
ゼクス、やはり分かっていない様子だった。しかし、頷いている。
「いいな? 性行為は好きな相手以外とはするな」
「ん? いやあの、俺は一応牧師だから……基本しないけど……恋、か。憧れるな」
そう言ってゼクスが、少しキラキラした瞳をした。恋に恋している瞳だ。