SIDE:時夜見鶏(後)


>>聖龍暦:9500年(二千二百四十九年後)


やっと仕事が終わった。明日から、二日間お休みだ。早く帰って寝よう。
そんな事を考えながら、俺は<鎮魂歌>を出て、朝蝶を見てしまった。
無理無理。相変わらず鬼ごっこは続いている。
本当、面倒。それに今日疲れてるし、回避回避。
「あ、時夜見、飲みに行かない?」
遠回りだが土手を歩いていると、愛犬天使がいた。
「……ああ」
それもいいかもなぁ。明日お休みだし。そんな事を考えていた瞬間、横の壁の魔法陣が歪んだ。あ、何か嫌な予感。
恐る恐るそちらを見れば、そこにはやはり――破壊神がいた。
「おい、久しぶりだな」
しかも何か、顔が怒ってる。
愛犬天使がその迫力と威圧感に、後退ったのが分かった。
「死んでるかと思ったぜ」
破壊神はニヤリ笑ってそう言った。え、なんで? 俺前回会った時、死にそうな顔してたのかな?
首を傾げてよく見ると、破壊神の額から血が垂れていた。
「ちょっと来てくれ。頼みがあるんだ」
何処に? 頼み? 何で俺に?
よく分からないが、怪我の放置は良くない。
「……おい」
「説明している時間が惜しいんだ」
「飲め」
俺は魔法薬を渡した。すると破壊神が目を見開いた。
それから逡巡するような顔をした後、ニッと笑って一気に飲んだ。効果とか聞かれるかと思って成分を思い出していたんだけど、何も言われなかった。毒だったらどうする気だったのかな。
「なんだこれ、すごくいいな。体が楽になった。もう一本くれ」
そりゃあ回復薬兼傷薬だしな。俺はもう一本手渡した。そのまま五本くらい飲まれた。
酷い。結構作るの大変なんだよそれ。
「よし、行くぞ」
だから何処に? 俺泣きそう。明日お休みなのになぁ。でもコイツと戦う感じじゃないから、良いかな。それに急ぎらしいし、後で用件聞こう。
「……ああ」
魔法陣に潜った破壊神の後を追い、俺も入った。
空間魔法に似ていたので、破壊神の気配を探り、一緒の場所に転移する。
そこは空中だったので、着地の衝撃を魔法で和らげた。危ないなぁ、もう。
「……?」
そして俺は思わず眉を顰めた。正面には巨大なタコがいた。見上げる。何この大きさ。
俺が1とすると10000くらい大きい。
たこ焼きいくつ作れるかな。
「助っ人を連れてきた」
破壊神の声で我に返る。するとそこには、沢山の神々がいた。別世界の。
「おお若いの、心強い」
「流石は俺の指揮下」
「頑張ってくれよ」
皆が破壊神を褒め、破壊神は俺を見ている。助っ人?
困惑していると、神の一人から、巨大な棒を渡された。先には巨大な鉄で出来た白い球体がくっついている。何これ。同じ物をみんな持っていた。見れば、タコに群がり、みんながそれでタコを叩いている。なんで?
「全ての世界の上位にある総合世界でも名だたる世界敵だ」
誰かが嗄れた声で言った。何、総合世界って。ニュアンス的に、全ての世界と繋がってる感じだったけど。それに、世界的? あのタコが? まぁあれだけ大きければな! みんなに、世界的に知れ渡るかも知れない。俺知らないけど。
「倒すぞ、行こう」
キリッとした感じで破壊神が言った。
こうしてよく分からないまま、俺はタコ叩きを始めた。かなり木魚をぽこぽこ叩いている感じだが、タコは足で、たまに暴れる。俺は避けた。が、他の神々は大半が攻撃をまともにくらい、大体一撃か二撃で戦闘不能になり、後退して回復を待っている。人(神)手は多いので、それでも叩く人(神)数は減らない。破壊神は、十回に一回くらいの打撃で、後退している。後退していないの俺だけ。辛い。もう三十時間は叩いてる。なんで? なんで!? なんで俺、タコ叩いてるの? 今日お休みなのに。誰か俺に説明して、状況を! そんな気持ちで、隣で俺の魔法薬を飲んでいる破壊神を見た。欲しがられる度に渡すのが面倒で、時空魔術冷蔵庫を解放したため、ガツガツと瓶を手に取られ、飲まれている。あーあ。また魔法薬作らないと。
っていうか、タコ叩き飽きた。
なんか倒せば良いんだよね、これ。
「おい」
「ん?」
俺の声に、額から流れる血を拭い、破壊神がこちらを見た。
「埒があかない、倒すぞ」
「おぅ。俺も同じ心境だ」
同意を得たので俺は跳び、棒の丸くない方で、固いタコの皮膚を突き破り、それから正面にひいて、スイカを切るように、縦に切った。
俺が一瞥すると、待ちかまえていたように破壊神が、正面に出来た隙間に攻撃を打ち込んだ。
「≪ドドンパ≫」
何かよく分からないことを言っていたが、かなり強い衝撃波を伴う攻撃だった。
異世界の攻撃呪文だろう
多分200000打ちょっとの攻撃だった。強くなってる……!
結界、強化しないとなぁ。
二人で跳び、後ろを向いた。
崩れ行くタコが盛大に土埃を上げたからだ。
すると正面で回復していた神々が、こちらを見ていた。
「≪総合世界神称号――最強神:時を入手しました≫」
「≪総合世界神称号――最強神:破を入手しました≫」
その時、ピロリロリーン、みたいな音がした。俺の右手に、謎の金メダルが現れた。俺と破壊神に一つずつだ。何これ、イラナイ。とりあえず空間魔法で、適当に収納した。丁度一カ所、からの所があったのだ。後で捨てよう。
「流石だな」
破壊神が言う。
「……もう帰って良いか?」
良いよね? タコでしょう? 目的。
「うん、またな。今度、飲みにでも行くか」
また戦うのは嫌だが、飲みにくらい行っても良いかなぁ。
「……ああ」
ま、社交辞令かも知れないしと考えて、頷いてから俺は帰った。

驚いたことに、俺の世界では、三時間しか経っていなかった。
なるほど、別の世界だから、時間の流れも違うんだ。
よし、自宅に帰って寝よう。


それから暫くして、戦況が激化した。
空巻朝蝶を俺の魔の手から守るためらしい。え? どういう事?
しかも朝蝶も、最近戦闘の最前線にいるから、必然的に俺も前。すごい怖い。やっぱり、強いなぁ。俺に匹敵すると言われるだけはあるかも知れない。恐らく、聖龍は今平常時モードだから除くとして、この世界で俺の次に強い。
他の世界は知らない。
本日もそんな感じで戦闘を終え、俺は久方ぶりに、半休を得た。
眠い。
ここのところ、戦争ばっかりで、全然寝てない。しかも、朝昼が、戦争多いんだよね。何で夜じゃないのかなぁ。はぁ。
なんか二百年くらい寝たい。
そう考えて俺はハッとした。異世界なら、半休の内の数時間で、二万年だって、眠れるじゃないか! そうだよ、いいなぁ!
決意した俺は、半休が来てすぐに、官舎の裏手で目を伏せた。
予知の能力を応用して、こちらが二時間経過する時に約二万年経過する場所を探した。
すぐに見つけて、転移魔法で移動した。効くものである。異世界でも。

「……えええ」

しかし向かったそこには、沢山のミミズがいた。しかもタコと同じくらい大きいし、地表を埋め尽くすくらい大量にいる。寝る前に掃除しよ。汚いなぁ、もう。
「≪夜壊線ナイトブレイク≫」
俺が持ってる魔術の中でも比較的強い奴を、広範囲に放つと、ミミズは全滅した。なんか可哀想だけど、害虫は駆除しないとなぁ。増えちゃうから。
「≪総合世界神称号――殲滅神:時を入手しました≫」
するとまたピロリロリーンって音がして、俺の手に、何か変なのが現れた。イラナイ。また俺は空間魔法で収納スペースに謎の称号を放り投げて、それから、ミミズの下にあったらしい芝の上に寝転がった。この世界、中々良いなぁ。真っ暗だ。夜しかなさそう。ここに住みたい。
そんな事を考えながら俺は寝た。
そしてこの世界で、五百年くらい経った時だった。
「煩いな」
流石に騒音が気になって、俺は目を開けた。
こちらへ向かって、鉄のかな棒を持った、二足歩行の巨大な牛が歩いてくるところだった。
歩く度に、ドシーン、ドシーン、と音がする。コイツが原因か、この牛が。
「≪光雷夜サンダーナイト≫」
俺は一撃必殺の魔法を放った。牛は倒れた。
「≪総合世界神称号――闘神:時を入手しました≫」
また変な音がして、いらないものが出てきたので、収納スペースにしまった。
その時、遠くから、もっと酷い、ドシーンが響いてきたので、思わず眉を顰めたら、牛が五体もいた。もうヤだ。
「≪夜雪スノウナイト≫」
範囲魔法で一気に倒した。
「≪総合世界神称号――救世神:時を入手しました≫」
よく分からないが、また称号が出てきた。何これ、本当。何に使うの?
まぁいいやと思って、それも空間魔法の中に放り投げ、俺は、自分の周囲に結界を張り、寝た。最初からこうしておけば良かったなぁ。
そうして一万五千年が過ぎた頃――無数の何かが結界を破ろうとしていたので、俺は起きた。ミミズと牛と後はよく分からないダンゴムシみたいなのと、イカみたいなのと、恐竜みたいなのが、ひしめいていた。全部巨大だ。あー、やっぱり定期的に掃除しないとな。
「≪夜壊線ナイトブレイク≫」
とりあえずHPを削ろうと思って放ったら、一撃だった。あれ、相手の感触が弱くなってる。全滅しちゃったよ。いや、俺が強くなってる? え、なんで? 見ればHPもMPもだだあがりだった。なんで?
「≪総合世界神称号――滅狂神:時を入手しました≫」
また出てきちゃったよ……もういいよ。本当イラナイのに。ぽい。
俺は結界を張り直して、寝た。
さて、そろそろ二万年。ふいーっと思いながら、結界から出ると、緑が広がっていた。
帰るか。
と思ったら、俺が来た時に作った転移用の魔法陣の周囲に、変なのが一杯いた。何あれ、ヒトデとパンダがくっついたみたいな奴。大きいなぁ。ま、俺も鴉と鶏がくっついたみたいな本体だけどさ。五匹いた。邪魔だ。
「≪夜壊線ナイトブレイク≫」
ああ、何回これ放ったの、俺此処で。けど久しぶりに熟睡したから気分が良いなぁ。
「≪総合世界神称号――破壊神:時を入手しました≫」
その言葉に俺は唇をとがらせた。え、俺も破壊神になっちゃったの? よく分からないけど、まぁ、いつもの通り、放り投げておこう。空間魔法って便利だよな。
そんなこんなで、俺は帰った。


鬼ごっこは相変わらず続いているが、最近空族と聖龍は和平の道を模索しているらしい。
聖龍頑張ってくれ。
祈りながら、俺が歩いていると、暦猫に呼び止められた。
「今度の遺跡調査の件なのですが」
俺は、遺跡が好きだ。良いよね、何か夢がある感じでさ。
「第二師団と第七師団の合同調査となりました。第八師団もついていきますが、控えです」
「……」
顔が思わず引きつりそうになったので、笑って誤魔化した。
第二師団……朝蝶の所だ。うわぁ。え、その間も鬼ごっこするの? ヤだよ?
「くれぐれも、追いかけないように」
溜息混じりに続いた暦猫の声に、心底安堵した。良かったぁ。鬼ごっこしなくて良いんだ。

「……よろしくお願いします」
「……ああ」

遺跡の正面に建設した宿舎で、喋々と会った。
凄く嫌そうな顔をされたので、俺は短く応えて頷いた。
「大変です、指揮官のお二人に用意した部屋の片方が、水漏れしています」
そこへ血相を変えた兵士が数人やってきた。
見たことがないが、服装からして、第二師団と第七師団で諍いがあった際に仲裁することになっている、第八師団の人達だろう。第八師団は、聖龍直属の部隊だ。ただ聖龍は忙しいから、ここには来ていない。
「……使え」
俺は朝蝶を見た。なんか、悪いし。俺別に、部屋とか気にしないし。草むらでもいけるし。
「いえ……どうぞ」
いい人だ。
でも冷ややかな声で朝蝶言った。これ、相当俺のこと嫌いそう。話すのも嫌みたい。俺、なんかしたっけ?
あれかな……本人も、本当は嫌だったのかなぁ、俺以外選択肢なかったけど、ヤったの。そんな事言われても、俺も困る。俺だって、好きでヤった訳じゃないし、二度とやりたくない。ヤりたくない! 何て返そうかな。俺が黙っていると、朝蝶が顔を背けた。
「では……二人で使いましょう」
続いた言葉に、俺は虚を突かれた。え、嘘、凄い気まずいと思うんだけど。じっと朝蝶を見る。何考えてんの、この人?
よく分からないが、そう言うことになった。俺、断れなかったよ……はぁ。
それから食事の時間まで無言の時が続いた。
幸いベッドは二つあった。誰かが魔法で追加してくれたんだろう。元々は一人部屋のはずだったし。そんな事を考えていると、ノックの音がして食事が運ばれてきた。
俺と朝蝶は、ベッドの合間にある、正面の机に座った。
食事を置いて、兵士が帰っていく。
「……」
「……」
うう、会話が生まれない。何この気まずい食卓。ご飯くらい、気楽に食べたいのに。憂鬱だよ、早く水漏れ直らないかなぁ。けど魔法でふさげないとしたら、無理だよな。俺、見てこようかなぁ。結構修理、得意なんだよね。一人で笑ってしまう。
すると朝蝶が怪訝そうな顔をした。
あ、多分俺のにやけ顔が気持ち悪かったんだな。
顔を背け瞬きをした――その時だった。不意に予知が起きた。
食事両方に毒がはいっていて、俺も朝蝶も藻掻いていた。
ああ、俺はよく暗殺されかけるし、朝蝶も死んでも良いか、くらいのノリで、誰か食事に毒もったな、これ。俺が目を開いた時、まさに朝蝶が、毒の入ったハンバーグを切り分け、フォークを突き刺そうとしていた。まずい。
「!」
俺は机の上の皿を、反射的に全て薙ぎ払った。
朝蝶が目を見開き、がしゃんと割れる音が響く。あーあ。お皿、もったいない。
それより、状況を説明しないとな。
「毒だ」
うん、これで分かってくれるだろう。
「――毒?」
怪訝そうに首を捻ってから、立ち上がった朝蝶が床に落ちている料理を拾った。
え、もう食べられないと思うよ、それ。っていうか、毒入りだから。俺の話聞いてた?
「どうする気だ?」
「確認してきます」
「どうやって?」
俺ですら予知が無かったら分からなかったんだから、恐らく新型の毒だよ。だから毒味には引っかからないはずだけど……。

「食べさせればいいでしょう? 兵士に。どうせ、ほぼ不老不死ですし」

なんて事を言うんだ、と思い、俺は呆然としてしまった。
スタスタと朝蝶が歩き始める。
だめだめだめ。それ、もがき苦しんで死ぬ系だから、絶対駄目。
死ぬって言うか、消滅……? は、しないまでも、神様でも千年くらい眠りにつく毒だよ、それ。
慌てて追いかけた俺は、扉を開けようとした朝蝶の後ろから、その扉を押して締め直した。
「なんですか?」
不機嫌そうに、朝蝶が呟いた。
「……待て」
本当に待って、行くの待って、俺、今からその毒について説明するから!
俺の両腕の間にいる朝蝶を見る。
すごく不愉快そうに振り返って、俺を見上げている。
「――ああ、もう!」
「?」
その時、急に朝蝶が、俺の体に抱きついてきた。
相変わらず良い匂いがするなぁ。だけど、え、え? 一体、何?
「どうして貴方は――っ」
言いかけた朝蝶が目を見開いて、俺の腕の中に倒れ込んできた。
慌てて受け止め、すぐ側にある耳元で聞いてみる。
「なんだ?」
「っ……そ、その……ラピスラズリのビヤクの後遺症で、最初に出された貴方に触られると……体が、熱く……っン」
何かまた、ビヤク来ちゃった……今度、ビヤクって何か調べて、薬あげよう。俺、大抵の薬は作れるし。解毒は得意だ。だってビヤクって言葉、もうそれだけで嫌な予感しかしないし。
「うあッ」
俺の腕の中で、震えながら、朝蝶が熱い息を吐いた。
華奢だなぁ。
けど、胸にずっと朝蝶の全体重がかかってるから、ちょっと重い。
俺より背は低いけど、平均で見ればそこまで低くないし、軍人(神)だからそれなりに筋肉もある。いくら腰が細くても、いくら色白でも……重いんだよ!
「離せ」
ついムッとして言ってしまった。
もういいや。食事、諦めよう。眠いし。此処まで来るの、徒歩だったから疲れてるんだ。
兵士の神々が全員転移魔法覚えればいいのになぁ。
「寝るぞ」
宣言し、俺は寝台へと向かった。
ベッドに座りながら振り返ると――うう、怖い、朝蝶がすぐ側に立っていた!
なんで? こっち俺のベッドなのに……!
「……」
思わず無言で険しい顔をしてしまった俺は、若干泣きそうになりながら、朝蝶を見上げた。朝蝶を見上げるって、新鮮だな。
「でも……外にみんながいるのに」
続いた小さな蝶々の声に、俺は首を傾げた。え? 何の話し? そりゃあ、みんないるだろうけどさ。それがどうかしたのかな? あ、眠れないとか? 繊細だなぁ。
「人がいると嫌なのか?」
「……っ、そんなのあたりまえです……」
「……そうか」
頷いた俺は、念話で全兵士に通達した。
「『朝まで、指揮官室には近づくな。これは、命令だ』」
ふぅ。一人満足して頷いた俺の前で、驚いたように朝蝶が目を見開いている。
「これで、寝られるだろ」
「え、あ」
「……さっさと横になれ」
きっと疲れてるだろうしね、朝蝶も。念話は朝蝶の耳にも入っているから、俺が人払いしたの分かっただろうし。
俺は横になり、布団を被った。早く寝よう。明日も早いし。
ああ、眠いなぁ。
「――って、え、ちょっと時夜見」
すると狼狽えたような朝蝶の声がした。あああ、寝付けそうだったのに……!
「なんだ?」
「寝るって……睡眠?」
「? ああ」
他に何かあるんだろうか。怪訝に思って眉を顰めた。
「僕、体の熱がおさまらないんですけど」
「大変だな」
「……っ……意地悪しないで下さい」
は? 俺意地悪したかな? 食事を食べられなくなったのを、怒ってるのかな?
どうしよう。
「発作が起きたらもう、ッ、もう、貴方に抱いて貰うしかないんです」
え、そうなの!? 潤んだ瞳で、抗議するように朝蝶が俺を見ている。
いやでも、そんな事を言われても。
困って朝蝶を見ていると、するりと着物を脱いだ。今日は下着を着けている。買ったのかな。そして俺が横たわっている寝台の上に乗ってきた。嘘……まじで? 本気? またヤるの? ヤだ。
「朝蝶……」
頼むから落ち着いて、明日の朝も早いしさぁ。祈る気持ちで俺は朝蝶を見据えた。情けないほど眉が下がったのが自分でも分かるよ。
慌てて半身をおこすと、朝蝶が俺の服を脱がせにかかった。
呆然としていると、そのまま脱がせられちゃった。上も下も下着も。
ぎゅっと朝蝶が俺に抱きついてきた。また全体重がかかって重たい。しかも肌と肌が密着しているから、なんか、変な感じ。思えば、こんなの初めての経験だ。この前俺、上は着てたし。嫌、そんな事を考えている場合じゃない。
「自分でやれ」
うん。俺は、断らないと。
「っ、は、はい……自分で、解します」
ん? アレ? 何か違っ、うええ? は? 待って!
俺は慌てて、朝蝶の肩を、軽く両手で叩くようにして持った。
「……」
しかし何て言えば良いんだろう?
考えている俺の前で、二本の指を口に含んで濡らしてから、朝蝶が、膝立ちで後ろを解し始めた。始めちゃった! もう前は起ってるし……息づかい荒いし……えー。
険しい顔でじっと見てしまう。
「っ、恥ずかし……っふ、ア、僕……なんでこんな……」
全くだよ! 恥ずかしいよ! 何でこんな事してるの!? 止めて!
俺どうしよう。誰か助けて。
「ああっ、や……時夜見……シて……んぅ」
苦しそうに、朝蝶が言った。ああ、発作がきついのかな……それ以外あり得ないよな。俺のこと嫌いそうだし。
――本気で苦しそうだし、何か顔が辛そう。この前は、顔見なかったから分からないけど、この前も辛そうだったのかな? 嫌なのに俺とヤらなきゃならないのか……可哀想だ。本当、戻り次第薬作ろう。
「仕方がないな」
でしょ? だって、俺が中に出さないと収まらないんだよね。はぁ。
っていうか、俺、起つかな? この前は、朝蝶にやって貰ったんだけど、今無理そうだし……。うーん。この前は確か、口でなめられて触られたんだっけ。なるほど、自分の手でもやれるかも知れない。俺は、なんか目を伏せ喘いでいる朝蝶には気づかれないように、静かにさっと自分のソレを撫でた。よし、ちょっと起った。頑張ろう。朝蝶が目を開ける度に、そっと手を隠し、再び目をつむると頑張って手を動かした。そして、起った! 後は、魔法で維持すればいい。
「んぁああっ」
蝶々が一際大きな声を上げて、頽れそうになった。
俺は慌てて腰を支える。
するとこちらを潤んだ目で見て、小さく朝蝶が笑った。俺、朝蝶の笑い所がよく分からない。って。あ。気づいたら、そのまんま、俺のソレの上に、朝蝶が、ゆっくりと乗った。入っていく。わー、わー、わー!! きつい、熱い、ヤだ。けど――自分の手よりは、こっちの方が良い気がする。
「あ、怖い……ン」
嫌、怖いの俺なんだけど……。
「自分で入れるの嫌ぁッ」
えええ? それって、俺に入れろって事? いやもう、それしかないよな。俺は腰に支えた手を動かし、朝蝶の体を下へと持っていった。朝蝶の体が揺れる度、俺のが入っていく。
「あ、ン、ふ、深い……深いです、あ、時夜見ッ」
涙をこぼしながら、朝蝶に名前を呼ばれた。なんだか本気で悪いことしてる気しかしないよ……可哀想すぎて、俺も辛い。嫌、辛いのは朝蝶の方だ。きっと発作で体が辛いんだ。やっぱり、けどでも、俺じゃなくて、自分でどうにかした方が良くない?
「嫌なら、自分で」
「あ、あ、あ」
朝蝶の体が揺れる。なんか、朝蝶が俺の上で動き始めた……っ!? 前後に揺れる俺のアレ、朝蝶の腰! 待って、違う、俺の上でじゃなくて、自分のベッド行ってよ! 意味が違う。俺は、自分の手で処理してってつもりだったんだけど。
「うう、あ、ぁ、時夜見、も、もう僕、ああ」
そう言って朝蝶が俺の肩に手を置いた。俺は引きつった笑みを浮かべてしまった。
もう、もう、俺を許して!
「動いてぇ……あ、ン、ああっ、は、早く」
朝蝶が掠れた声で呟いた。
ああもう、しょうがないよな……! 気合い出せ、俺!
俺は頑張って突き上げた。
「んぁあああああ、やぁああッ、は、深い、ンぅ、あ、ああっ」
涙が朝蝶の上気した白い肌を濡らしていく。
だけどその瞳が、何とも言えず……なんだろう、ちょっと気持ちよさそう(?)に見える。俺の勘違いかも知れないけど。まぁどうせヤるんだから、この前、気持ちよさそうだったところを刺激してみよう。何か朝蝶の前は、俺の腹と擦れてるから、弄らなくてよさそう。
「ひゃっ、ぅあ、そこは……ああっ」
何処が気持ちいいか忘れちゃったけど、何かこの辺だった気がする場所を突いてみたら、声が上がった。多分、此処なんだろう。そこを重点的に突き上げる。
「ふぁっ、あ、や、い、イく」
「……」
「ああっんぅ、時夜見……ア」
俺、何か声かけた方が良いのかなぁ? いやでも、なんて? ああ、気持ちいい場所此処であってるか、とか?
「ここが良いか?」
「ふ、ぁ、ああっ、ンァああ」
しかし回答は無かった。目を伏せ、朝蝶が体を震わせている。俺も動いているけど、それでも朝蝶も動くんだ。俺、動くの止めて良いかな。
「嫌っ、んア――深い、あ」
急に動くのを止めたからか、朝蝶の腰が一気に降りてきた。
どうしよう。
どうしよう!?
もう聞くしかないよね、これ。
「うう、時夜見、何で……」
「……どうして欲しい?」
「うあ、動いてよぉッ」
なるほど。俺は頑張って、動きを再開した。
朝蝶が、凄く声を上げる。本当、人払いしといて良かった。だって朝蝶、この前のこともなんだか恥ずかしくて嘘ついていたみたいだし。
「時夜見、あ、あ、僕、イく」
良かった、やっと終わりそうだ。
「俺も出す」
そう言って突き上げると、朝蝶が出した。俺の腹がべたべたする。それを感じながら、俺も出した。はぁ、なんだろうこの開放感――これで、朝蝶から解放されると思うと、体が弛緩してきた。ああもう無理、俺眠さが……。けど、この体勢じゃあ寝られない。イライラするなぁもう。また俺に全体重かけてるよこの人。
「退け」
舌打ちしたい気分だよ、この温厚な俺が。全くもう。
「っ」
するとぽろりと朝蝶が涙をこぼした。
あ、言い過ぎちゃったかな、ゴメンね。
「悪かったな」
謝っておかないとな。俺の言葉に、朝蝶が、切ない顔で笑った。
頑張って朝蝶を上から退かせて、俺は横になる。もういいや、服着なくて。眠くて仕方がないよ。
「寝る」
「時夜見……」
まだなんかあるのかなぁ、名前呼ばれたんだけど。
「僕のこと好き?」
は? え? 何?
俺は思わず横になったまま、朝蝶を見た。顔が強ばってしまう。強いて言うなら、好きでも嫌いでもない。どちらかと言えば、嫌いだ。だってさ、いきなりこんな、のっかってくるんだよ? だけど、嫌いとか、俺、小心者だから言えない。
「……別に」
だから『嫌い』を全力で換言した。だってさ、向こうだって俺のこと嫌いなんだし。好きとか言われたら、きっとヤだよね。
「っ」
よし、寝よう。朝蝶が何故なのか、息を飲んでるけど、もう知らない。
そのまま俺は眠った。
翌朝まで俺は熟睡した。
そして――目が醒めてビックリした。なんで、朝蝶、隣で寝てるの?
自分のベッドに行かなかったのかな? 疲れて寝ちゃったのかな?
「ん、ああ……起きたんですか」
やばい、朝蝶も起きた。起こしちゃったのかなぁ、俺。悪いことしたな。まだ眠いかな?
「……平気か?」
「え」
何で、朝蝶、驚いた顔してるんだろう。
「無理はするな」
うん。睡眠は良く取った方が良い。
「あ……は、はい」
何か、顔も朱い。まさかまた発作じゃないよね。仕事だからね、もうすぐ。しかも昨日の夜食べてないから、お腹も減ってるし。時間が無い。
その時だった。
ノックの音と同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。
俺と朝蝶は、揃ってそちらを見る。
そこにはこちらを見て、笑顔のまま硬直した、兵士がいた。
「あ、そ、その……朝食の件で……」
「……ああ」
なんか、顔ひきつってるよ、あの兵士。俺、そんなに怖がられてるのかな。
「立ち入ったことをお聞きしますが、どうしてお二人は……その、裸で……一つのベッドに?」
兵士の言葉に俺は、考えた。朝蝶は、ビヤクの件を恥ずかしがっている。
下手なことは言えないな。
そう思って朝蝶を見ると――え、泣いてる!?
「何故、こんな事をするのですか?」
朝蝶が涙混じりの声で言った。
「……」
俺は眉間に皺を寄せて、朝蝶を凝視した。
「僕は、僕は、」
「……」
何? どういう事? こんな事したのそっちじゃん。
「っ」
息を飲んでから、朝蝶がシーツを握りしめた。
「僕、嫌だって言ったのに。無理矢理、犯すなんて……」
俺は呆気にとられた。考えてみれば、確かに嫌って言ってたかも知れない。
だけど犯すって――んー、朝蝶の中では、性交渉は全部『犯す』なのかな? 周囲がその言葉を、誤解してるとか? 俺は険しい顔をした後考え込んで、きっとソレだなと思ったら、なんだか笑えてきた。
「ううっ」
しかしまだ泣き続けている朝蝶を見て顔を引き締める。
「――出て行け」
とりあえず、兵士にそう言った。すると、何も言えない様子で、足早に姿を消した。朝蝶、見られたく無さそうだからな、この前も恥ずかしがってたし。それより俺、早く周囲の誤解とかないと。
「……ふふ」
「?」
その時シーツに顔を埋めていた朝蝶が、笑みを口から零した。あれ、泣きやんでる。それにしても本当に笑い所分からない人だなぁ。
「これで貴方の評判は、またガタ落ちですね」
「?」
何の話しだろう。俺の評判なんて、昔から地の底なんだけどな。怖がられて嫌われてるし。
「ハハっ、貴方の苦痛に歪む顔、楽しみにしてます」
朝蝶はそう言ってベッドから降りると、着替え始めた。
昨日は、俺と朝蝶の体を、多分朝蝶が魔法で綺麗にしてくれた様子だ。
何故なのか、シーツだけ精液で汚れてるけど。ちゃんと全部綺麗にした方が良いと思うんだけど……んー、何か意味あるのかも知れないし、まぁ、良いか。何か、自分が掃除したのに、人に掃除されなおすと、気分悪いよね。
しかし俺の顔が苦痛に歪むのが楽しみって、やっぱりかなり嫌われてるなぁ。
何か、ちょっと、寂しいなぁ。
一体、どうして、こんな……。
「……どういうつもりだ?」
分からない時は、聞くに限る。
「どういうつもりか? 分からないんですか?」
全然分からない俺に向かって、朝蝶が、明らかに何か嫌な感じに笑った。笑顔なのに、可愛くなかった。暦猫みたいに、怖い。怖いよ!
「時夜見、貴方に強姦魔の汚名をきせて、排除するつもりなんです、僕。昨日の、発作なんて、嘘ですよ」
「……そうか」
なーんだ、発作、嘘か。それなら、俺は薬作らなくて良いよね。
それに俺とヤったのは、俺が強姦した風にして、俺を社会的に抹殺するって事か。
最初から多分、そうだったんだろうな。
だとすれば、周囲の反応にも納得がいく。きっと空族にも聖龍にも、俺が強姦したって言ったんだろうな。ビヤクって奴を使って。今回もそうなるんだろう。ま、別にいいや。どうせこれ以上俺の評判なんて、下がりようもないし。それよりも、だ。思わずほっとして、笑顔が浮かぶ。
「良かった」
「え?」
「発作、起きないんだろう?」
だよね? 何より、朝蝶の体が無事で良かった。後、もう俺、ヤらなくて良いって事だよね。それに俺が拒めば、朝蝶もわざわざ嫌いな奴と、何て言うか駆け引き(?)のためにヤらなくて良いわけだし。俺の噂もその内きっと消えるだろう……強姦魔とか、ちょっと嫌だし。しかし本気で、朝蝶の体が大丈夫で良かった。
「なッ」
狼狽えたように朝蝶が目を見開いた。
「心配した」
うん、発作とか、怖いよね。
「……っ」
だが俺の言葉に、何故なのか苦しそうな顔になって、朝蝶が唇を噛んだ。
そんなに噛んだら、傷ついちゃうよ。
「噛むな」
「っ」
「唇」
綺麗な色なのに、もったいない。さてそろそろ俺も着替えよう。
それから無言の時間が再び始まった。
何故なのか、遺跡調査は打ち切りになった。


また戦況が悪化した。
そのせいか、聖龍の機嫌が、本当に悪い。俺を見る度に、睨んでいる。
もう二百年くらい睨みっぱなしな感じ。俺を睨んでも、何も変わらないのになぁ。
溜息が出ちゃうよ。
そんな時だった。破壊神から、飲みに行こうと連絡が来た。気分転換には良いかもな。場所も、俺の世界でも破壊神の世界でもない場所を指定されたし。この頃になると、俺も他の世界について、ちょっとずつ知るようになっていた。昼寝する場所を良く探すからな。たまに他の神々にも遭遇した。そんなこんなで、神様一覧表というのに、アクセスできるようになった。なんと、俺も載っていた。一定以上の力があれば、総合世界と関係を結んでいなくても載るらしい。今は、他の世界に行っているから、載ってるんだろうけど。移動してる神は自動的に記録されるんだって。ちなみにこれには、デフォルトだと一々行動履歴が出るので、俺はタコを倒して以降の記録は全般的に非公開にしている。何か、他人に行動知られるって嫌じゃない?
確か、破壊神の名前を調べたこともある。パルディア世界の破壊神ジャックロフト的な名前だった。でも俺、覚えられなかった。カタカナ苦手なんだ。

「いやぁもう、俺、本当好きになっちゃってさぁ」

ガン、と麦酒のジョッキを置きながら、破壊神が言った。
「……そうか」
いやぁ、とか言ってるけど、絶対に嫌じゃない。破壊神、目が輝いてる。
「恋って良いな」
「……恋か」
俺、恋とかしたこと無いからよく分からない。愛犬天使は、恋をしていない日がないけど、日替わりなんだよなぁ。毎日違う恋人がいる。多分参考にならないよアイツ。
「お前は誰かいないの?」
「……好き、とは、どんな感じだ」
この人なら、恋とか好きとか知ってるかも知れない。聞いてみよう。俺、友達少ないっていうか、同僚しかいないから、聞けないんだよね。強いて言うなら、愛犬は飲み友達かな。
「え、そっから? そりゃぁ……」
「ああ」
「目が合うとドキドキしたり」
目が合うとドキドキ? 思い浮かんだのは、朝蝶だ。だって、鬼ごっこが始まるんだし。
「気づくと目で追ってたり」
嗚呼もう確実にこれ朝蝶のことじゃん。逃げるために俺精一杯目で追ってる。
「可愛いなぁとか思ったり」
うーん、まぁ……笑えば可愛いと言えなくもない。
「もっと話しがしたいと思ったりさ」
確かに、会話数俺達少ないから、もうちょっと話してみても良いような気もする。の、かなぁ。微妙。出来れば、会いたくない。
「会いたいなぁ、とか」
うん、確実に無いわ、ソレ。
「けど、会えない辛さって言うの?」
会えない辛さ? え、別に辛くないけど、違う陣営だし、会えないと言えば会えない。戦争は辛いけどなぁ。
「好きまで行かなくてもさ、気になる奴とかいないの?」
気になると言えば、そりゃ朝蝶だ。だって、鬼ごっこ嫌だし。
「……いる」といえば、いるのかなぁ。
「それが好きって事だよ」
え、そうなの? 俺、朝蝶のこと好きなの? 嘘だよね?
「で、誰だよ? あの綺麗な人?」
ニヤニヤしながら破壊神が言う。綺麗な人って誰? それこそ誰だよ。
「……誰だ?」
「ほら、俺達が最初に会った時さぁ、いたじゃん、横に。銀髪のさぁ」
ああ、暦猫か。あれ、綺麗なのか。知らなかったよ俺。
「……いいや。綺麗って……」
やばい、思わず笑っちゃったよ。コイツ、ああいう顔を綺麗だと思うんだ。
「はぁ? ちょっといないだろ、あのくらいの美人なんてさぁ。何それ、イケメンの余裕? うわぁ、イラッときた」
「……違う。悪い」
何か怒らせちゃったのかなぁ。しかしイケメンとか、コイツ結構イヤミだな。それ、お前だろ? 俺がイケメンだったら、もっと早くに童貞卒業してるよきっと! 全くモテないし。初チューもまだだし。
「そんなマジにとるなって。んじゃあ、あれ? あの可愛い人? 巨乳の」
「……誰?」
巨乳? 自慢じゃないけど俺の周りに、女性神一人もいないよ。
「ほら、二回目に会った、タコ倒しに行った時に、側にいたさぁ」
ああ、愛犬か。あれ、可愛いの? コイツ、もしかして、目が悪いのかな。
「まさか。あいつ、あの時は女性型の人型使ってたけど、本来男神だぞ」
絶対朝蝶の方が可愛い。これは、間違いないと思うんだ、俺。
「俺の……その、気になってる子の方が可愛い」
朝蝶の説明、これで良いのかな……なんか、違和感。
「ふぅん。じゃあ俺の知らない奴だな。けどさぁお前、綺麗な奴にはちゃんと綺麗って言わないと駄目だ」
「……そうか」
今まで暦猫が綺麗だって知らなかったし、言ったこと無いなぁ。言おう、今度会ったら。
「できれば、その気になってる子の前で言え」
「何故だ?」
「うーん。言ってみれば、分かるよ」
ニヤニヤと破壊神が笑っている。
俺と暦猫と朝蝶が一緒にいるところ……ああ、そういえば、明日定例会議で、俺達五神が揃うな。愛犬と聖龍も来る。そこで言おう。
「ま、健闘を祈る――すいませーん、生もう一杯!」

このようにして、俺は、次の日の会議を迎えた。
会議が終わったところで、俺は暦猫を見た。
「おい」
「――なにか?」
小首を傾げて暦猫もこちらを見る。んー、綺麗かなぁ? よく分かんないなぁ、俺。
「お前、綺麗だな」
しかし破壊神の言葉を信じよう。
「なっ」
すると暦猫が目を見開いた。硬直して、酸素を求めるように口をパクパクさせながら、こちらを見ている。なんか、朱くなってきた。綺麗って言われ慣れてないのかな。あり得る。照れちゃったんだろう。だってなぁ暦猫、すごい神様の一人だから、気軽に綺麗ですねとか一般神は言えないだろうし、俺達誰も言わないし。やっぱり破壊神の言うとおり、言って正解かも。
だが、何故なのか、一気にその場が冷え切った。
え、聖龍の威圧感?
久しぶりに感じて、驚いて視線を向けると、聖龍が引きつった笑みを浮かべていた。
明らかに、笑ってるのに怒ってるよあれ。なんで?
助けを求めて愛犬を見たら、慌てたように顔を背けられた。え?
恐る恐る朝蝶を見てみると、凍り付いたように呆然と俺を見ていた。何故?
改めて暦猫を見ると、今度は怒るように俺を睨んでいる。
「からかわないで下さい」
そう言って暦猫は、足早に部屋を出て行った。やっぱり照れたのかな?
よく分からないが、俺もかーえろ。

朝蝶に呼び止められたのは、その翌日のことだった。
<鎮魂歌>内部とはいえ、初めて何じゃないのかって言う勢いで珍しい。
周囲に人気が無かったからだろうか。室内だから、鬼ごっこはしなくて良い。
「時夜見、二人で話しがしたいんです」
「……そうか」
そりゃ呼び止めてるんだから、そうだろうなぁ。
朝蝶は、すぐ側の部屋に入った。俺が入ると、何故なのか、鍵を閉めた。
「その……暦猫星霜の事ですが」
「……」
え、暦猫の話し? 俺に相談か何かかな。無謀だよ。俺に言われても。本人に言うか、もっと相談に適した、愛犬とかに言った方が良いよ。
「綺麗……ですか」
「……それが?」
ああ、俺の発言か。なるほど、それで俺を呼び止めたのか。だけど、それがなんだろう。
「……はぁ」
何でそこで溜息つくの? 俺は訳が分からないので、渋い顔をしてしまった。
「好きなんですか?」
「……別に」
まぁ好きか嫌いかと言われたら、好きかなぁ。付き合い長いし。だけど、別にって感じ。
ちょっと考えちゃったけどね。
「本当に?」
「……ああ」
だけど俺が暦猫のこと好きじゃまずいのかなぁ。キモいとか?
「僕のことは……その、どう思いますか?」
「?」
「僕、綺麗じゃないですか? はっ、そうですね、綺麗じゃないか。あんな事して」
どんな事?
まぁ、綺麗……かなぁ。分からないけど、暦猫と朝蝶なら、朝蝶の方が可愛い。
「……可愛いな」
「え」
「……それだけか?」
もういいよね。これ以上追求されても、俺、答えられないし。帰ろう。
「ま、待って下さい……!」
「……なんだ?」
俺の台詞、大体全部『……』が入ってる事に気がついた。だってさ、変なこと言わないように、ちょっと考えちゃうんだよね。
「っ、そ、その……」
「?」
え、本当に何? まだ帰っちゃ駄目なの?
「だから、その」
分からないよ、それじゃあ。何、なんなの。もうヤだ。俺泣きそう。
「シたい」
何を? なんか、嫌な予感がする。
「帰る」
うん、それが良い。はっきり言うべきだよね。
「う、あ」
朝蝶が震える手を俺に伸ばしたが、見なかったことにする。
扉を開けると、聖龍と暦猫がキスしていた。え? えええ? あの二人って、そういう仲なの? 知らなかったよ。
その時俺の後を追ってきた朝蝶が、キスを終えた暦猫たちの姿を一瞥し、急に笑顔になった。
「……!」
そしていきなり服を脱ぎ、俺の下衣もおろした。
それから、声を上げた。
「いや、いやぁッ!!」
「?」
虚を突かれて固まっていると、驚いた様子で、暦猫と聖龍が走ってきた。
「もう……止めて下さい」
二人が来た時、蚊の鳴くような声で朝蝶が言った。
「何をしているんだ、時夜見!」
聖龍が怒鳴る。暦猫が、慌てたように、上着を脱いで室内にいる朝蝶にかけた。
待って違う、俺なんにもしてないのに。
「……俺は」
「……苦しい、っ、どうして――」
しかし俺の発言にかぶせるように、朝蝶が呟いた。何が苦しいの? 発作も無いんでしょ?
「……」
難しい顔で俺は黙り込んだ。
そんな俺の前で、朝蝶が続ける。
「こんな、こんな風に体を無理に暴かれて、っ」
「……」
うーん。
朝蝶は、多分まだ、俺を策略とやらにはめる仕事をしているんだろう。
しかし、体をつなげることなく、その仕事をやってもらえるんだとすれば、ちょっと有難い。
「なんて事を……貴方という人は。朝蝶がこんなにも傷ついているのに……ッ」
やりきれない様子で暦猫が言う。まぁ、俺の方がやりきれなく無い?
「最低だ。何度も釘を刺しただろう」
聖龍の声が冷たい。怒気を孕んでいる。うわぁ怖い。俺、このまま消滅させられそう。聖龍にはそれが出来るんだし。
違うって否定したい。すごく否定したい。
ちらりと暦猫を見ると、凄い勢いで話し始めた。ああ、一時間半コースだ。ちょいちょい合間に言葉を挟み、聖龍も怒っている。これは、運が悪ければ、ダブルコンボで三時間半コースだよ。もうヤだ俺、俺が話す暇ないよね。三時間半だから、終わった後、何か喋って、また三時間半になると困るし、俺否定できないじゃん。
哀しくなって、朝蝶を見た。
すると俺を見て、二人に気づかれないように、静かに笑った。
「……」
何で俺こんな目にあってるんだろうと思いながらも、下衣を穿き、それから二時間が経過した。相変わらず暦猫も聖龍も怒っている。その間の変化と言えば、朝蝶が服を着たことくらいだ。いや、時折涙を流している。アレ絶対嘘泣きだよ。何、自在に涙流せるの? それすごいよ。
しかし二時間目になると、次第に朝蝶も、困惑したような顔になった。
俺を怪訝そうに見ている。
「……」
ああ、溜息でそう。だけど、そんなことしたら、四時間コースだよ。
しょうがないから、朝蝶をじっと見た。何か創作意欲を刺激して欲しいな。何て考えていたら、新しいピアスのデザインを思いついた。帰ったら作ろう。
ちなみにそれ以来、俺が所構わず朝蝶を犯しているという噂が流れ、俺の耳にまで届いた。本当、噂って尾ひれがつくから嫌だよな。


それから暫く経った。
ある日、人間界に≪邪魔獣モンスター≫が出た。
こういう事は稀にある。こう言う時は、率先して聖龍が前に立ち、師団が総出で対処に当たる。大抵の場合、人間界に出るのは、≪世界樹≫かその≪眷属≫だ。今回は≪眷属≫の方で、木の根で出来た巨大な≪邪魔獣モンスター≫が、山間部の平野にいた。中央には人間の女に似たものがくっついている。
俺達は、人の器を持っているから、神界にいる時も基本楽だし人型を取っているが、人間界では絶対的に人型になる。人型になると、体が脆くなるのが難点だ。しかも人間界が壊れない程度の攻撃しか放てないのがやっかいである。
俺がガンガン攻撃していた時、聖龍を挟んで隣で、朝蝶もガンガン攻撃していた。
その時だった。
暴れた木の根が、聖龍に向かい、口を大きく開けて攻撃を放った。
ヤバイ、聖龍は今、平常時モードだから力を制限しているし、人間の器も、聖龍に適合するのは中々無いから、壊れたら困る。後は、俺一応、聖龍を守る立場の人間だし、聖龍良い奴だし――と、考えながら、俺は≪邪魔獣モンスター≫と聖龍の間に入った。
聖龍が後ろに飛び退いたのが分かる。守るように、朝蝶もその隣に立った気配がする。
冷静にそれを考えながら、俺は、木の根で貫かれた胴体の事も自覚していた。
両肩、胸、腹部、太股、あと足首。
貫かれて、後方に血肉が飛んだ。多分、俺の体を貫通して、木の根が向こうまで届いてるな、これ。
締め上げられて、痛いなぁと思った。しかも結構、これ、強い。人間の体だからそう思うのかな。咳が出た。見れば、俺の口から、血が吐き出された。うわぁ、グロい。ソレとほぼ同時に、首が絞められた。息苦しさに、眼を細める。まずいな――この人間の体、もう持たない。それに、本体にも打撃きてる。流石は≪世界樹≫の≪眷属≫だ。
ケタケタと笑いながら、女の顔が言う。
「一緒に死にましょう」
嫌だよ。って言いたかったけど、俺の首、締まってるから何にも言えない。
そのまま木の根で引き寄せられて、女の唇に、無理矢理口を覆われた。
湿った舌が入ってきて、凄く気持ち悪い。
しかもなんか、本体の魔力、盗られてる。
――えええ、俺のファーストキス、≪邪魔獣モンスター≫となの?
すごく嫌。
誰かが後ろで何か叫んでるけど、意識が朦朧としてきて、何にも頭に入ってこない。
無事な手に魔力を込めて、俺は念じた。だって、声でないから、呪文言えないし。
闇焔夜ファイアーナイト≫――うん、これも一撃必殺だ。ただ、ネームセンス、全般的にだけど、可笑しいよね。昔から決まってるらしいんだけど、俺世界で二番目に長生きなのに、誰が決めたのか知らない。ただ、聖龍じゃないって言うのは聞いた。きっと遺跡を作った神々だろう。けどさぁ、たまに呪文を唱えてると笑っちゃうんだよね。ヤバイ今も笑っちゃった。
無事に木の根が倒れたので、着地した。足が痛くて、俺は倒れた。
嗚呼、やっぱりこの体もう駄目だ。
人型の体を捨て、俺は本体になり、なった瞬間には神界に戻っていた。
しかし本体も傷ついていたし、正直、形を維持できる余裕が無かったので、もう器はないが、無理矢理人型になった。人型の方が、燃費が良いんだ。
「って、此処何処?」
見覚えのない風景。しかも真っ昼間。うわぁ日光がきつい。
俺は近くの洞窟へと進んだ。本体に一度なったから、怪我は消えたけど、ダメージが消えてくれない。すごい眠い。これもう寝るしかないな。
俺は、奥まで進み、石で出来た地面に横たわった。
寝よう。

それから、どのくらい寝ていたんだろう。

足音がしたから、俺は息を飲んで硬直した。
目を開けようとした瞬間には、しかし誰かが、俺を見つけていた。
「時夜見……」
ポツリと響いた声。
だけど眠いから、あんまりその声の主が誰だか分からない。
まぁ気配的に多分、朝蝶だ。
朝蝶は、基本的に、鬼ごっこをしていない時や、俺を強姦魔に仕立て上げようとしている時、そして会議を除けば、戦場を含めて、俺を殺そうとしている。
ヤだなぁ、俺、殺されちゃう。消滅するよ、今、朝蝶の攻撃力で傷つけられたら。
怖いので目をきつく伏せて、そのまま横になっていると、朝蝶が立ち去った。
良かった。きっと、見逃してくれたんだ。
そう思った俺は、また寝た。
翌日――だと思う。体感的に。朝蝶がまた来た。
しかも今度は、何故か息を飲み、洞窟の最深部に布団を出現させた。引っ張るようにしてそこに運ばれたので、確実に布団だ。
「何で昨日思いつかなかったのかな、僕……はぁ」
朝蝶が、なんだか哀しそうな声で言った。俺は、殺されるのか、今度こそ、と、ガクガクブルブル震えそうだったが、震えたら起きてるのがばれちゃうから、体を務めて動かさないようにする。だけど布団の上に運んでくれたのは良いんだけど、何で俺の体を壁に立てかけるんだよ。これじゃあ座布団の効果しかない!
「ん」
その時いきなり口を塞がれた。
何か柔らかい、と思っていたら、俺が少しだけ開けた口の中に、何かを朝蝶が押し込んだ。
所謂、口移しという奴だろう。
HPを回復する≪深紅球≫らしきものが、口に入ってきた。
じわじわとHPが回復するのが分かる。良い奴だ。ついでに、MPも回復してくれないかなぁ。俺のそんな願いが通じたのか、再び口を塞がれ、別の球を押し込まれた。MPを回復する≪蒼海球≫だった。また少し、今度はMPが回復した。
有難う、朝蝶!
そう言いたいけど、言ったら起きてるってばれるし、ばれたらきっと殺されちゃう。
「っ」
続いて再び、口づけられた。
今度は何だろう。そう考えていると、舌を舌で絡め取られた。え?
深々と貪られ、俺は苦しくなった。
「くっ」
大きく息をしようとするが、まだ朝蝶は俺にキス――あ、これキスじゃん! キスしてる!
ビックリして目を開きそうになったが、我慢する。
やっぱり≪邪魔獣モンスター≫とのは、ノーカウントで、朝蝶がファーストって事にしよう。うん。その方が、精神衛生上良い。
漸く唇が離れた。静かに酸素を吸う。酸素って言うか、まぁ、酸素と呼んでいる神界の空気だ。恐らく人間界で言う酸素とは違うと思う。
「……時夜見、目をさまして下さいね。絶対に。死なないで」
そう言うと、朝蝶は帰っていった。
もしかして、俺を助けに来てくれたんだろうか? 俺、今多分、どこかに動かされたら死んじゃうし。洞窟から移動できない。外明るいから。転移したら、多分その時の魔力圧で死ぬ。魔法薬も出せない。空間魔法なんて使う体力がない。朝蝶、魔法薬もってないのかな? まぁ贅沢は言えない。そうだ、それに俺、思い出したぞ。人間界に降りるから、力をセーブする指輪つけてたんだ。どおりで、回復が遅いわけだ。結構眠ったのに。多分二百年は寝てるなこれ。右手につけていた指輪を三つほど外し、布団の下に置いた。すると一気に回復速度が上がった。けどまだ眠い。よし、寝よう。これなら、きっとすぐに、起きられるはずだ。

翌日も、朝蝶はやってきた。
「っ」
また俺に、口移しで、球を二つくれた。
「ん」
それからなんでなのか、キスをする。本当、何で?
今日は何も言わなかったが、俺の頬に片手で触れていた。何かついてたのかなぁ、洞窟に長いこと横になってたし。
その翌日も、朝蝶が来た。
そろそろ俺も、なんだか申し訳ない気分になってきた。起きて、お礼を言わないと!
二度球を移されたところで、意を決して俺は目を開けた。
だってさ、回復はしないとね。俺、今体調悪いから。
が――! 俺の唇は、再び朝蝶に覆われた。目を伏せた朝蝶が、俺にキスしてる。目を伏せている朝蝶は、本当に綺麗だ。あ、綺麗なのか。あの時綺麗だって言ってあげれば良かったな。長い睫が揺れている。色が白い。何で日焼けしないんだろう、あんなにお日様に当たってるのに。俺の場合は、日焼けすると真っ赤になって皮が剥けちゃうから、日焼け止めの魔法を常に使っている。
「!」
その時唇を離し、朝蝶がうっすらと目を開けた。そして目を開いて、硬直した。
「……」
かける言葉が見つからないので暫く見ていると、ふいっと顔を背けられた。
「……起きたんですね。みんな、心配してます」
嘘だぁって俺は思う。だって誰も探しに来なかったよ? 多分、死んだか、生きてるならその内帰ってくるだろう的に思われているはず。俺が怪我すると、いっつもそうだし。
いやそれより、早くお礼言わなきゃ。
「おい、口――」うつしで、球、有難うって言おうとしたんだ。
「別に。介抱したんだから、良いでしょう? 報酬くらい貰っても」
だが俺の言葉を遮って朝蝶が言う。報酬……お金払えって事かな。嫌そうじゃなくて、口移しのお礼言いたいんだけど。報酬はとりあえず、今魔法とか使う余裕無いから、取り出せないから、待って。けどなんか、暗闇だけど、若干顔が朱く見える。怒ってるのかな。
「……悪いな」
謝った。俺、謝った。
「っ、こんな所で勝手に死なれては、殺し甲斐がないですから」
そう言うと、朝蝶が、片手に武器を出現させた。
嗚呼、これ、俺、死ぬわ。
なんだか、そう考えたら、眠くなってきた。寝ちゃおう。その間に、終わってると良いな。俺の殺戮。
「と、時夜見!」
寝る直前に焦ったような蝶々の声を聴いた気がしたが、俺はそのまま眠りに落ちた。

目が醒めると、俺は医療塔にいた。

「良く戻ってきたね」
傍らの椅子には、愛犬天使が座っていた。
「……俺は、どうやって此処に?」
「え? こっちが聞きたいよ。<鎮魂歌>の前に倒れてたんだよ。覚えてないの?」
嗚呼多分、転移に堪えられるくらいは回復していたから、朝蝶が運んでくれたんだな。
良い奴だ、本当。
報酬どうしようかなぁ。
とりあえず、何時何があるか分からないし、退職願とか、用意しとこう。渡せなくても、体から拾ってもらえそうだし。
その後暫く療養し、俺は復帰した。部下は誰一人として見舞いに来なかったし、戻ってからも冷たい顔をされた。ポツリと、強姦魔なんて死ねば良かったのに、と誰かが言ったのが聞こえてきたので、俺は聞かなかったことにした。

「って、結果になったぞ」

俺が子細を話すと、破壊神が笑った。今日も例の異世界に、飲みに来ている。
「へぇ……なんか、複雑」
「だろ?」
なんか酒が入ってるのもあるけど、コイツ話しやすい。
「そんな奴の何処が良いの? 顔?」
破壊神が、そう言って眉を顰めてから、グイッとジョッキを傾けた。
「……別に」
「じゃあ体? ヤったんだろ?」
「……」
それはそうなんだ、ヤったよ、けど、けど、俺、もう二度とヤりたくない。
「良いよなぁ、俺なんてまだだし。うわぁ、ヤりたいけど、怖い」
「ああ、怖いな」
「え? なんで? お前もうヤったんだろ?」
「もう絶対ヤりたくない」
俺もジョッキを煽った。俺の言葉に、破壊神がビクッとした。
「う……どうしよう。終わった後に、そんな事思われたら」
「俺は――ヤりたい気持ちの方が分からない」
きっぱりというと、破壊神が哀しそうな顔をした。
「俺の相手もそう思ってたら嫌だな」
「何お前、つっこまれる方なの?」
「うん」
ええええええ! 俺は衝撃を受けて、固まった。見えない、まじで見えない。コイツ俺より筋肉あるし、俺と同じくらい身長あるぞ。確かに俺もコイツも細マッチョ系だけどさ。
世の中、分からないな……。
「まぁ……普通は、ヤりたいんじゃないか。思い合ってる同士なら。ほら、俺とその……朝蝶って言うんだけど、そいつはな、思い合ってないからさ」
「確かに話聞いてると強姦魔とか酷いけどさ――なんだかんだで、探しに来て助けてくれたんだろ?」
「二百年後だけどな」
「寝てるところキスなんて、可愛いじゃん」
「……」
分からない。そうなのかな?
「つぅかお前も酷いだろ。ヤったのにさぁ、好きじゃないとか」
「だって……上にのってきたんだ」
「拒めよ!」
拒む間が無かったんだよ。っていうか、拒んだけど理解してもらえなかった。しかも俺、完全に発作だと思ってたし。
「でも別に、ヤるの嫌じゃなかったんだろ?」
「いやだから、嫌だって」
「そうじゃなくて、生理的嫌悪とか、無かったんだろ?」
「……まぁ」
神様には、性別はあんまり関係ない。それこそ、女性型が良ければ女性型の人間の器に入ればいいし。人間みたいに、同性愛嫌悪は無い。それに朝蝶は、多分可愛い。性格も、容姿も。嫌、性格は可愛くないのかなぁ。んー、でも、なんとなく、動