風紀委員長の涙腺







 目を覚ますと珠白は、体にシーツがかけられている事に気がついた。
 傍らの椅子に座っていた五泰良の姿に気づいて、先程までの、喘ぎまくってしまった自分の痴態を思い出し、言葉に詰まって瞳を揺らす。

「で?」
「――え?」
「なんで別れてぇんだ?」

 いつもと同じような、ニヤリとした笑みでない時分に浮かべている退屈そうな顔で、五泰良が問いかける。珠白は俯いた。五泰良の事は好きだ。でも、辛さに耐えられないからだ。最初は付き合っていたいから我慢しようと思ったけれど、もう限界だ。

「五泰良のことは好きだ。だからこそ、辛いんだ」
「辛い?」
「他の生徒を抱いて、俺の所には来ないだろう?」
「……平気なんじゃなかったのか?」
「平気なはずがないだろう」

 暗い目をした珠白は、自嘲気味に嗤った。

「その相手達のことは、優しく丁寧に甘く抱くそうだな。事情聴取で聞いた」
「……」
「でもお前は……俺には、荒々しいというか、お前だけが気持ちよくなるようなセックスをするだろう? そうじゃなくなってからは、義務的に俺を抱きに来た。それもなくなっていって……他の奴のとこにいって……だから……もう、限界だ。それにお前は、抱く以外で俺の所になんか、来たことはないしな。もういいんだ。お前が俺を好きじゃないんだって分かってる。無理に付き合わせたな。最後に聞いてくれて悪かったな」

 つらつらと語る珠白の言葉を、五泰良は黙って聞いていた。
 珠白はそれから、ベッドから降りた。

「すぐに帰る」
「――待てよ」

 五泰良が声を発したのはその時だった。ゆっくりと珠白が視線を向けると、続けざまに五泰良が言った。

「俺様の反論を聞け」
「反論? 何故?」

 五泰良も自分を嫌っているのだろうから別れたいと思っているはずだと考えていた珠白は、首を傾げた。

「――まず、セックスの話からだ。荒くしないと、てめぇは声を出さないだろ。俺はお前の声が聞きたかった。でもな、そもそもセックスが嫌なのかと思って、お前が淡泊なのかと思って、行為を短くして短時間に変えた。するとどんどんお前が嫌そうな顔になったから、これすらも嫌なのかと思って、回数も減らした。けどな、それじゃあ俺様は収まらねぇから、他の奴を抱いて、実際にはお前にしたいような行為――それこそ優しく丁寧に甘く抱いていたんだよ。お前を重ねてな」
「!」
「俺から見たら、他の奴を抱いてもはいどうぞっていうお前こそが俺を好きには見えなかった。でも俺はてめぇが好きだから別れたくなくて現状を維持していた。それに俺のところに来なかったのはお前だろうが。俺はセックスを理由にこれでも行った。お前なんて、それすら一度も無かっただろうが。あ?」
「っ」
「俺は珠白が好きだ。そしててめぇもたった今、俺を好きだと言ったな? だったら別れる必要は無ぇだろ。お互いの考えが分かったんだからな」

 そう言うと立ち上がり、五泰良がギュッと珠白を抱きしめた。
 その瞬間、珠白の涙腺が倒壊した。

「本当か? 本当に俺の事が好きか?」
「おう」
「ン」

 五泰良が珠白の唇を奪う。深く深くキスをして――そのまま再び珠白を、五泰良は押し倒した。

 そして。
 優しく丁寧に甘く抱いた。

「ぁああ……もうデキなぁっ、ンあああ」

 快楽に泣き叫び、大きな声を素直に出した珠白を、深く深く貫きながら、五泰良が笑う。

「愛してるぞ」

 珠白はそれを涙で滲む目をしながら聞き、満たされた気持ちになった。