番外詰め合わせ。


**********竦む@魔王の求める白い冬 の前の@置田


立ちすくんだまま、俺は何度も何度も、フェンスの向こうの地上を確認した。
もう少しで、桜なんて散ってしまうかもしれない、この前蕾を見た時は2人だったのに。俺は冬が大嫌いになったーー在斗を俺のそばから奪った冬なんて消えて無くなればいい……そう思うのに、仮にそうしてしまったら大切だった、今でも大切な在斗の存在まで消えてしまいそうで苦しくなる。
だけど、在斗の隣で笑っていられなければ、逆にまた隣で在斗が笑っていてくれなければ、俺に生きている価値なんてない。
白い百合が飾られた、あいつの机。
それが金のかかったいじめなら。まだよかったのに。
目にした瞬間俺は、鞄を取り落として、教室から出てここまで来た。

「どうして、現実ってうまくいかないんだろうな」

妄想の世界では、俺はいつだって勇者で、チートでハーレムを築いている。
脳内嫁なんて多数いる。
だけどその誰よりも、在斗のことが大切でーー好きだったなんて今ようやく気がつけたのかもしれない。
LIKEなんかじゃない。
愛していたんだ。
俺はそう考えて、改めて一人だと気がついた。
この色あせた世界にも脳内世界にも、在斗の笑顔より輝かしく彩豊かなものなんてない。どうして、どうしてどうして、俺は気づかなかったんだ。いつでもそこに、隣にいてくれると思って、なんで、そんな幻想を。
ーー俺はなんて自分勝手だったんだろう。

だけどもう、在斗、お前がいないのに、お前のことを考えて、抱えて行きて行くことは辛すぎるんだ。
やっぱり俺は自分勝手なままだけど。

「会えただけでも幸せだったんだな。生まれ変わりなんて脳内妄想だって知ってるけど、もしそれがあるんなら、きっと俺は、再び巡り会えたらお前にちゃんと言うから。好きだって。愛してるって。ま、転生先があってもお前がいないんなら、もうここで、お前のことは忘れるよ。じゃないときっと、俺は立ちすくんで何もできなくなる」

一人そんなことをつぶやき、俺は、俺から在斗奪ったこの世界を呪って、そうしてーーフェンスを乗り越え、飛び降りた。
在斗のいない世界で生きていられるはずなんてなかったのだから。



**********初雪までの間


ソドムの城で、僕とオニキスは暮らし始めた。
離れていた時間を埋めるように、二人でいると毎日が新鮮で密度が濃く感じた。
今年も12月が来た。
ちゃんと冬が来た。
初雪はいつだろうーー毎日窓の外を見るのがやめられない。
「見てたって降らないぞ」
呆れたように苦笑したオニキスへと僕は振り返った。
「だって楽しみでさ」
「……お前、本当によく笑うようになったな」
「冬をずっと待ってたんだ」
「俺がそばにいるから、くらい言って欲しい」
「え、あ……うん。うん、それ、うん、だから」
あからさまに僕は照れてしまった。
すると正面から抱きしめられた。
その温もりは晴れの日みたいにポカポカしていて、冬とは違う。
僕はオニキスの少し低い体温が好きだ。

「そ、そうだ。雪が降ったら寒いよね? 手袋用意しなきゃ」
「俺がずっと繋いでる」
「え?」
「もうどこにも行かないようにな」

オニキスは話を変えようとした僕の前で、悪戯をするように笑った。
ソドムに初雪が降るまで、もう少し。


**********聖夜



今年はちゃんと冬が来た。
僕がソドムに普及させたから、この魔族の地には、クリスマスがある。
冬はなかったけど、その日付に当たるように僕が定めたからだ。
葬式仏教でクリスマスも大晦日も祝う場所の出身だから、僕も色々と魔王権力(?)で行事を持ち込んだものである。
「クリスマスを祝うなんて何年ぶりだろうな」
オニキスの声で我に帰りながら、僕は嬉しくなって頬を綻ばせた。
この世界で、二人一緒に祝うのは、初めてのことだったし、なんだか二人で過ごせることが幸せだったから。
「靴下を置かないとね。煙突はあるし」
「アルトは何が欲しい?」
いつか、同じ質問を神様に問われたことがあると思い出した。
あの時僕は本当は、恋人が欲しいと思っていたから、有る意味かなったのかもしれない。僕は、オニキスのことを、置田の事を、求めていたのかもしれない。
僕のせいでこちらに来てしまったのだとしたら、謝るしかないけれど。
だけど本当に愛せる相手だから、僕ももう死ねる体で、きっと一緒に時を重ねて行くんだ。それだけで嬉しかった。だからもう僕の欲しいものは手に入っている。
「オニキスは?」
「アルトーーっていいたいけどな、タッチパネル式画面でキーボードついてる奴が欲しかった」
「ネットは繋がってないよ?」
「作るか」
「どうやって?」
「それを一緒に考えていけたらいい。俺は、お前の力になりたい。その立ち位置が欲しい。恋人としてだけじゃなくて」
そう言ってオニキスは苦笑した。僕は息を飲むしかない。
照れてしまって、頬が熱くなってきた気がした。
「まぁまずは、一緒にクリスマスを祝おう。みんなお前の事を待ってるんだから」
「そっか、そうだね。ロビン達が待っててくれているんだよね」
今日はどんな料理が出てくるんだろう。
クリスマス料理も僕が普及させたから、きっと日本っぽいものになるんだと思う。
だけどそれは僕とオニキスの共通した記憶だから、本当に穏やかだ。
僕らはこの地でまた、少しずつ新しい日々を歩んで行くんだと思う。
「俺からのプレゼントはーー旅行だ」
「え?」
「旅じゃなく、ちゃんと帰ってくる旅行。やっぱり俺は、お前と一緒にいろいろな景色を見たいんだ」
そう言ってオニキスが外を見た。
聖夜のしたには、綿雪が降りしきる。
今となっては幸せな二人のひと時だった。