ゼクスの闇汚染
ある日、ゼクスが咳き込んだ。なんかフラフラしてるなと思いつつ、最下層の牧師だからと誰も気にしていなかったのだが――この日、時東がそれに気づいた。ゼクスが手をふこうとした時、その手首を時東がとった。
「お前、その血は?」
「……」
「いつからだ?」
ゼクスは何も言わなかった。体中が痛いが、いつもの事である。最下層の人々は、病気・貧血・栄養失調は、もう健康と同じことだ。普通なのだ。その内自分も死ぬだろうが、闇猫は代わりがいっぱいいるし、戦力として宛にもされていないので、特に問題もない。そういう思考だった。
「ゼクス?」
その時、時東が、ゼクスの瞳が一瞬陰ったのを見た。さらに高砂が横で息を飲んだ。ESP探知をしている気配がする。二人が顔を見合わせた。同じ事を考えていた。
「……時東、俺はそうだと思うけど」
「――そうか。ゼクス、この球体を見てくれ」
「?」
時東が差し出した、手のひらサイズの水晶玉――のような、PSY融合医療装置を見た瞬間、ゼクスが倒れた。時東が抱き抱える。
「病気由来闇汚染だ」
「――人工作為痕跡がある。敵兵器攻撃の可能性が高いよ」
時東と高砂の声に人々が目を見開いた。
意識レベルが低下した状態で、ゼクスが咳き込む。血が大量にこぼれた。これまでOtherで自己治癒していた分が、少し弱まったのだ。