【四】SIDE:風紀委員長@




 俺が伊澄詩乃と初めて遭遇したのは、入学式前日の事だった。随分と端正な容姿の外部入学生だなと思いながら、聴取をした記憶がある。きっとすぐに親衛隊が結成されるだろうが、それまでの間は、気をつけて見ておかなければならないだろうと思った。

 外部入学の生徒にとっては、この学園は何かと特殊であるはずだからだ。同じ一年の風紀委員でも見回り担当につけようかと考えていたら、入学式でつい見てしまった。大勢の中にいても、やはり伊澄の容姿は際立つ。

 細く柔らかそうな髪、形の良い目。大きすぎて零れてきそうな瞳の上には、長い睫毛がある。タチの生徒にもネコの生徒にも人気が出そうだ。じっと俺を見て、挨拶をまじめに聞いているらしい伊澄は――俺が一瞥すると真っ赤になった。

 そういう生徒は多い。
 その後挨拶を終えてすぐ、その伊澄から通報があった。伊澄本人が被害者かと考えたが、ただの通報だったので、風紀委員会室へと誘導した。

 ――伊澄は寡黙だった。あまり表情を変えず、淡々としている風なのだ。
 ただ……俺と目が合うと、真っ赤になる。
 初々しい新入生だなと感じた。

 以後――見回りを強化していた為、何度か伊澄を見かけた。伊澄は普段は無表情だが、俺を見ると真っ赤になる。その反応に、俺は次第に気をよくして、伊澄について調べてみた。

 伊澄は、名前からもわかるが、伊澄財閥の人間だ。箱入りの、良家の御子息である。この学園の中でも、家柄はトップクラスと言えた。その上、外部からの入学試験は満点、新学期に行われた入学後テストでも首席という優等生で、隙がない。眉目秀麗で頭脳明晰――クラスメイト達も、憧憬の念を抱いているようで、伊澄を見る目は他の外部生へと向けるものとは異なっていた。親衛隊こそ未結成ではあったが、学内では既に、伊澄に対して抜けがけをしないようにという牽制ムードが漂っている。

 しかし伊澄自身はどこか飄々としていて、何事も気にしている様子が無い。そんな伊澄が表情を変えるのだ、俺と目が合うと。美貌の一年生に頬を赤くされたら、俺だって気分は良い。そんなある日、声をかける機会があって、風紀委員に勧誘した。

 もっと伊澄を見ていたかったからという私欲がかなりあった。伊澄を迎えたと伝えた時の、副委員長の呆れ顔といったら無かった。俺が伊澄を気に入っている事を、真っ先に悟ったのは、副委員長の桜海である。生徒会からも、狙っていたのに横取りかとイヤミを言われた。

 俺は何とも思っていない素振りで、伊澄に高遠との見回りを命じた。俺と目が合う度に、伊澄は真っ赤になる。伊澄は綺麗な顔をしているのだが、俺の中では本当に可愛く思えた。だが伊澄が自分から俺に話しかけてくる事は無い。俺が時折話しかけると真っ赤になる以外は、淡々と風紀委員としての仕事をこなしている。

 武道を習った事はあるらしいのだが、隙だらけだという事にはすぐに気がついた。優秀な委員ではあるが、暴力的な生徒への対応はとても任せられない。となると、強姦被害者への対応の方が向いているだろうと判断した矢先、ひとつの事件が起きた。

「……」

 呆然としている伊澄が、状況を上手く理解出来ていないらしいというのがすぐに見て取れた。
 ――外部入学生だったと、改めて思い出した。
 この頃になると俺は、俺を見て頬を染める伊澄が可愛くて仕方が無かったので、ちょっといじめてみる事にした。俺は、好きな相手をいじめる悪癖がある。

 いつも従順な伊澄がどのような反応をするか知りたくて、自慰を命じた。どんな風に断ってくるのか興味があった。無論、後処理についてレクチャーするつもりはあったが、その前に自慰をしろなんていうのは、ただのいじめである。

 伊澄からは一切性的な気配がしなかったから、興味があったというのもあるが。

 さて、伊澄は従順だった。本当に自慰を始めた。真っ赤になりながら俺の言葉に従い、たどたどしい手つきで陰茎に触れたのだ。想像以上に従順で真面目だった。俺の言葉を伊澄は信じてしまったらしいのだ。俺の中で、理性がプツンと途切れた。

 口淫すると、真っ赤になって涙ぐみながら伊澄が放った。あんまりにも愛らしかった。そこから俺は、伊澄にのめり込んだ。指導と嘯き、じっくりと体を開いていく。伊澄の無垢な体が、快楽を覚えていくのを見るのが、どうしようもなく楽しかったし、欲情せずにはいられなかった。そのまま言いくるめて、俺は伊澄を抱いた。俺の下で震えている伊澄は、あんまりにも艶っぽかった。

 ――しかし困ってしまった。
 伊澄の色気が強くなり、ダダ漏れ状態となった為、見回りをさせると周囲の生徒が伊澄に釘付けになるようになったのだ。伊澄は全く気が付いていないが、伊澄の側が強姦被害に合いそうな気配で、周囲は心配した。副委員長は俺に呆れ切った視線を投げかけてくる。

 だが俺の方も、もう伊澄を逃すつもりは無い。
 毎日ドロドロに伊澄の体を甘やかす。俺無しではいられないように、体を作り替えていく。伊澄は真っ赤になって泣きながら、俺の要求をほぼ全て受け入れる。こんなに可愛い生き物は他には存在しない。伊澄が俺に抵抗するのは、理性が飛んだ時だけだ。そういう時はもう伊澄の体からは力が抜けているので、俺は思う存分貪る事に決めている。

 事後、俺は眠ってしまった伊澄の横に、寝転んでいた。端正な顔には、涙のあとがある。俺が手を出さなくとも、伊澄は誰かに食べられていただろう。俺は目の前に美味しいものがあれば、自分で率先して食べるので、伊澄を手に入れられて満足だ。

 その時、伊澄が目を覚ました。俺を見て、我に返ったらしく真っ赤になった。その表情を見て、俺は思わず笑ってしまった。本当に可愛い。

「お前は、随分と俺の事が好きらしいな」
「!」

 伊澄が真っ赤になった。最初は目を見開き、それからギュッと目を閉じた。照れているのが分かる。

「どうなんだ?」

 何も言わない伊澄に俺は畳み掛ける。今でも伊澄から俺に話しかけてくる事はほとんどないのだ。

「言え」
「……っ」
「伊澄」
「……好きです」

 この日――俺は歓喜した。しかし、表情にそれを出す事はしなかった。