【SS】魔術師の、初夏!


初夏が来た。年中梅雨の俺にとっては数百年ぶりだ。
それも隣にサフが立ってくれているからだ。
恥ずかしいが、現在俺は恋人つなぎというものを経験している。
指と指の合間をギュッと握られる感触。それだけで羞恥が募って頬が熱くなってくる。
けれどそれよりも、夏の日差しを浴びることができた事実が嬉しすぎて、俺は高揚感を覚えずにはいられなかった。

「嬉しそうだな」
「夏なんて何年ぶりかわからないからな」
「俺がそばにいるからといえ」
「っ」

確かにそれもすごくすごく嬉しいのだが……そんなことを口に出せるほど俺は恋愛玄人ではない。ああ、胸がポカポカする。少し蒸し暑い事実も俺にとっては嬉しい出来事なのだ。

今日は二人でピクニックに出かけることにしたのだ。
食材はサフが持ってきてくれたから、気合を入れてサンドイッチを作った。
りんごジャム入りのクレープを作ったことには別に他意はない。
サフがりんごを好きだからなんかじゃない。断じて違う。そんな風に内心で言い訳してみた。その言い訳を効かせる相手はいないのだが……。

それから暖かい日差しの中丘まで歩いた。二人で草原に座る。
その間もずっと手を繋いでいた。サフが離してくれないからだ。
それだけだ。

「おいソーマ」
「なんだ?」
「今、幸せか?」

突然の問いに俺は硬直した。何を当たり前のことを聞くのだと思った反面、正直恥ずかしくなって俯いてしまった。なぜならばこの幸せは、空が快晴だからではないからだ。その……サフが隣にいてくれるからだと自覚している俺がいたのだ。

「まぁ顔を見ればわかるけどな」
「な……」
「真っ赤だぞ。まだ熱中症には早いだろう」

反射的に両手で顔を覆おうとしたが、サフは俺の手を離してはくれなかった。
逆に抱き寄せるようにされて、気づけば俺はサフの腕の中にいた。
今度こそ赤面するなという方が無理だった。
両腕に力を込められ、息を飲む。頬が熱い。

「サンドイッチ……」
「お前を食べたい」
「な」
「一度言ってみたかったんだ」

そういうとサフは喉でクスクスと笑った。俺は完全に手のひらで転がされている気がする……。サフは相変わらず意地が悪いと思うのだ。それでも、大好きな俺がいる。
恋、恋か……。
まさかこんな日がくるとは思ってもいなかった。
本気でどうしていいのかわからない俺がいる。

「俺は幸せだぞ」
「……そっか」
「まぁ空を見ればわかるか。ただな、言葉にしないと伝わらないこともある。少なくとも俺はそう思う。違うか?」
「俺に何を言わせたいんだよ」
「俺のことが好きか?」
「な、なんだよ急に」
「ソーマの口からちゃんと聞きたい」

俺は心臓が破裂するのではないかというくらいドキドキした。
だけど。
確かに伝えたかった。それは嘘じゃない。だからギュッとサフの胸の服を掴み、額を胸に押し付けて顔が見えないようにしてつぶやいた。

「好きだよ」

ああ。
夏も、そして俺たちの恋もまだ、始まったばかりだ。