【二十六】宰相閣下の絢爛たる日常






 ジークと話をしたのは昨日の事である。

「悪いが我輩とは別れてくれ」
「っ、それは……どうして」
「こんな事を告げるのは心苦しいが、我が輩は貴様に恋をしていなかった。ぶっちゃけるならば、仕事上で付き合いがある貴様の誘いを断って今後仕事が遣りづらくなるのが嫌だっただけなんだ」
「……分かっていた」
「そうか。ならば話は早い。我輩は、我輩に『恋』という気持ちを教えてくれる相手と付き合いたい」
「それは……」
「ジーク。我輩は貴様が嫌いじゃない。だから、我輩に、『恋心』を教えてくれないか? 教えてくれたのであれば、付き合おう」
「っ」
「無論この条件は他者にも出している。要するに――我輩を恋させた人物に、我輩の事をやる」

 いいながら僕って結構度を超えたナルシスト何じゃないかと思った。
 だけど、だけど。
 たった一度の人生だから、僕だって恋って物をしてみたい。

 そんな僕に恋を教えてくれる人と付き合おうと僕は思ったんだ。

「要するに――俺が惚れさせればいいと言う事だよな?」
「ああ、そうだ」
「覚悟しろ」

 こうして、僕とジークの一つの恋(?)の形は終わった。

 これから僕とジークの関係がどうなるのかは知らないが、それは多分、仕事に支障は来さない。



 その足で、僕はゼルの所へ向かった。

「……ジークと別れてきた」
「へぇ。だけどソレって別に、俺と付き合うためにじゃないんだろ」

 さすがにゼルはよく分かっている。
 僕は楽しい気持ちになって唇の片端を持ち上げた。

「僕は決めた。僕に恋を教えてくれた人間と付き合うと」
「ああそう、なんかよりいっそう、俺は寂しくなった」
「なぜだ?」
「俺的には自然にお前に惚れられたかったからだよ」
「そんな自信があるのか?」
「お前の前じゃ何時だって自信なんかねぇよ」

 そう言って苦笑すると、ゼルが僕を抱きしめた。
 不思議とその温もりが嫌じゃない。

「ただ、な。多分俺は、お前が俺に応えてくれてもくれなくても、ずっと一緒にいたいんだと思う」

 ゼルはそう言って僕の腕に顔を預けると嘆息した。

「お前の事でろっでろに甘やかして、俺の物にしたい」
「やってみろ」
「無理。だってな、お前は俺の中で、『特別』なんだよ。例えばその特別に名前をつけるとしたらきっと恋とか愛とかそう言う名前をつけなきゃならないんだろうけどな。そんなものじゃ測れないし、行動制限なんてできないくらい、お前は俺の中で『特別』なんだよ」
「ふむ」
「きっと、愛してるんだよ」

 そんな事を言われ、僕はゼルにキスをされた。
 それは不思議と嫌じゃなかった。
 だが、これが僕らの正しい形だとも思わなかった。



「――ま、そういう経緯を経て貴様の前に来て遣ったわけだ」

 僕が淡々と説明すると、レガシーが眼を細めた。

「結局みんな好敵手のままだって事じゃないですか!」
「まぁそうだな。不満か?」
「っ、いいえ! 全部蹴散らせて、手に入れて見せますから」

 レガシーはそう言うと僕の事を抱きしめた。



 今後何がどうなるのか何て、多分きっと誰にも分からない。
 ただ僕は、僕に恋をさせてくれる人を条件に、恋人探しをするのだろう。
 そんな日常。

 それが――宰相閣下の絢爛たる日常だ。