【第一話】売り言葉に買い言葉(★)



「っぐ……ッッ」

 俺は唇を噛んで、息を詰める。

「ヘタクソが……っ」

 切れてはいないと思うが、押し広げられた後孔がひきつるように痛みを訴える。

 基本的に俺は、過去の人生において、常に上だった。

 挿入されるのは、初体験ではある。

 だが、だから痛いというよりは、俺に突っ込んでいるアホ風紀――風紀委員長の壱膳悠信が下手なのだと、俺は確信している。

 俺と違って風紀委員長は、お堅いことに定評がある。

 不純交友をしている生徒を取り締まっている本人の下半身がユルユルだったら、示しがつかないはずだ。

 だから――それもあっての、売り言葉に買い言葉だった。


『どうせてめぇはヤれねぇ僻みで、周囲を摘発してるんだろう? あ?』

 二人きりの会議の席で、俺は奴を挑発した。

『さぞヘタクソな童貞様なんだろうなァ』

 すると壱膳が、呆れた顔をした後、逆に小馬鹿にするように笑った。

『確かめてみるか? もっとも、秋永のようなバ会長には、抱かれる勇気はないだろうがな。お前は俺様気取りの、ただの小心者だ』

 それにカチンときた。

『誰が小心者だと? いいだろう、俺を満足させてみろよ』

 こうして俺達はその後、風紀委員長室に付属している仮眠室へと移動した。

 風紀の中でも特に多忙な風紀委員長には専門の役員室があり、泊まり込みも多いから、そこには仮眠室やシャワールームが付属している。

 俺はこの時点では、まさか壱膳が本当に俺を抱くとは思っていなかった。

 俺も壱膳もかなり体格がよく、どこからどう見てもタチだ。

 俺は抱かれたい男No.1だ。

 まぁそれは、壱膳も同率一位ではあったが。

 さて――シャワーを浴びた後、実にあっさり俺は押し倒された。

 さすがに風紀の職務上、取り押さえる事などに長けている壱膳は、俺押さえ込み、手際よく下衣をはだけると、慣らすのもそこそこに、突っ込んできた。

 そして、今に至る。

「う……ッ」

 あんまりにも痛い。ひきつるような感覚に、俺はうめき声をあげそうになる。喘ぎ声は論外だが、うめき声だって聞かせたくはないから、俺はずっと唇を噛みしめて、声をこらえている。

 深く俺を貫いては、ゆっくりと引き抜いていた壱膳は、次第にその動きを速め、乱暴に打ち付け始めた。

 独りよがりのセックスは、俺に快楽を与えない。

 やはり俺の想像通り、壱膳は下手だ。

「本当に下手だな……ッ、っ……」
「痛いか?」
「おう。最悪に痛い」
「もっと痛くしてやろうか?」
「痛くする以外技能がないって意味だと受け取る」
「なんだ、気持ちよくしてほしいのか?」
「そうは言ってねぇよ。誰がてめぇなんかの下でよがるか」

 行為の最中も、声を出すのは、口論の際と、俺は決めていた。

 その後激しく俺を穿ち、風紀委員長は陰茎を引き抜いて、俺の腹部に放った。

 俺の腹筋の上に、白濁とした液が飛び散る。

 遅漏の巨根ではあるが、ただそれだけだ。

 俺の方は、勃ちもしなかった。勿論、それでいい。

「やっぱりヘタクソだな」
「――次は、金曜の放課後なら空いている」
「は? 二度と無ぇよ」
「まだ怖いのか?」
「違ぇ。てめぇの下手さを、もう確認したって意味だ」
「だが俺は、お前が小心者でない確認はしていないが?」
「なっ」
「怖いんだろう? 言え。素直に」
「誰がだ! いいだろう、金曜だな。俺様の貴重な時間を空けてやる」

 結局、また売り言葉に買い言葉だった。

 これが、始まりだった。