勃たない、どうしよう。





「これだから、お堅い風紀委員長様は、なァ。どうせ童貞なんだろ。ひがみか? ん?」

 五泰良の不純同性交友を摘発した珠白は、その一言に、うっ、と呻きそうになった。
 別に『童貞』という言葉に反応したわけではない。童貞ではあるが。

 ――お堅い、以前の問題なのである。

 珠白は、勃たないのである。風紀委員会の激務に追われ、自慰をする暇も無いくらい働いていたら、気づいたらヤりたいともなんとも思わなくなり、自分の年代でこれはおかしいと意を決してオナったが、さっぱり勃起しなかった。EDという語が脳裏を過ったのは、もう三ヶ月も前の事だ。

「……」

 何故なのか、沈黙し、片手で唇を覆い、視線を下げ、珠白が急に何か思い詰めるような目をしたものだから、五泰良は不思議に思って首を傾げる。なにか、地雷を踏んだのだろうか? と、しばし考えた。

「珠白?」

 いつもは『アホ風紀』と呼ぶのだが、そういう空気では無かった。

「あ、いや。悪い、なんでもない。すぐに取調室に連行する。行くぞ」

 ハッとした様子の珠白に言われ、五泰良は曖昧に頷きついていった。そして始末書を命じられて、帰ってきた。



 ――いよいよまずいのではないか。

 そう考えた珠白は、風紀委員会室に一人残り、片手に没収した未使用の前立腺マッサージ用の器具を持った。机の上には、ローションがある。

「……」

 深刻な顔でそれを見据えながら、何度も何度も首を捻り、珠白は悩む。

 ――前を刺激してもダメなのだから、後ろを試すべきか。ED克服サイトには、一定の効果があると書かれていた。それに学園のネコ達は、後ろを刺激されて皆勃起している様子だ。

 ぐるぐると考える内、眉間に皺がより、険しい顔になったが、その瞳だけは心細そうで、濡れた仔猫のようだった。
 
「うーん……」

 暫く悩んだ末、今日もローションのボトルと、マッサージ用の器具を、珠白は引き出しの中にしまった。