気が合わない?






「巫山戯んな、あ? 氷堂」
「黙れ、五泰良」

 熱のこもった怒りの声を上げた琉生と、凍てつきそうな冷たい声を放った氷堂。
 二人の睨み合いは、この学園のある種名物とかしている。

 珍しく職員室に顔を出した理事長は、秘書が入れてくれた緑茶を飲みながら、にこやかに二人を見て、無視を決め込んだ。うるせぇなぁ、と、内心で思っていたようだが、表情には少なくとも見えない。

「大体、巫山戯ているのは五泰良の方だろう」

 そう指摘しながら、氷堂は考えていた。
 ――はぁ、なんていい俺様攻めなんだろう、と。
 実を言えば生粋の腐男子である氷堂は、生BLが見たいがために、教職課程をとり、母校の採用試験に応募したのである。在学中は風紀委員長の職務に忙しすぎて、ゆっくり観察できず(摘発していたので)、悲しい思いをしたので、今こそはと思っているが、鉄面皮であるし、腐男子バレしたくないので顔には出さない。

 そんな氷堂の中の攻めとしてのお気に入りが、まさに五泰良琉生だった。
 数学教諭となった、昔の生徒会長であり、同期である。

 ただ一つ問題があり……受けが見つからないのである。
 内心で溜め息をついた。

 その冷淡な顔を見つつ、琉生は悔しくなった。

「……」

 理由は、在学時から氷堂の事が好きで、大学を追いかけ、教職をとり、学園への赴任までついて来たにもかかわらず……いっこうに氷堂が己の好意に気づいてくれないからだ。もう周囲はみんな、この行動から、琉生の気持ちを知っている。知らないのは氷堂だけだ。ちょっと鈍すぎる。気づいていて躱されているとかではない。全く気づかれていないのである。琉生は、自分は結構露骨だと思うのだが、一切氷堂は気づいてくれない。

 ……ここはもう、告白するしか無いのだろうか。
 ということで、ここで琉生は、五十七回目となる告白チャレンジをした。

「好きだ氷堂。愛している」

 ド直球である。

「……」

 しかし脳内妄想に忙しすぎて、氷堂は聞いていなかった。難聴系なのは、風紀委員長になる資格の一つなのかというくらい、歴代の風紀委員長は、みんな話を聞いていない。それを何人もの風紀委員長を見ている理事長は知っていたが、中でも氷堂はずば抜けて酷い事も熟知していた。ここまで来ると、琉生が不憫だとさえ思っている。

 ――俺様受けもいいかもしれない!

 その時、氷堂はひらめいた。そして正面にいるバリタチと評判の理事長の背中を見る。いいかもしれない。五泰良琉生を受けにし、理事長に攻めさせる! パーフェクト!

「おい、氷堂」
「ん? お前、そういえば、ネコもできるか?」
「は!? まさか聞こえていたのか? 俺はタチ希望だ!」
「残念だな」
「えっ、お前もタチということか? というか、付き合ってくれるのか?」
「悪い、今考えごとに忙しいんだ、後にしてくれ」

 どうやらダメらしいと、再びカップリング考察に氷堂は戻った。
 期待しながら琉生は待つ。

 それから腕を組み、氷堂はうなり始めた。結局、琉生は聞いてもらえていなかったと、この日五十七回目も失敗したことに、すぐに気がつく。いつか、琉生の思いが届く陽葉、来るのだろうか?