【三】一瞬で作り替えられた体(★)





 次に気がついた時、俺の手首には枷がはまっていた。頭上で固定されていて、自由になるのは足ばかりだ。太股を折り曲げた状態にされ、挿入されていた。ぬめる香油の甘い匂いがする。

「中々良い壺になってきたな」

 俺を貫いているベリアス将軍は、目を覚ました俺に気づくと意地の悪い顔で笑った。愉悦をたたえた唇の弧を見て、俺は震えた。体の奥底から熱が広がっている。根元まで挿入されているため、ベリアス将軍の肌の温度を感じた。

「自分の中が絡みつくように蠢いているのが理解出来るか?」
「……ぁ」
「ああ、良い玩具を手に入れた。安心しろ、この寝台には、食事と排泄を不要にする魔術がかかっている。お前は今後、ただ喘ぐだけで良い。そして俺を楽しませろ」

 俺の陰茎が、よく筋肉のついたベリアス将軍の腹部で、擦れた。タラタラと最早色の無い精液が零れている。その時俺は気がついた。体を揺さぶられる度、胸に刻みつけられた黒い薔薇の模様からも、快楽が広がっていく事に。

「あ、ふぁッ、ぅ……」

 満杯になってしまった中、腹部。何度も吐精されているようで、ダラダラと俺の中から香油と混じったベリアス将軍の放ったものが垂れている気配がする。腰を回すようにベリアス将軍が動かす度、ぐちゅぐちゅとそれらは卑猥な音を立てている。

「あ、あ」
「そうだ、それで良い。お前はただ啼いていれば良い」
「だめ……ダメだ……だめ、ぇ、ア……あああ!」

 先端でグリグリと最奥を責められる。そうされると、もう出ないと思うのに、内側から果てそうな感覚が広がっていく。俺はもう、純然たる快楽に支配されていて、他の感覚が無い。

「ひゃ、ぁ! ああ!」

 俺を深く貫いたままで、のしかかってきたベリアス将軍が、俺の乳首を吸った。片手ではもう一方を弾いている。その手は、薔薇の模様が広がった俺の胸を覆うように変わり、そこから――胸が熱を帯びた。魔力を注がれているのだと直感した。

「育てなければな、もっとこの薔薇を。お前の白い肢体を絡め取らなければな。きっと綺麗に咲く事だろう」
「ん、ン――っ、ぅ」
「赤く尖った乳首がよく目立つ。分かるか? 今、お前の体は、俺が残した痕だらけだ。小さい赤薔薇の蕾が散らばっているようだ」
「ああ!」

 そのまま乳首を嬲られ、全身に稲妻が走ったようになった。ガクガクと俺の体が震えている。快楽に再び飲まれ、俺がボロボロと泣いた。おかしくなってしまう、このままでは。

「あああああああああ!」

 激しい抽挿が始まった。俺の理性が完全に飛んでしまう。
 ブツンと意識が途切れたようになった。
 次に気づくと、今度は体勢を変えられていて、俺は四つん這いにさせられていた。手の拘束はそのままだ。どうやらこの枷と鎖は、ベリアス将軍の魔術で好きな方向に移動できるらしい。

 バシンと、音がしたのはその時だった。俺の後ろの双丘が、じわりと熱を帯びたようになる。それが痛みだと理解するのに、少しの時間を要した。

「今日からは、俺の許可無く果てる事を禁じる。黒薔薇に、そう魔力を込めた」
「あ、あ……」
「逆に、黒薔薇にはこうも命じた。俺の言葉で、必ず果てるように」
「うあ、ァ……嘘だ、嘘だこんな」

 叩かれる度、俺の全身に快楽が走った。鮮烈な感覚に、俺は目を見開き震えた。叩かれる度に、俺の陰茎が硬くなっていく、反り返っていく。

「あああああ!」

 尻を叩かれただけなのに、そのまま俺は射精した。体が作り替えられてしまったような感覚に、俺は怯えるしか出来ない。

「背中には、どんな花を散らそうか。ああ、そうだ。良い蝋燭を手に入れたのだったな。薔薇の匂いがする赤い蝋燭だ」
「ひああああ」

 その時、背中に明確な熱が落ちた。ドロリとしたそれは、肌に触れるとすぐに固まった。

「ひ! や!」

 視界に入らない背中に、無秩序な位置に、熱が垂れてくる。だが絶望的な事に、その熱もまた気持ちが良い。

「うぁァ」
「綺麗な赤だ。ああ、良い匂いがするな」
「あ、あ……もっとぉ……もっと、ア」

 再び硬度を取り戻した俺の陰茎が、放ちたいと訴えている。それには蝋燭の熱がまだ足りない。全身にびっしりと汗を掻いた俺は、シーツを握りしめる。ぽたりとそこに、俺の汗が落ちた。

「簡単に落ちて思ったよりも退屈だな。それに、おねだりの仕方を間違っているようだ」
「あ、は……は、ッ」
「こう言え。『犯してくれ』と。『挿れてくれ』と。お前に許された言葉は、それだけだ」
「ああ、ア。犯して、早く」
「従順すぎるのもつまらないな。もう少し抵抗して見せろ」

 無論、内心ではこのような強制的な快楽など嫌だ。気が狂ってしまう。だが、体が快楽に囚われていて、他の言葉が見つからない。俺は明確に、穿たれる事を求めている。もう俺の体は知ってしまったからだ、強い悦楽を。

 ノックの音がしたのは、その時の事だった。涙を流していた俺が熱い吐息をついた時、声がかかった。

「ベリアス兄上、無事のご帰還おめでとう」
「なんだ、ドリス。遅かったな、お前の侵攻には定評があるだろう?」
「今回は面白い玩具が見つからなくてね。兄上は――楽しそうだね」
「いいや。思ったよりも退屈だ。貸してやろうか?」
「良いのかい?」

 入ってきたのは、金髪の青年だった。首を動かした俺は、黒髪のベリアス将軍と、顔立ちだけはよく似た青年を見る。ドリスというらしいベリアス将軍の弟は、寝台に歩み寄ると、俺の首の鎖を引いた。

「顔は端正だ。中の具合は良いの?」
「ああ。まだきつく締めてくる。もっとドロドロにしてやらないとな」
「黒薔薇の刻印をしたんだね。一度に一人にしか出来ないのに」
「どうせ殺せば消える。消えないのは、俺が死んだ時だけだ」

 クッと喉で笑うと、ベリアス将軍が寝台から降りた。直後、ドリスが入れ替わるように寝台に上がった。そして指を二本、俺の後孔に突き立てた。

「ひ!」
「敏感だけど、媚薬かい?」
「そうだ。早く理性の全てを落とさなければ。既に従順すぎて退屈ではあるが、これならば良いもてなし道具にもなるだろう。このローランス伯爵家に来た客人は、今後幸運だな」

 ぐちゃぐちゃと指で俺の中をかき混ぜているドリスは、ベリアス将軍の言葉に吹き出した。

「ここは娼館ではないと思うけど?」
「出世のためだ。武功だけではどうにもならない事もある」
「あああああ!」

 指先で前立腺を強く刺激され、俺は絶叫した。ビリビリと全身を駆け抜ける快楽に、力が抜け、俺はシーツに上半身を預ける。

「良い声で啼くね」
「そうだろう? 容姿も良いが、声も良い」

 指を引き抜いたドリスが、その直後、俺に陰茎を挿入した。そして俺の背中に体重をかけ、押しつぶすように身動きを封じた。

「ネルス殿下、俺以外のもので果てる事は許さない。黒薔薇が認めない」
「ああああああ、あああああああああ」

 グリと最奥を突き上げられ、すぐに果てると思った瞬間、残酷な笑い声が響いてきた。ベリアス将軍もドリスも、涙を零す俺を見て笑っている。そこからは地獄だった。何度も感じる場所ばかり貫かれるのに、果てられなかったのだ。俺は噎び泣いた。

「お願いだからイかせてぇ!!」
「だーめ。兄上の許しが無いんだからね」

 俺の首の後ろを舐めながら、楽しそうにドリスが言う。乳首をギュッと両手で摘まみ、嬲りながら、今度は焦らすようにドリスが動きを止めた。するとベリアス将軍が俺の手枷を緩めた。もう体に力が入らないから、抵抗など出来ない。その状態で、ドリスは俺を抱き上げ、上にのせた。ベリアス将軍もまた寝台にそれから上がり、俺の陰茎に手を添える。

「いやぁ、ぁ、いやあああ!」

 深々と貫かれた状態で、俺はベリアス将軍に前を咥えられた。内部と外への刺激に、俺は無我夢中で首を振る。気持ち良い。なのにイけない。ドリスは動かないままで、熱心に俺の乳首を擦る。ベリアス将軍は、俺の鈴口ばかりを舌先で刺激する。再びブツンと俺の意識は途切れた。