【番外】蛍
手渡した包みの内側の熱。
冬に咲く花の種が入っている。
オニキスは、窓の外を眺めているアルトを見て、いつ渡した種が地に蒔かれるのか考える。
出来れば一緒に蒔きたい。
しかし魔王城に共に戻ってから思うのだが、アルトは忙しい。
朝から働き通しで、今は漸く取れた夜の休息時間だ。
アルトの視線は、窓の外の蛍に釘付けだ。
何を考えているのかが、オニキスには何となく分かる。
「蛍と雪は似ているよな」
「僕も同じ事を考えてたよ」
驚いたように視線を向けてくるアルトを見て、オニキスは苦笑を噛み殺す。
アルトの前では、いつだって優しい笑みだけを浮かべていられたらいいなと思う。
勿論守るべき時は守りたいとも思うし……格好つけたいわけではないのだが……強くありたい。
「何で同じ事考えるんだろうね?」
お前の考えは顔に出やすいんだよとは言わない。
その表情を読み取れるのは自分だけだと信じていたいからだ。
それだけ長い間、アルトの横顔を見つめてきたと思うから。
これからも、ずっとそうしていきたい。
「相思相愛だからだろう?」
「なッ……えっと……」
「違うのか?」
「ち……違わないと良いなと思うよ。僕はオニキスのことが好きだから」
照れるように言うアルトが、どうしようもなく愛おしかった。