フランス語で乾杯は?
直井(@00atai)様の「
巻き込まれるのはだいたいがアイツのせい」の登場人物の広瀬さん達とファムスヒのハロウィンシチュと台詞をお借りし、SSを書かせて頂きました。本当に有難うございます! 解釈違いなどすみません。
川嵜緋砂は、乃蒼という十三歳くらいに見える少年の資料を見ていた。
乃蒼の実年齢を緋砂は知らなかったが、“上”に『この週末面倒をみてやってくれ』と引き合わされた。子どもの相手の仕方など分からない。
そう考えていると、ふと、F機関のレジャー施設である『ファムスヒ』のことが思う感だ。二度ほど足を運んだことがあるファムスヒへと、緋砂は乃蒼を連れていくことに決めた。時は、十月。ハロウィンが間近に迫っている。
本日はもう帰るため、現在緋砂の家にいる乃蒼を連れて、このまま向かってしまおうかと考えた。移動中、喉が渇いたのでコンビニに立ち寄ると、F機関の職員である広瀬が、チョコレートのコーナーで足を止めているのが見えた。
会釈をしてから珈琲のペットボトルを買って帰宅する。
そのまま乃蒼を拾って、すぐに車に戻り、ファムスヒへと向かった。
黒いコウモリやジャック・オ・ランタンが目を惹く施設内で、今日はもう遅いからと、無理に乃蒼を寝かせてその日を終えた。
「ゲームセンターだぁ」
翌日。乃蒼を連れて遊びに出ると、乃蒼が目を輝かせた。一人で進み始めた乃蒼は、年齢より幼い言動に見える。そんなことを考えながら近くのゲーム機の前の椅子に座っていると、出入り口から見目麗しい子どもが入ってきた。既視感があるなと感じていると、ゆったりと広瀬が続いて入ってきた。なんとはなしに眺めていると、二人入ってきた子どもの片方が、正面から――花里陽日にぶつかるのが見えた。広瀬同様花里もまたF機関の職員だ。
「――広瀬さん! 息子くんとお出掛けってココだったんスね!」」
響いて聞こえてきた声に、息子だったのかと考えながら、乃蒼はどうしただろうかと視線を向ける。乃蒼は「トリックオアトリート」と控えめに笑いながら告げ、ハロウィンイベントの参加賞を貰っていた。
すると目が合い、満足そうな様子だったので、緋砂は立ち上がる。
夕食の時間を考えると、そろそろ入浴した方がいいだろう。
「乃蒼、温泉があります。行きましょう」
「うん。さっきの子たちも行くんでしょう?」
「さっきの子?」
「すごく綺麗な子と、カッコイイお兄さんにぶつかってた子」
「ああ」
広瀬さんのご子息と、花里さんにぶつかっていた子どもか、と、緋砂は内心で考える。彼らの方が乃蒼よりも年下だが、精神年齢はさだかではない。
「《ゲーム》は、みんなでやる方が楽しいよね」
「ここはゲームセンターだから子どもも大人もたくさんいると思いますが?」
「ううん。配信……」
「……《コンバート》の《ゲーム》ですか」
乃蒼は時々意味深なことをいう。嘆息してから緋砂は、乃蒼を連れて温泉施設へと向かった。脱衣所では、花里達と一緒になったが、深い顔見知りというわけではないので、乃蒼のほうを注視する。他方乃蒼は、広瀬の息子――漏れ聞こえてくる声で、聖空と言うらしい子どもの足をチラチラと見ていた。不躾だろうと思いつつ、視線を追いかけて、緋砂は解かれていく包帯を見て取っていた。
「乃蒼。行きますよ」
「はぁい」
乃蒼をひっぱり、緋砂は温泉に入る。体を流してからお湯に浸かると、乃蒼が笑った。
「緋砂さん」
「なんですか?」
「フランス語で『乾杯』を意味する言葉は?」
「?」
不意な問いかけに腕を組んだ緋砂は、首を傾げる。
すると乃蒼が頬を朱く染めた。緋砂はのぼせたのだろうかと目を眇める。
「今からヒントが聞こえると思う」
それから少しすると、入ってきた花里達の声が聞こえてきた。
「うわっ! せいの父ちゃんのデッカ! オレの父ちゃんとどっちが……うわわ、陽日さんのはなんかグロ……大人ってやべーな……」
子どもの大きな声、これは……っと、緋砂は目を伏せる。耐性がないというわけではないが、好んで下ネタを言う方でもない。ただ、乃蒼の意図に気付いて、目を開けてから緋砂は答えた。
「チンチン」
「うっ……普通に答えられると……恥ずかしい」
乾杯を意味する言葉をさらりと答えた緋砂は、露天風呂に行くらしき広瀬たちを見送ってから、じっと乃蒼を見た。思春期に入りかけの子どもにしか見えない外見。
「貴方も男の子なんですね」
「どういう意味? 僕、『子ども』じゃないよぉ?」
「いえ、別に」
乃蒼は、時々、まるで先が視えたような、予知するような言葉を紡ぐ。それが、“上”が面倒を見ておけと言った理由なのかもしれない。まだ数日、面倒を見るのだが、それならば、なにか玩具でも買い与えるかと考える。前に広瀬が、最近の男の子が好きなプレゼントについて雑談を振られていたのを耳にした時のことを思い出せば、なにやら今のブームは腕時計やロボットキットなのだとか。
「明日はオモチャを買って帰りましょうか」
「うん」
「それとも子どもではないから、不要ですか?」
「欲しい!」
そんなやりとりをしてから、二人で洗い場へと向かう。中々楽しいひとときだった。
―― 終 ――