純白






「なんだか、最近元気ねぇな」

 校庭にて。
 コートを着て見回りをしていたら、中庭に同じくコートを着ている生徒会長が立っていた。

「べ、別に」

 連日の責め苦で、正直からだが疲弊しきっている。目の下にはクマがあり、眠気が酷い。それでも見回りはしなければならないからと、精一杯風紀委員長の顔をする。風紀委員長である事だけが、今は自分を繋いでくれているからだ。

「ば、バ会長。何故ここに?」
「何故? 何故って、学園の何処にいようが自由だろ? 放課後なんだからなァ」
「暇そうだな、生徒会は」
「――お前、どうしたんだ? 声、掠れてるぞ?」
「っ」
「ほら」

 五泰良はそう言うと、ポケットからのど飴をとりだした。珠白が目を見開く。

「やるよ」

 こうした五泰良の些細な気遣いが、珠白は好きだった。胸がほんのりと温かくなる。
 そして今は、そんな優しさに泣きそうになる。だから、上を向いて涙を誤魔化す。
 ――対等な相手、初めて人生で出会ったライバルでもある五泰良にだけは、知られたくない。それから顔を戻してのど飴を受け取る。すると久方ぶりに笑顔が浮かんできた。

「ありがとう」
「お前が素直に礼を言うなんて、いよいよ変だ。明日は雪か?」
「……もう、冬だしな」

 珠白が苦笑すると、不意に五泰良が、ポンポンと珠白の頭を撫でた。

「っ」
「お前は頑張ってるよ」

 再び珠白は泣きそうになった。今度は我慢できず、一粒だけ、涙が零れた。
 すると真面目な顔に変わった五泰良が、心配そうに珠白を抱き寄せる。

「どうしたのかは分からねぇが、泣きたい時は泣け。俺の胸、貸してやるよ」

 そのまま静かに、少しの間、珠白は泣いた――だが。
 ゾクリ、と。
 抱きしめられていたら、体温を感じ、快楽に慣れきった体が反応した。それが怖くて、思わず五泰良の体を突き飛ばす。

「んだよ、その態度は、酷いだろ、巫山戯ん――……珠白?」

 一歩後ろに下がった五泰良が不機嫌そうに言った後、言葉を止めた。
 ガクガクと珠白が震えていたからだ。

「珠し――」

 その言葉が終わる前に、踵を返して珠白は走り去る。見られなくなったから、ボロボロと泣きながら。

 手を伸ばしていた五泰良は、やり場の無い手で宙を掴んでから、それをおろすと、透き通るような目で、暫しの間珠白の背中を眺めていた。