3:駄目教師★
「ワルター先輩。今日もルカ先生来ないんですか?」
エルが問うと、本を読んでいたワルターが溜息をついた。
「知らん。教務室で尋常じゃない結界張って、引きこもって居るぞ。あそこまで厳重だと、死神ですら引き返しそうだな」
「あの先生、そんなに強い結界はれるんですか?」
「詳しいことは知らんけどな。聖騎士団の嘱託魔術師もやってるみたいだぞ」
「え」
日夜筋トレ指導しかしてくれないルカのことを考え、エルは思わず驚いた。
実際初日に魔術の座学を受けて以来、エルはルカから魔術らしい魔術など一度も習ったことがなかった。ルカが居ないこの一週間、ワルターが教えてくれる初級魔術の方が、余程為になる気がする。
「そういえば先輩はどうして魔術科に入ったんですか?」
「ルカ先生を尊敬しているからだ」
「え」
「と、言ったら信じるか?」
「吃驚した。先輩も冗談言うんですね!」
「冗談を言ったつもりはない。俺もあの人のように、好き勝手に勉強してみたい」
「ああ、なるほど。魔術の腕って言うよりかは、あの気楽なところを尊敬してるんですね」
「何せ筋トレさせて、一人で寝てるからなあの人。あのローブは便利だ」
二人はそんなやりとりをしながら、自習を開始した。
そんな頃、ルカはと言えば、ブツブツと呪文を唱えながら、さらなる結界を張っていた。
始めの三日ほどは、憂鬱さ極まって、何もする気が起きなかった。
しかしながら、体が自由に動くようになると、何よりも恐怖ばかりが募ってきた。
――もう二度と、御遣いに好き勝手にされたくない。
そうした思いから徹夜で、自分自身に出来る限りの全力で結界を構築した。
杖を握る手が震えるのは、未だに止められない。
思い出すだけで体が強ばり、嫌な汗が浮かんでくる。
その時の事だった。
三十重ねにした結界が、硝子が割れるかのようにあっさりと破られた。
「う、あ」
全ての魔力が、破られたせいで自分に跳ね返ってくる。
強力な魔術を使っていた分、衝撃を受けて、ルカは全身の骨が痛み目眩を覚えた。
強烈な痛みに体を支配される。
そう気が付いた時には、砂嵐に視界を襲われ、床へと倒れ込んでいた。
ぶつけた頭が酷く痛む。
「姑息な手を使いますね」
「っ……ぁ……」
「たかが人間ごときがいくら頑張ったところで、私には意味など有りませんが。憔悴していく貴方を見ているのは楽しかったですよ」
その言葉を聞いたのを最後に、小さく吐血してから、ルカは意識を失った。
「あれ、僕……」
目が覚めると、ルカは教務室の端から続く、仮眠室のベッドの上にいた。
「おや、お目覚めですか?」
「!」
気づくとルカは、後ろから抱きかかえられていた。
血で汚れたからなのか、それとも床が汚れていたからなのか、ローブは何処にもない。
ただまっさらなシャツを羽織っただけの状態で、後ろから両腕を回されていた。
恐る恐る顔を向けると、そこにはラファエルのにこやかな顔がある。
「離せ……!」
「それが介抱した相手に対する言葉ですか?」
「一体誰のせいで、僕が血を吐いたと……!」
「ご自分の力量不足が原因だと思いますが?」
「う」
「礼の言葉の一つもないのですか?」
「それは、その、あ、あ……有難う」
告げながら、ルカは己の体が震えたのを自覚した。
「おや、どうかしたのですか?」
吐息が頬へとかかり、ルカは唇を噛む。
ゾクゾクと体が熱くなっていった。
「顔が赤いですよ」
「……もう大丈夫だから、だから、出て行って」
「そこまで期待しているくせに。貴方は嘘つきですね」
クスクスとラフが笑った。
その時、シャツの上から、乳首をはじかれた。
「!」
目を見開いたが、ラフはただ楽しそうにしているだけだった。
ルカは後ろから抱きかかえられ、ゆっくりと服の下に入り込んできたラフの左右の指先で、乳首を転がされる。腰に熱が募り、意識が朦朧とし始めた。決定的な刺激が無くて、けれど快楽は押し寄せてくるから、それだけでルカの自身は立ち上がっていく。
「あ、あ」
「胸だけでイってみましょうか」
「や、あ」
羽を撫でるほどの弱い刺激が、規則的に与えられる。
それだけでグラグラと視界が歪み始める。
「あ、あ、あ……あ、嘘、あ」
空気に触れる男根からは、絶え間なく先走りの液がこぼれ落ちてくる。
乳首を転がされる度、その液が、ルカの菊門まで垂れていった。
ひくひくとそれを無意識に動かしながら、太股を閉じて誤魔化そうとする。
勝手に力が抜けていく体が怖い。
快楽が怖い。
でも――……もう何も考えずに、快楽に身を委ねてしまいたくなる。
「っ、っ」
ゆるゆると胸の突起を撫でられ、辛くて体が震えた。
「ひゃ!」
不意に胸を少しだけ強く摘まれ、ルカが目を見開く。
達しそうになったが、ギリギリの所でそれが出来なかった。
「うぁ、あ、やだ、いやだ」
「どうされたいですか?」
「っ、それ、は」
「嫌なら止めましょうか? ずっと胸を弄るのも楽しいですが」
クスクスと笑いながら、ルカが再びごく弱い力で乳首を転がした。
下半身の熱とそれが直結して、全身が熱くなっていく。
汗ばんでいる白い首筋に、ラフが唇を落とした。
強く吸われ、紅い花びらが散らばっていく。
「ぁン……ん、ぁ……あ、はッ」
最早何も考えられなくなり、強い刺激を求めて、無意識にルカが腰を振った。
それからどれだけの時が経ったのか、緩急をつけて胸を嬲られ、押しつぶすように乳首を捏ねられ、ルカは何も考えられなくなっていった。
「やだぁ、やだよぉ、おねが、お願いだからっ、あ、ああ、あ」
「正直に言ってご覧なさい」
「いかせて、ねぇ、いかせてよッ」
「それがものを頼む態度ですか?」
「う、あ、ああッ、いやだよぉ、ねぇ、あ、ああッ」
涙が睫を濡らし、白い頬を伝っては落ちていく。
快楽に染まり虚ろになった瞳で、うわごとのようにルカが呟く。
「あ、ああッ……」
「本当に可愛い方ですね」
「い、いかせて……くだ、さ……っ」
「しかたありませんね。及第点です」
そう告げ、ラフがゆっくりと、そそり立ったルカのそれを扱いた。
あっけなく精を放ち、ルカはぐったりと気を失ったのだった。
「本当に睡眠不足だったみたいですね。それにしても、あんな結界をはる程までに、私が嫌いなのですか」
ポツリと告げたラフの声は、ルカには届かなかった。