クッキー




チクタクチクタクチクタクーー間宮が嫌いな文字盤時計の秒針の音がする。
僕はただそれを眺めながら、クッキーを焼いていた。
それができるのは、僕の両手に腕が生えているからだ。
切断されてもそれらは再生する。最悪だ。
間宮は実験で僕の腕を切ったりはしない。
焔紀はそうではなかったーー嗚呼、どちらの現実が優しいのだろう。
泣き叫んでいると、僕は確かに楽なのだ。痛みで何も考えられなくなるのだから。

間宮と二人きりのこの世界。

それは果たして幸せなのか、僕にはわからない。
ーー間宮は一体何を考えているのだろう。僕とともにいることで、何か救いを得ているのだろうか。少なくとも僕の方には救いなんてなかった。
もうしばらくの間、間宮は帰ってきてはいない。
それだけ中華計画は難航しているらしい。
だが、だからなんだ?
ぽっかり空いた僕の心には、もう何も残らない。
それでも生きるために僕は確かにここにいる。それは好意や嫌悪とはまた違う打算的な感情だ。

間宮が帰ってきたのは、そんなことを考えていたある日のことだった。

僕は自分が道化師であるような気がした。
間宮の前で、僕は舞台で踊るのだ。

「間宮が帰ってこないから心配してたんだよ」

そんなことは微塵も思ってはいなかった。
別にそんな僕は、滑稽でもよかった。だけど間宮は安堵するように苦笑したんだ。

「俺もお前が何かしていないか心配してた」
「何もしてなかったわけじゃないよ。クッキーを焼いていたんだ」
「務は料理だけはうまいよな」
「だけってなんだよ」

僕は間宮とのこんなやりとりがーー嫌いだ。
間宮の奇妙な優しさが大嫌いだ。
だから、血の入ったクッキーを焼くのだ。僕の血だ。
そんなアクセント、間宮は知らずに、一枚てに取る。
いびつな僕らの関係は、きっといつまでも変わらないと思うんだ。