俺は嫌われている……。
――俺は嫌われている……。
と、珠白は常々考えている。皆、自分を怖がり、遠巻きに接してくる。自分から声をかけると、必ず風紀委員長としての注意だと誤解され、萎縮される。
「はぁ……」
その上……。
珠白は眉間に皺を刻んだ。本当は泣きたかったが。
「なにをしている、バ会長」
そこには、本日もチワワを侍らせている俺様バ会長、五泰良の姿があった。
毎日注意している。
が……彼こそが、珠白の思い人であり、珠白は、五泰良に惚れている。
「あ? てめぇこそ、うぜぇんだよ毎日」
その一言が、グサっとくる。五泰良にも勿論嫌われている。それが辛くてたまらない。だが顔に出すわけには行かないので、珠白は五泰良を睨めつける。
「不純同性交友は、学園内では許可できない」
「でもこうでもしねぇと、てめぇは俺に話かけてくれねぇだろ……」
「? 注意されたいのか? 変わってるな」
「おい」
五泰良が遠い目をした。それから肩を抱いていたチワワを解放した。
「ちょっと話をしていただけだ」
「『今から空き教室にどうだ? ゴムはあるぞ』『いいですよぉ』という会話をしていただろう。未遂だが摘発対象だ」
すると五泰良がポケットから結いゴムを取り出した。
「こいつ髪長いから」
「は?」
「――お前を誤解させる会話をして、声をかけさせるのが狙いだ」
「確かに髪が長いな。だが服装は自由という校則がある」
「聞けよ!」
「では、俺の勘違いだったと言うことか。すまない。気をつける。では、見回りに戻る」
こうして足早に珠白は立ち去った。
……俺も髪を伸ばしたら、結ってもらえるのだろうか。
内心でぼんやりとそんな事を考えている珠白は知らない。
全校中が、五泰良が珠白を好きな事に気がついており、気を遣って珠白に話しかけないようにしているという事実に。決して嫌われているわけではない。皆、会長を応援しているか、会長に睨まれて怖いから、避けているだけである。
その上全校中が、珠白の気持ちにも気づいている。
なので特にチワワ達は、会長に協力し、珠白とくっつけようと画策している。
だが本日も焦れったい両片想いは実らないままなのであった。