風紀委員長の陰鬱






「うあっ、あ、あ、あああ」

 今日も珠白は、放課後に五泰良の部屋で貫かれている。
 バックから腰を掴まれ、ガンガンと突き上げられている。自分本位の野獣のように荒々しいセックスが、五泰良の好みらしいと珠白は考えている。

「あ、あ、あああっ、やぁ、あ、ああア!」

 とにかくいつも激しくて、声が枯れるまで啼かされる。
 たまに気持ちがいい場所に当たるから、結果として陰茎は反応し、長い間貫かれているから、最終的には放っている。だが、初体験の衝撃ほど、快楽に感動はしていない。

 正直乱暴であるし、呼吸をするのにも必死になってしまうから、珠白はあまりセックスが好きではない。だが大好きな五泰良が望むのならばと、体を重ねているだけだ。

 ――その内に。
 だんだん五泰良は、短時間義務的に挿入して、少し動くと射精して、あっさりと行為を終えるようになった。間隔も、毎日だったものが、週一になり、今では月に一度あればいいほうだ。

 代わりに……五泰良が、他の生徒と寝ているのを、珠白は知った。
 理由は、珠白本人が、現場を摘発したからである。

「……」
「ん? なんだよ? なにか言いたいことでもあんのか?」

 白濁とした液が零れ落ちる使用済みのゴムが、ベッドに二・三個落ちていた。
 ベッドに眠るチワワは、真っ赤になっていて、全裸の白い肌には、キスマークが散らばっていた。

「……その、事情聴取がある。風紀委員会室へご同行願う」

 珠白はそれだけ必死に言って、平静を装い、無表情を保って風紀委員会室へと戻った。そして先に、チワワの事情聴取を行った。

「同意ですぅ。本当に会長様はぁ、じっくり丁寧に愛撫して下さって、トロトロにして下さって、気持ちが最高にいいんですよーっ。一見俺様なのに、あんなに優しく丁寧だなんてギャップすごっ。もう固定のセフレになってから長いんですぅ」

 それを聞いて、パリンっと珠白の心に皹が入った。

「そうか」

 自分は、過去に一度も優しく丁寧になんて、抱かれたことはない。
 そうか、きっと最近こないのは飽きたからで、己のこともセフレの一人くらいの認識なのだろう。珠白はそう悟った心地だった。

 会長の事情聴取は、別の者が担当した。

 その日の夜、久しぶりに五泰良が、珠白の部屋に訪れた。セックスがたまにになってからは、珠白の部屋に気まぐれに五泰良が来ることが増えた。珠白からは五泰良の部屋には行かない。以前、『やりたくなったら来い』『俺がやりたくなったら行く』といったやりとりがあったからだ。珠白は、別にやりたいわけでは無かったから行かない。ただ、五泰良が来るのをいつも待っていた。会いたかったからだ。

「――で? 何か言いたいことは無いのか? 風紀委員長様」
「別に」
「へぇ」
「ただ、場所を考えたらどうだ? 学内での不純異性交遊は罰則の対象だ。これ以上、俺の仕事を増やさないで欲しいんだが」
「ほう。部屋でやれって意味か?」
「……好きにすればいい」
「てめぇは、恋人の浮気現場を見て、なんとも思わないわけだ?」
「恋人?」

 本当にそう思っているのか、珠白は問いかけたかった。だが――少しでもそう思って貰えているのなら、そのままでいたい。五泰良が好きだから。

「違うって言うのか? あ?」
「……いいや。俺は恋人だと認識している。だが……だからといって、五泰良の行動を制限したりはしない。風紀委員長としての仕事以外ではな」
「へぇ。随分と物わかりがいいんだな」
「……別に」

 ただの、嫌われたくない一心での言葉だった。本当は胸が痛くて張り裂けそうだったし、嫉妬で気が狂いそうだった。