【八】溺愛の日々
最近、晴臣先輩が、怖いくらい優しくなった。僕はデロデロに甘やかされている。ずっと僕のことを、「好きだ」「愛している」と言ってくれる。その上、どこに行くのも一緒だ。僕は、こんな幸せな日々が怖すぎる。
今も食堂にいるのだが、晴臣先輩は僕にオムライスを食べさせる事に熱心だ。僕が口を開けないと怒る。みんなの視線がこちらへ向いている。恥ずかしい。僕じゃ晴臣先輩には釣り合わないと思われていると思う……。
だけど、僕は嬉しい。僕は、晴臣先輩に恋人だと言われる度に、舞い上がっている。
見回りの編成にも変更があって、僕は晴臣先輩と同じ班になった。放課後は、晴臣先輩が来いというから、最近では晴臣先輩の部屋に帰っている。僕は、ほぼずっと、晴臣先輩と一緒にいる。学園でも、寮でも。
中間テストが行われたのは、そんなある日の事だった。
僕は――順位を落として、二位になってしまった。一位は、奈都君だった。やはり季節外れに転入してくるくらい、奈都君は頭が良かったのである。僕は晴臣先輩にがっかりされてしまいそうで嫌だった。だが、晴臣先輩は、僕の成績には特に触れない。
「詩乃は、そばにいてくれればそれで良いんだ」
「晴臣先ぱ……っ」
唐突にキスをされたのは、テスト明けの放課後の事だった。期末試験は頑張ろうとそれでも思いながら、僕は甘いキスに浸る。
生徒会がリコールされる事になったのは、そんな頃の事だった。
働かなさすぎる生徒会に、ついに全校生徒が立ち上がったのである。
風紀委員会もその選挙の関連で忙しくなったが、僕はその間も、ずっと晴臣先輩と一緒だった。晴臣先輩は言う。
「俺もまた詩乃に陥落したが、俺はきちんと働いているからな」
働いているというのは事実だ。真剣な顔で見回りをしたり書類を片付けたりする先輩は、本当に格好良い。そして優しい。僕は今では顔面造形だけでなく、先輩の全ての虜だ。指先や体温も大好きだが、何より中身が大好きだ。先輩がいなくなってしまったら、僕はきっと耐えられないだろう。
僕は――その後、長らく気がつかなかった。
晴臣先輩が、僕を溺愛していて、束縛しているという事に。
ある日、奈都君に言われてそれを知ったのだ。
「本当に愛されてるよな」
この時も、隣には晴臣先輩がいた。晴臣先輩は、僕が誰かと話す時は、自分も一緒でなければならないと主張している。僕はそういうものなのかなと思っていたが、違ったらしい。
「ああ、愛している」
答えたのは晴臣先輩で、僕の手をギュッと握ると穏やかに笑った。
「俺は詩乃が好きだ」
このようにして、日々は流れていった。