【七】聖夜





 翌週になると、学園内は、聖ミジリアス祭のムード一色となった。既に氷月に入っている。もう一週間と半分ほどで、聖夜だ。長期休暇は、春と決まっているので、まだまだ学園生活は始まったばかりである。カルナにとっては、学園内での聖ミジリアス祭のイベントが、初めての行事となる。

 廊下の所々に、銀色の星が飾られている。聖ミジリアス祭の前日と当日は、講義が全て休講となるそうだ。前日の夕方に大広間で、ミジリアス教の聖書を読み、ケーキを食べるというイベントで、その夜から翌日にかけては、自由に過ごして良いと決まっている。本来は恋人同士や夫婦、家族で過ごすイベントであるのだが、学園内では個人的な集まりを好き勝手に催すらしい。

「やっぱりヴェルディは、持ち上がり組とかのみんなと過ごすの?」

 夕食の席で、何気なくカルナが聞いた。するとヴェルディが首を振った。

「俺は聖夜くらい、気楽に過ごしたい。心休まる相手と過ごしたいから、毎年寮に引きこもっていた。今年はカルナがそばにいるから、出来ればカルナと過ごしたい」
「僕もヴェルディと過ごしたいから嬉しい」

 カルナがヴェルディの答えに両頬を持ち上げる。それを見てヴェルディが心なしか安堵した顔をした。

「ユイスは良いのか?」
「ん? 特に話してないけど」
「そうか」
「どうして?」
「個人的に過ごすのは友達同士も多いからな」
「もし話が出ても断る。僕も寮にいたい。あー、でも、毎年ヴェルディが寮にいるんなら、僕も同じ部屋だから、一緒にいるってバレちゃうね」
「別に構わないだろう。聖夜くらい」
「聖夜だからこそ、みんなのチェックが厳しい気がする」
「――持ち上がり組は、特別な夜会を開くし、貴族もそれは同じだから、案外ひと目は緩む。それに皆、自分の恋に必死だからな」
「ヴェルディは色々な人に恋されてるんでしょう? お誘いがいっぱいなんじゃ?」
「俺が誰の誘いにも乗らないというのも、広まっているようで、ここ数年は誘いも無い。聖夜に限っては」
「そうなんだ」

 それを聞いて、カルナは少しホッとした。

 食後入浴を済ませてから、ヴェルディがそっとカルナを抱きしめた。寝台に座ってヴェルディを待っていたカルナは、優しい唇を受け入れる。ヴェルディは予習復習を怠らないが、こうして体を重ねる頻度は増えている。

 カルナの服を脱がせたヴェルディは、改めてカルナを抱きしめた。その腕に触れながら、カルナが微笑する。それからもう一度キスをした。

 ヴェルディに押し倒されたのはその直後で、カルナはヴェルディの首に腕を回したままだ。ヴェルディがキスマークをつけていき、それからカルナの右胸の突起を唇で挟んだ。そしてチロチロと舌先で刺激する。熱い舌の感触に、カルナが震えた。

 片手でカルナの陰茎を覆うように撫でてから、ヴェルディがカルナの中を解し始める。指を二本入れて、かき混ぜるように動かしてから、カルナの感じる場所を刺激した。

「ぁ……ぁ、ァ」

 甘い声を上げたカルナが、きつく目を閉じる。ヴェルディの指がバラバラに動き始め、時折感じる箇所を掠める。そうしてじっくりと慣らされてから、カルナは挿入された。ヴェルディが一気に根元まで挿れる。熱い剛直に貫かれて、カルナは喉を震わせた。白い体が赤く染まっていく。

「あ、あ……ああ、っ……ン、ぁ」

 ヴェルディはギリギリまで引き抜いては、最奥まで貫くという動作を繰り返している。引き抜かれると切なくなり、また最奥を刺激されると果てそうになり、カルナの息が次第に上がっていく。焦らすような動きに、カルナはもどかしくなった。

「ぁ……は、ッ、ぅ……あ……あ、ヴェルディ、もっと……ッ、ん!」
「どうされたい?」
「もっと、して……あ、あ……」

 潤んだ瞳でカルナが言う。睫毛が震えていた。それを見てヴェルディも余裕がなくなりそうになる。だから動きを早めて、カルナの内部をそれまで以上に責め、カルナの快楽を煽る。ヴェルディが動く度に、カルナの全身が熱を孕んでいった。純粋に気持ち良くて、カルナは舌を出して必死に吐息する。その姿が凄艶で、ヴェルディは息を詰めてから、より激しく動いた。打ち付けられる内に、カルナは頭が真っ白に染まる。

「あ、ああ! あ! ん――!!」
「悪い、余裕がない」
「そんな僕はいつも無いよ、あ、あああ!」

 一際強く打ち付けてヴェルディが中で果てた。ほぼ同時に、内部の感じる場所を突き上げられた衝撃で、カルナも放った。



 ――聖ミジリアス祭の前夜は、すぐに訪れた。大広間へと向かったカルナは、隣に立つユイスを見る。読み上げられる聖書に耳を傾けるのは、クラス単位なのだ。ルイの姿も前方にある。厳かな空気が漂う中で、祝詞をカルナは聞いていた。結局この日まで、ユイスと聖ミジリアス祭について話した事は特に無かった。

 その後は二人で並んで、ケーキの前に座った。全員の分が学園から配られたのである。そこで初めて、カルナはユイスに聞いた。

「ユイスは、今夜と明日はどうやって過ごすの?」
「予定は特に無い。部屋。カルナは恋人と過ごすんだろ?」
「えっ、な、なんで?」

 思わず赤くなって、カルナは小声で聞いた。するとユイスが苦笑した。

「見てれば恋人がいるらしいってのはすぐに分かった。前も言っただろう? それにたまにお前、首にキスマークついてるし」
「え、嘘!?」
「本当」
「……」
「――嘘だよ。だけどそこで黙るって事は、心当たりがあるんだろ?」
「な! 酷いよ!」

 真っ赤になったままでカルナが抗議すると、ユイスが吹き出した。

「だから俺も、空気を読んで、お前の事は今日も明日も誘わなかったんだよ」
「……そうだったんだ」
「かと言って、お前以外と過ごすあてもなかったし、必然的に一人っていうか」
「そ、そっか……なんかごめん」
「謝るなよ。俺が惨めな感じになっちゃうだろうが!」
「う……あ、そうだ、リュートとかは?」

 何気なくカルナが聞くと、ユイスが細く長く吐息した。

「あいつは持ち上がり組のパーティーに行くんじゃないのか? はっきりとは聞いてないけどな。ヴェルディ様も行くんだろう? なら、確実」
「ヴェルディは寮で過ごすみたいだよ?」
「――ふぅん。だからといって、持ち上がり組のパーティーが無くなるってわけでも無いだろうしな。共有スペースのテーブルに、持ち上がり組のパーティーの招待状が置いてあったし」
「そうなんだ」
「俺は独り寂しく寮だな。で、お前は? 恋人の部屋か? そろそろ誰が相手なのか教えろって」

 その言葉に、カルナは激しく照れてから、ユイスの耳元に唇を近づけた。

「ヴェルディと付き合ってる」
「え」

 それを聞いたユイスが、フォークを取り落とした。それを慌てたように拾ってから、ユイスが目を見開いてカルナを見る。

「真面目にか?」
「う、うん……」
「お前、本当に度胸があるな。え? 告白はどっちから?」
「あっち……」
「ほう。なるほどな。で、お前は受け入れたと?」
「うん、そうなるね」
「ふぅん。まぁ分からなくはないな。あれほどの男前に告られたら、そりゃあ揺らぐよな」
「外見も中身も男前すぎて困ってるんだよね」
「惚気るな」

 ブッシュドノエルを新しいフォークで口に運びながら、ユイスが笑った。初めて他者に話した為少し緊張しつつも、親友に対して隠し事が消えたので、カルナはすっきりした気分になった。そこで思い出した。

「結局ユイスは、リュートの事を好きになったの?」
「あー……ま、まぁな。というか、お前に話した時点でほぼ好きだったしな……」
「うんうん。そんな気はしてたけど……その後は、どうなったの?」
「どうにもなってない。ただの俺の片想いだ。お前、ヴェルディ様に言うなよ? リュートに伝わったら俺は泣くぞ」
「言わないけどさ。告白とかしないの?」
「前にも言ったけど、リュートはヴェルディ様しか見えてないからなぁ……」

 ユイスが溜息をついた。それから頬杖をついて、カルナを見る。

「良いよなぁ、お前は」
「……本当、なんかごめんって気分」
「だから謝るなって」

 足音が近づいてきたのは、そんな時である。カルナが顔を上げる。ユイスはケーキに注目している。歩み寄ってきた人物を見て、カルナは目を丸くした。リュートだったからだ。

「随分と楽しそうにしているんだな」

 リュートはそう言うと、片目を細くしてカルナを見た。睨んでいる。その声に、狼狽えたようにユイスが体をビクリとさせた。椅子から落ちそうになっている。ぎこちなく振り返ったユイスを、冷酷な表情でリュートが見据えた。

「貴様達は、二人で過ごすのか?」
「え、いや……俺は部屋だけど……」
「僕達は別々ですが……」

 慌ててユイスとカルナが答えた。するとリュートが両目を細めた。

「カルナ=ワークス、お前はどこで過ごすんだ?」
「……そ、その……」

 返事の内容をカルナは思案した。ヴェルディと共に寮で過ごすのだが、それを伝えたら、まずいように思った。必死で考えた結果、カルナは思いついた。

「恋人の部屋で過ごします」

 ……嘘ではない。我ながら良い回答だと感じて、カルナは何度も小刻みに頷く。するとリュートが顎で頷いた。それからリュートは不機嫌そうにユイスを見る。

「俺も今年は部屋で過ごす」
「えっ……それって、俺に出て行けって事か?」
「別に。貴様の部屋でもあるから、好きにしろ」
「……」
「俺は先に帰っている。あまり遅いと鍵の他にチェーンをかけるからな」

 冷たい口調でリュートはそう言い、立ち去った。ユイスは目を丸くしている。それを見て、カルナが小声で言った。

「ね、ねぇ? 一応今のって、一緒に過ごそうっていうお誘いじゃないの?」
「う、うん。俺もそう聞こえた……」

 呟いてから、ユイスが赤くなった。頬に朱をさしている。信じられないという顔で、リュートの背中を見ている。

「一緒に帰ったら?」
「そうする。悪い、先に行くわ」

 ケーキを一気に食べて、ユイスが立ち上がった。手を振りながら、カルナは、ユイスの幸せを願った。

 その後、カルナも部屋に戻った。すると少し遅れてヴェルディも帰ってきた。ヴェルディは施錠してから、カルナに真っ直ぐに歩み寄り、ギュッと抱きしめた。カルナもヴェルディの背中に腕を回す。

「今日ね、ユイスに伝えたんだよ。ヴェルディとの事」
「そうか……悪い、実は俺もリュートに話してしまった」
「え?」

 それを聞いて、カルナは顔を上げた。だとすれば、『恋人の部屋で過ごす』という先程の答えの結果は……。そう焦ってカルナは告げた。

「ど、どうしよう? さっきリュートが僕とユイスの所に来た時、恋人の部屋で過ごすって言っちゃった」
「それは上手い答えだな。嘘ではないし」

 カルナの言葉にヴェルディが小さく吹き出した。ヴェルディはカルナの柔らかな髪を撫でる。そうして目を伏せ、カルナの額に口付けた。

「大丈夫だ。リュートは最近、少し変わったんだ」
「え?」
「どうやら、あいつ、初恋状態らしくてな……珍しく俺に恋愛相談なんかを持ちかけてきてな。あんなリュートは初めて見た」
「そうなの!? 相手は? さっき、ユイスの事を誘いに来た気がしたんだけど」
「合ってる。ユイス=レイドルが気になると話していた」

 だとすれば両想いだ。ユイスに対して良かったなぁと心底思いながら、カルナは小さく頷く。そんなカルナの頬に今度は唇で触れてから、ヴェルディが続ける。

「リュートは慣れないと優しさが分かりにくい性格をしているんだ」
「ヴェルディよりも?」
「俺は優しいんじゃなかったのか?」
「うん。今はすごく優しい」
「――そうだな。出会った当初の俺と、現在のリュートを比較したとしても、リュートは分かりにくい。あいつは自分にも他人にも非常に厳しいしな。ユイスに無事、気持ちが伝わると良いんだが」
「大丈夫だよ、きっと。それにほら、片想いの場合は、片想いの相手と聖夜を共に過ごすと結ばれるっていう伝承もあるし」
「ああ。それを気にして、リュートは今年、パーティーを断ったんだ。それで最後まであいつは、ユイスがカルナと過ごすだろうからと気にしていたものだから……つい俺は話してしまったんだ。カルナには俺がいるから、心配はないと、な。励ましておいた」

 ヴェルディはそう言うと、遠くを見るような、どこか呆れているような瞳になった。

「勿論、絶対に秘密で他言無用とした上で、カルナに何かをしたら許さない旨を伝えた」
「あ、有難う……」
「だが現在のリュートの中の最優先事項はユイスであるらしくてな。あいつの中でお前は恋敵だったらしく、付き合っていないと聞いた途端、喜び始めた。確認してくると意気込んで、ユイスを誘いに行ったんだ」
「そうだったんだ」
「無事に誘えたんなら何よりだな」

 カルナが頷いた時、ヴェルディがカルナの首元を緩めた。そして服を脱がせると、ソファの上で押し倒す。そんなヴェルディに腕を回して、カルナはキスを求めた。薄らと唇を開くと、すぐにそれを悟ってヴェルディが口付ける。何度も角度を変えて、二人は唇を貪りあった。

 ヴェルディがいつものように首筋に唇を落とした時、カルナが思い出した。

「そういえばユイスに、キスマークがついてるって嘘をつかれてさぁ。信じちゃった」
「見える場所には付けないように、これでも気を使っていたんだが」
「そうだったの? ん、ぁ……」

 下衣の上から陰茎を撫でられて、カルナが甘い声を漏らす。するとヴェルディが微苦笑しながら頷いた。

「リュートという強敵もいなくなったと言えるし、見える場所につけても良いか?」
「ダメ。他にもいっぱい強敵はいると思う」
「残念だな」

 そのままヴェルディが、完全にカルナの服を脱がせた。それからカルナの体を反転させる。大きなソファの上で、猫のような体勢になったカルナが静かに目を閉じた時、ヴェルディの指が内部に入ってきた。

「あ、ア……っ、ぁ」

 縦横無尽にヴェルディの指が動く。次第に快楽に慣れてきた体が、もっともっとと訴える。カルナは切ない声を上げながら、指の感覚に浸った。

「ん、ぁ」
「好きだ、カルナ。今夜、一緒に過ごす事が出来て、本当に嬉しい」
「ぁ、ア! ぼ、僕も……ん、ぁ、早く……っ」

 カルナの言葉に、ヴェルディが体を進めた。後ろから深く貫かれて、カルナが声を上げる。

「あ、あ、あ――っ、ン、ぁ……ぁ、ァ」
「今夜はゆっくり出来るな」
「ひっ、ぁ……あ、あ」

 いつもよりも緩慢にヴェルディが動く。じっくりと味わうように最奥まで穿っては、限界まで引き抜き、そしてまた突き上げる。徐々に昂められていくようで、体が炙られるようになり、じっとりとカルナの体は汗ばんでいった。

「あ……っく、ぅ……あ、ああ! あ、もっと……ゃ、ぁ……」

 焦らすようなヴェルディの動きに、カルナが涙ぐむ。

「ひゃ、っ……あ、ああ……ん」

 ヴェルディが根元まで挿入した状態で、動きを完全に止めた。するともどかしさがせり上がってきて、カルナは震える。

「あ、あ、動いて……っ、ン――!」
「こうか?」

 腰を軽くヴェルディが動かす。それだけではとても満足出来なくて、体の熱が酷くなっただけだった。必死で何かを掴もうとするかのようにカルナが指先に力を込める。しかしソファの上では何も掴む事が出来無い。

「ん、ぁ、意地悪しないで。ね、ねぇ、あ……もっと、して」
「可愛い頼みだな」
「ン、ァ……あ、あ……は、っ……」
「お前の頼みは、全て叶えたくなってしまう」
「ああああああ!」

 ヴェルディが激しく打ち付け始めた。その瞬間にカルナは放った。しかしヴェルディの動きは止まらない。どんどん激しくなっていく。

「やぁ、あ、あ、ダメ、あ、まだ――、ん――!」
「本当に?」
「あ、あ、おかしくなっちゃう……ひ、ぁ……ああああ!」

 容赦なく感じる場所を突き上げられる内に、カルナは理性を飛ばした。髪を振りながら、涙を零す。気持ちが良すぎて熱い体は、完全に自分自身では制御出来無くなった。

「あ、あ、ああ!」

 ヴェルディが中に放った時、カルナも再び射精した。二人の荒い吐息が、室内に谺する。ぐったりとしたカルナに、繋がったままで、ヴェルディが体重をかけた。背中にヴェルディの体を押し付けられて、カルナは身動きが出来無くなる。そんなカルナの耳の後ろを、ヴェルディがゆっくりと舐めた。

「まだ、だ。全然足りない」
「あ……」

 繋がった状態で、再びヴェルディの陰茎が硬度を取り戻していく。
 その夜二人は、散々交わっていたのだった。夕食は食べなかった。

 意識を落とすように眠り込んでしまったカルナは、翌日目を覚まし、体に力が入らない事に気がついた。隣には、寝転んでいるヴェルディがいる。

「目が覚めたか?」
「ん」

 カルナが頷こうとした時、ヴェルディがギュッとカルナの体を抱き寄せた。そして髪を優しく撫でる。そのまま頬に口付けて、ヴェルディが言った。

「今日が聖ミジリアス祭の本番だ」
「ケーキ、作らないとね。ねぇヴェルディ、喉が渇いた」
「ほら」

 ベッドサイドにあったグラスを、ヴェルディが引き寄せる。そして力が入らない体で僅かに起き上がったカルナに、檸檬入りの水を飲ませてくれた。よく冷えていた。先程起きたヴェルディが用意していた品である。

「ケーキよりもお前が食べたい」
「ヴェルディ……」
「カルナの唇の方が、俺にとっては甘い」
「……ヴェルディ、好き」

 ヴェルディがグラスをベッドサイドに置く。喉を癒したカルナは改めて横になり、ヴェルディの胸に額を押し付けた。そのまま抱き合って、二人は暫く寝転んでいた。

「一緒にケーキを食べると、幸せになれる日なんだよね?」
「ああ。食べた者同士が、また一年間幸せに過ごせるという言い伝えがある。来年も一緒にケーキを食べよう」
「そうだね。まず、今年一緒に食べる事から始めないとだけど」
「それもそうだな」
「ブッシュドノエルは昨日食べたし、僕に作る事が出来るものだと……チーズケーキとか、かなぁ。レアチーズケーキ」
「俺は一応、生クリームケーキを作る事が出来る」
「それも美味しそう。ぶどうやいちごを乗せたいね」
「どちらのフルーツでも良いな」
「冷蔵庫には、ブラックベリーしか買ってないけど」
「ブラックベリーも合うだろう」

 そんなやりとりをしてから、二人は日が高くなってから、寝台を降りた。
 そして二人でケーキを作る。

 結局、ヴェルディが主に担当する事になった。カルナは生クリームを泡立てる。ヴェルディは粉を振るっていた。

「頬についてるぞ」

 小麦粉を置くと、ヴェルディがカルナの口元に触れた。先程味見をした時についたのだろうと、カルナは照れる。指で拭ったクリームを、ヴェルディが己の口に運ぶ。

「甘いな」
「生クリームだからね」
「カルナに触れたからかもしれない」
「僕は砂糖菓子じゃないよ?」

 言い合いながら、どちらともなく微笑した。完成したケーキは、非常に美味だった。
 この日二人は、ずっと語り合って過ごした。