ナイトクラブで酔い潰れ




遊雛 彩(@SAI_SHIKI0719)様の「キラキラなキラくんが煌めきすぎてっ!」のキャラをあらすじに甘えてお借りし、SSを書かせて頂きました。本当に有難うございます! 解釈違いなどすみません。




 どうしても知りたいことがあった。
 そんな時、頼りにしているのは、弱冠二十三歳ながらもその腕は確かな情報屋。
 鴻巣昴のことである。

 草壁は自室で天井を見上げてから、スマホに視線を落とし、昴の連絡先を呼び出した。そしてメッセージアプリで一言。

《今どこにいる?》
《今? なんで?》
《至急話がしたい。直接》
《――ディープ・ムーンっていうナイトクラブにいるよ》

 その返答にほぉっと息を吐いてから、草壁は立ち上がった。大して洒落た私服は持ち合わせていないが、ナイトクラブに紛れるには不信出ない程度の格好をして、草壁は夜の街へと繰り出し、タクシーを拾う。

 調べておいた住所を告げて、しばらく。
 到着した店へと入ると、暗い店内に色とりどりの照明が踊っていた。

「いかがですか?」

 テキーラガールの勧めに乗り気の客。バーカウンターへ向かう客。

 様々だなと思いながら、草壁は酒を頼みに向かう。すると非常に綺麗な顔をしたバーテンダーが、酒を作っていた。

「星くんの作るお酒美味しい」

 常連客らしき女性が声をかけている。何を頼むか、ビールでいいかと考えつつ、一拍の間思案していると、鋭い視線を感じた。ゆっくりと壁を見るような素振りでそちらを見れば、そこには独特の威圧感があるのにその気配を押し殺そうとしているかのようなセキュリティの青年がいた。目算で、百九十五センチはありそうな長身をしている。

 一瞬、“同業者”かと思った。過去、公安で働いていた頃の。目が合わないに気をつけて草壁はすいっと目を逸らし、相互無干渉だというアピールをしてみせてから、ラムコークを注文した。

「あ、来たんだ?」

 すると声がかかった。聞き慣れた昴の声に、草壁は顔を向ける。するとテキーラを片手に、にやっと昴が笑った。

「俺、VIPルームにるから。そっちに行こうよ」
「――ああ」

 同意した草壁は、人混みを縫うように歩く昴の後に続いた。
 入室したVIPルームで、「かんぱーい」という昴にため息をつく。形だけグラスを合わせると、昴が一気に飲み干してすぐに次の注文をした。

「それで? なにが聞きたいんですかぁ?」
「雨宮は今、なにを追っているんだ? それが知りたい」
「……公安刑事の動向かぁ。情報料」
「いつまでに分かる?」
「あと三十分はかからないよ」

 意外な言葉に、草壁は驚きつつ酒を飲む。少しすると、ドアが開いた。

「ありがとうございます、磯辺さん」
「いえいえ」

 どうやら顔馴染みらしいホールスタッフが持ってきた酒を前に、昴が口角を持ち上げる。
 磯辺と呼ばれた青年は、すぐにその場を後にした。

「何で知ってるのかって顔。たまに草壁さんって顔に出ますよね」
「……」

 本来は表情を変えない方がいいのは分かってはいたが、別段隠すことでもない。

「想い人が綺麗な女性と高級ホテルに入っていくのを見かけたからって、わざわざ情報料を払うほどかなぁ」
「っ、別にそんなんじゃない。誰が想い人だ!」
「否定するのがますます怪しい」

 思わずぐいっと酒を呷ってから、草壁は顔を背けた。

 今日の日中、たまたま駅から帰る途中で見かけたのである。名のあるホテルに入っていく雨宮と、腕を組もうとしている巻き毛の女性を。綺麗な女性だった。豊満な胸をしていて、くびれが細く。男だったら多くが惹かれるような容姿だ。タクシーにのっていた草壁が見ていると、雨宮が顔を向けて気付いたようだった。だが、すぐに素知らぬ顔でホテルへと入っていった。無視された。別段、雨宮と付き合っているだとか、そういうわけではない。そうである以上、雨宮が誰と寝ようが自由だ。

「次は何を飲みます?」
「ラム」
「ラムが好きなんですね」
「別に」
「じゃあ、ウィスキーいっちゃいません? ロックで。ダブル」
「なんでもいい」

 そんなやりとりをして酒を飲むうち、すぐに三十分が経過した頃――雨宮はソファにぐったりと体を預けた。ウィスキーのロックは、予想以上に濃いようだった。あるいは、昴の作り方のせいかもしれない。いいや、きっとそうだ。七杯近く飲まされた。ペースを落とそうとしていたのに、ぐい、ぐい、っと、注がれて。

「ほらほら、情報料」
「あ……」

 その言葉に草壁が顔を上げる。自分に言われたと思ったからだ。だが、いつの間にか開いていた扉から、中に来たばかりの――雨宮が見えた。

「何故草壁さんがここに?」
「さぁ? 情報料」
「……確かに俺は、草壁さんの居場所をお前から買うとは言ったが……何故潰れているんだ?」
「ん? 飲ませすぎちゃったかなぁ」
「なにか盛っただろう」
「えー?」
「店に迷惑をかけるようなやり方をするべきではないな。お前を現行犯でひっぱることだって出来るんだぞ、鴻巣」
「けどけど、さながら俺はキューピッド。だってぇ? ね? 草壁さんも、雨宮さんを探してここに来たようなものなんだから」
「なに?」
「ホテル。なにしてたのー?」
「チ。あれは姉だ!」

 おぼろげに舌打ちする雨宮の言葉を聞いていた草壁は、なんだ仕事じゃなかったのかと思いながら目を伏せた。だがすぐに揺り起こされる。

「帰りますよ、草壁さん!」
「ん……」

 それからふらふらと、なんとか立ち上がった草壁の腕を肩に抱き、雨宮が昴を睨んだ。

「次はない」
「怖い怖い。仕方ないから、お二人の情報料は“無料”ってことでいいですよ」

 肩を竦めた昴を後目に、雨宮は草壁を連れて外へと出た。



 ――数分後。
 新たな酒を、磯辺が持ってくる。

「大丈夫でした? お連れさん、随分と酔ってたけど」
「迎えに来た恋人と帰ったから平気でしょ」
「……こい、びと」
「磯辺さんも、早く想いが通じるといいね」
「え?」
「ん?」
「え、いや、なんで――」
「なんとなく、見てる感じ」
「ち、違い……ませんけどぉ! って、冗談です! 昴くんも無理なく!」

 話しやすい磯辺ににこりと笑みを返してから、その日も閉店まで、昴は酒を楽しんだのだった。途中からは、ホールで。




 ―― 終 ――