この棒はなんだ??




 生徒会室の扉にノックの音が響いたのは、その時の事だった。
 書類を持っていた会計の篠波侑眞が顔も向ける。傍らの生徒会長専用の執務机の椅子には、いつもの通り会長の五泰良統森が座っている。

「失礼する」

 すぐに扉が開き、珍しい人物が顔を出した。入ってきたのは、風紀委員長の珠白透理だった。室内にいた二人が、きょとんとして視線を向ける。

「何か用か? あ?」

 途端に不機嫌そうな顔に変化した会長であるが、珠白風紀委員長に片想いをして、もう長い。しかし全くそれに気づかない風紀委員長は、会長の言葉を無視し、真っ直ぐに会計の前に向かった。篠波は、チャラ男会計としてこの鐘冴学園では評判だが、実際にはそれなりに身持ちが堅い。決して童貞ではないが。

「おい、篠波」
「なに? 風紀委員長に声をかけられるような覚えはないんだけどねー?」

 へらりと笑って篠波が答えると、持参した紙袋から、珠白が透明な箱を取り出した。
 中には――尿道ブジーが入っている。呆気にとられた後、篠波は頬を引きつらせた。

「なにそれ、何持ってるの委員長……」
「なんだ……篠波でもコレがなんだか分からないのか……」

 すると珠白の声が残念そうな――そして、『使えない奴だな』というようなものに変わった。

「へ?」
「ただの棒を所持していただけでは摘発できないからな。コレがなんだか聞きに来たんだ。篠波なら知っているかと思ってな」
「待って? なんで俺なら知ってると思うの? そこで思っちゃったの?」
「ん? なんで、とは?」

 珠白が純粋な笑顔を浮かべる。知っていて当然だという顔に、篠波の頬がさらに引きつった。

「お、おい……! なんてものを持っていやがる!?」

 そこへ会長が声を挟んだ。

「なんだ? バ会長は、これがなんだか知っているのか?」
「と、当然だ」

 大きく頷きつつ、若干頬の朱い会長に、珠白が向き直る。

「使い方を教えてくれ」
「えっ」
「頼む」

 キリッとした真面目な顔で、珠白が言った。硬直し、最初は真っ赤になって震えていた会長であったが、すぐにニヤリと肉食獣のように笑ってから、生徒会室の中にある、仮眠室の扉を見た。

「いいだろう」
「ありがとう。で? どうやって使うんだ?」
「こちらへ来い」

 こうして会長が仮眠室へと歩き出す。言いにくいことなのだろうかと考えながら、珠白はついていく。完全に飛んで火に入る夏の虫状態だが、現在は冬である。

「あーあ……」

 その後、仮眠室から快楽に泣き叫ぶ声が聞こえてきたが、会計は知らんぷりした。