クリスマスの調べ。





歪な調べが流れる、クリスマスの食卓。
白いテーブルクロスがかかった細長い卓、豪奢な椅子、燭台。
「座れよ」
間宮の声に務は僅かばかり不機嫌そうな顔で、小首を傾げた。
今度は誰を一体どんな風に料理したというのか。
文字通りの料理だ。
もう聞く気も起きなかったから、声に出すのが億劫で視線で問う。
「ーー別に何も入れてない。お前、今日が何の日かわかってないのかよ?」
「?」
意味がわからず首を傾げた務に、間宮が目を細めた。
「クリスマスだ、バカ」
「え」
「イヴだイヴ。お前って本当に馬鹿だな」
「そんな事言ったって何百年もーー」
「は? お前が気づかなかっただけで、一緒にいる時は基本的に俺は、ご馳走らしきものを用意してたぞ。ちゃんと人間の食べるものを」
嘆息してから、ふてくされたように間宮が顔を背けた。
全く気づかなかった務は、そういえば年に3回くらい、ホールのケーキが出てくる日や、一度くらいはおせちのようなものが出てくる時があったことを思い出す。
間宮は案外暦を気にするし、昔の世界の世界観を大切にしている。
ーーこんな馬鹿げた世界の時間軸にいるというのに。
「食えよ」
そう言いながら、間宮がワインのコルクを開けた。
ただ、こういう優しさや弱さを感じた時、務は最後に名前を呼ぶのはきっと間宮の名前だなと思うのだ。もうこのゆがんだ関係から、抜け出せる気がしない。
あゝ二人でどこで行くのだろう。
「ねぇ、間宮」
「なんだ?」

「死んでよ」

「は?」
「僕よりも遅く」
「ーーお前は俺が死なせない。望んでもな。そして俺も死なない。それとも、そんな口約束が欲しいのか? クリスマスのプレゼントにでも。そんな甘言でいいなら、いくらでもくれてやる」
吐き捨てるように言った間宮の前で、務は苦笑した。
それで、満足だった。



ああ、クリスマスの調べが響いていた。