【第十七話】俺のエンディングは、ハッピーエンド!




 目を覚ますと、俺の体は綺麗になっていた。同時に、俺は不思議な感触に気づいて、首に触れた。そこには、銀の鎖で出来た、【首輪(カラー)】が嵌っていた。驚いて息を呑むと、真正面で俺を抱きしめていたグレイグが双眸を開けた。

1 「おはよう、ライナ」
「あ、ああ。こ、これ……」
「我慢出来ずにつけてしまった――が、改めて請う。俺のパートナーになってくれるんだろう?」

 嬉しくて泣きそうになりながら、俺は赤面し、小さく頷いた。
 すると優しくグレイグが俺の唇にキスをした。

「これからは、ずっと一緒だ。約束だぞ? 毎夜、俺と共に月を見てくれ。今宵だけではなく、毎晩だ」
「う、うん。わ、分かった」
「真っ赤だぞ」
「っ、だ、だって……こんな……ほ、本当に俺で良いのか?」
「ライナ以外ではダメだ。俺はライナが好きなのだからな」

 そう言うと再び啄むように、グレイグが俺にキスをした。何度も何度も唇を重ねられる内、俺の胸には幸福な感覚が溢れた。



 ――このようにして。
 俺とグレイグは、結ばれた。卒業までは、ロイ殿下とクリフの毎日を陰ながら応援し(?)、卒業後は、俺は近衛騎士の一人――に、なるはずだったのだが、危ないからという理由で、グレイグに拒否された為、それは取りやめになった。俺は現在、グレイグの伴侶として、公爵夫人という形に収まり、学生時代の講義で習った経験を生かして、スコット先輩と共に、ルナワーズ学園の購買で働いている。スコット先輩は魔法薬学専攻だったので、Sub不安症抑制剤を販売し、俺は普通の紅茶の葉を販売している。兄上が貿易を始めた為、最近この王都では、アンドラーデ男爵家関連の茶葉が人気となりつつある。

 ロイ殿下は王太子として過ごしていて、その隣には許婚となったクリフがいる。
 それを支える、将来の宰相候補として、グレイグもまた宮廷で文官として働いている。こんな未来は、俺がテストをしていたBLゲームには存在しなかったのだが、どうやら世界は変わっているようだ。

 なお、俺とグレイグは教会で祈りを捧げ、子供を得た。コウノトリがかごに入れて運んできた時は、若干焦ったが、そこはふんわりとしたBLゲームの設定そのままだった。

 長男と次男がいる。
 俺は使用人に手伝ってもらいながら、グレイグと共に子育てをしているのだが、俺があんまりにも子供を溺愛する物だから、時々グレイグの目が据わる……。段々、俺も気が付いてきた。グレイグは、とても俺の事を愛しているようだ! 全く、照れてしまう。

 そんなこんなで、ハードモードな脇モブ転生だと思っていた俺の二度目の人生であるが、現在はとても幸せかつ平穏である。何せ、毎日、グレイグは俺の事を褒めてくれる。そして褒めてくれない場合であっても、そばにいてくれる。俺は、それで満足だ。

 ――これが、俺に待ち受けていた、エンディングである。
 俺にとっては、このルートは、紛れもなく、ハッピーエンドだ。
 その後も生涯、俺は幸せな日々を歩むのだが、それを俺はまだ知らない。何せ繰り返すが、ゲームにはそんな設定無かっただろ! と、いう話である。そんな事を考えながら、俺は今年も訪れた春の気配を、窓の向こうの梅の花から見て取った後、静かに窓を閉めた。





    【終】