文字盤時計とシンデレラ






僕は結局こうなる結末を本気で望んでいたのだろうか?
間宮と二人で、こんな絶望に満ち溢れた世界に来ることを? 本当に?
今考えてもあり得ない。それはあり得ないことなんだよ、何を考えているんだよ、本当に。二人っきりで、みんなを食べて? 馬鹿みたいだ。いつ僕と間宮は共食いをはじめるんだろう。あるいはもう始まっているのかな?
嗚呼、眠れない。
眠れないんだ。もう何日何十日何百日寝ていないのかなんて知らない、時間感覚なんて何処にもない。以前間宮が嫌いだと言った文字盤時計の針が十二の数をくるくるくるくる回るだけだ。チクタクチクタクチクタク耳障りな音がする。そして十二の数字を指すたびに、オルゴールの音がして、シンデレラの人形が王子様の前からいなくなるのだ。誰だよ、こんな趣味の悪い、時計を作ったのは。僕だって、硝子の靴を持って、どこかに誰かを探しに行きたいよ。だけど行き場所なんてこの場所には他に何処にもなくて、間宮はシンデレラなんかじゃない。そんなに優しい存在じゃない。もう合う合わないの問題を超えている、限界を超えている、気が狂いそうになるほどの長い時間一緒いさせられて、そのはずで、いや、僕が一緒にいたのか、違うはずだ……――ああ、間宮が帰ってこない。

間宮が帰ってこないのだ。

長く瞬きをしてみる。
眠気がないわけではないのに、頭を重く何かが締め付け、何かがそこに巣喰っているようになって、そうだ頭痛がして、それで眠れないんだ。ただそれだけで、間宮がいないからなんかじゃないはずだ。間宮がいないと眠れないだって? それほど滑稽な話はない。いつだって僕はあいつから離れたくて仕方がないのだから。
だけど、なのに、じゃあ。
――どうしてまた、眠れないままに時計の針が十二時を指そうとするの?

体が震えてきた時、オルゴールの音が響こうとして――かき消された。

「なんだ務、起きてたのか? 日和は?」
「日和ちゃんはいないよ……ちょっと目が冴えちゃってね。お帰り、間宮。何処に行ってたの?」
「別に。それより、どうしたんだよ、顔色が悪いな」

別に、か。
間宮にとっては、不在だったこの時間は、別に何ともない時間だったというわけだ。そうである以上、やっぱり気にしていた僕はおかしい。どうして僕だけ気にしなきゃならないんだよ。こんな風に僕だけが、間宮に執着して、間宮の存在感に喰い殺されそうになっていては行けないんだ。

「それより明日、誕生日だろ?」
「誕生日なんて君のせいで大嫌いだ」
「まぁそう言うな。紫月の仕事手伝って、終わらせてきてやったから、久しぶりにあえるぞ」
「……手伝った?」
「ああ。本当に忙しそうだったから、明日一日は最低放置できるようにな。俺の一年が係のプレゼントは、どうだ?」
「最悪だよ」
「嘘をつけ。俺の顔を見てほっとしただろう」
「してないよ」
「したはずだ。顔を見れば分かる、どうせ眠れなかったんだろう? 俺の存在の偉大さと大切さと、自分の依存心の強さを思い知った一年だっただろう?」

間宮が僕を嘲笑した。その自信はどこから来るのかと問いかけて、笑おうとして、結局出来なくて、僕は、思わず俯いて涙ぐんだ。確かに思うのだ。

「……間宮が帰ってきてくれて良かったよ」
「ああ。そうだろ?」
「いつ帰ってくるのかなって、ずっと心配してたんだ」

思わず僕は本音で言ってしまった。


「君が言うとおりなら、一年前に作った日和ちゃんの頭蓋骨のスープ、早く食べて貰わなきゃならないから」


――時計の針は、05/01/00:10を指すデジタル数字へと変わった気がした。
そうして二人の生活は、その後も続いていく。巡り巡り変わらずに。

いつか喰い尽くし合うまでは。