【番外】Happy Halloween!!



最近、織田幸輔おだこうすけは、高杉葵たかすぎあおいと付き合っている。
それに伴い、脳内の中2病妄想も変化を見せ始めていた。
今日も今日とて、各クラスの委員長が集まる中央委員会で遅い葵を待ちながら、カフェで幸輔は待っている。当然、脳内妄想をしながらだ。
――今まで、堕天使の瞳が封じられし右手の拳を己が持ったことには、意味があったのだ……そう、輪廻転生を繰り返すこと幾星霜……愛する者を守るために、俺はこの力を手にしたのだった。だから、だからこそ、愛する葵を守るために、≪終末創造槍エンダストリアルアーツ≫は存在する。葵は――そうだ、俺が必死に守護するべき、”運命の絆”と呼ばれし、自分と同じく、堕天使の瞳を持つ者なのだ。自分たち二人がそろって初めて、機械神を倒すことが出来るのだ。
「ごめん、待った?」
そんなことを考えていた時、隣の椅子を、学級委員長である葵が引いた。
「いや、お前が堕天使だと言うことは分かっている、最早何も言うまい……じゃなくて、待ってない」
「ごめん、俺は引いた」
椅子というか笑顔でそんな内心を葵が口にした。
気恥ずかしくなって幸輔が顔を背ける。
――椅子って言うか、心が引かれたのが悲しい。
「幸輔はココアしか飲んでないの?」
「ああ、まぁ。何か食べるか? 出るか?」
「ううん。ちょっと俺のも注文してくるから待ってて」
葵はそういうと立ち上がって、カウンターへと向かった。
――まずい、いくら恋仲とはいえ、前世の記憶も使命も忘れてしまった相手にうかつに漏らしていい話ではなかった!
幸輔はそんなことを考えながら、自分の本心を押し隠した、ソレはもう抑圧しまくった。
葵と一緒にいるだけで胸が騒いでどきどきするだなんて、幸輔は認めたくなかったのだ。
だってそれは、それだけ好きだと言うことなのだから。
幸輔は誰かに好かれた覚えなどな。当然、最近再会した実の父親や、今の家族も、愛を注いでくれているのだとは思う。だが、だが、自分が愛を注ぐ、というのがどういう事なのかいまいち分からないのだ。幸輔は、どうやって自分の愛情を葵に伝えればいいのか分からないでいた。
「お待たせ」
そういってすぐに葵はトレーを持って戻ってきた。
自分の分のアイスティ、は、分かった。だが、そこには、二つのパンプキンマフィンが乗っていたのだ。
「はい、あげる」
そういわれ、一つ差し出された。
「……おぅ。有り難う」
よく分からなかったが、受け取った幸輔は、葵を見る。お金を返さないと。
しかし葵はそれを気にした様子はなく、自分の分の間ひゅんをフォークで小さく切って、幸輔の前へと差し出した。
「トリックorトリート」
「え」
あ、そういえばと、店内のハロウィン日食の飾り付けを見て、幸輔はハっとした。脳内妄想にとらわれすぎていて、現実世界のイベントの事なんて全然考えていなかったのだ。
「俺のお菓子、食べてよ」
「あ、ああ」
若干恥ずかしくなりながらも、差し出されたフォークを口へと含む。
そして……困ってしまった。
自分の分も買ってきてくれたのだから、食べさせろ、ッて言うことなのだろう。
幸輔にあーんを、葵は期待しているのだろうと、判断した。
だが実のところ、今日待ち合わせをしたのは……まぁ大抵毎日待ち合わせはしているのだが、ハロウィンだなんてすっかり忘れていて、幸輔は渡したいものがあったから、わざわざ遅くまで、待っていたのだ。大抵の場合、どちらかが遅くなりそうな時は、先に帰るのが常だから。
「幸輔もお菓子頂戴」
そういって口を開けた葵に、あわててフォークをマフィンに突き立てて、幸輔が差し出す。
「うん、美味しいね」
「そ、そうだな」
――バカ! 俺のチキン!
今日は、自分たちが付き合いだして数ヶ月目かの記念日なのだ。
だから指輪を買った。
だが、幸輔は自分のその行動について、堕天使同士、正体がばれないように、結界を張るための指輪だと思うことにしている。
でも、なんて言って渡せばいいのか、それが幸輔には分からないでいた。
「そ、その……」
そこで一生懸命に店内を見渡し、幸輔はハッとした。
「トリックorトリート!!」
勢い浴そう告げて、幸輔は、小箱を一つテーブルの上へとのせた。
「え? 今、お菓子食べさせてもらったけど」
「それは葵が買ってきた奴だし、コレは俺から!」
慌ててそう告げ、幸輔は顔をそらした。
その横で、葵が箱を開ける。
「え、これって」
「……いや、その、だ、堕天使同士の!」
妄想を放ってごまかそうとしたが、本当はいつの間にか妄想なんて何処かへ行っていて、紛れもなく葵が好きで、葵のために指輪を選んていた自分のことを幸輔は嫌でも自覚させられた。そもそも高校生である今までの間に、幸輔は誰かに指輪を贈ろうと思った事なんて無い。
「――おそろい?」
笑顔で葵が小首をかしげた。
「……う、そ、その、一応」
「有難う!」
「別に」
照れくさくなって、幸輔は葵の顔が見られないでいた。
「ずっと大切にするね」
「……そうか」
曖昧に頷いてから、幸輔は改めて葵を見た。
ずっと。そう、ずっと一緒にいられたらいいなと幸輔は思っている。
葵もそう思っていてくれるんだとしたら、幸せだなと思った。
「幸輔はどこにつけてるの?」
その問いに、チェーンを通して、首から提げている指輪を、素直に幸輔は見せた。
「あ、なるほど」
頷きながらも、葵は指にソレをはめた。左手の薬指だ。
「ん、けどこれ、俺の指にぴったりだよ」
「……良かった」
なにせ、ちょっと粘土が趣味だと言って、粘土に指をつっこませて、葵の指のサイズを測った幸輔は、心底安堵していた。
「俺は指に填めてても良い?」
「好きにしろ」
本当、好きにしてください! そんな思い出幸輔は言った。
「コレってハロウィンだから? それとも記念日だから?」
「……ハロウィンのはさっきのケーキだろ。その、だ、だから……記念日だから」
「まさか幸輔が覚えてるとは思わなかった」
「……」
「ごめん、俺なんにも用意してないから――コレで許して」
すると不意に身を乗り出して、葵が幸輔の頬にキスをした。
「!」
こんな衆人環視の場でそんなことをされるとは思わず、幸輔は一気に真っ赤になった。
「毎月これからは記念日やろうか」
葵は何も気にした様子はなく、朗らかに笑いながらそんなことを言った。
「≪花月兵ローズ・ソルジャー≫の攻撃が無ければな……」
「そんなの無い無い。要するにOKって事だよね?」
「っ」
「それとも俺と記念日祝うの嫌?」
「ち、違う。……その、も、もし仮に攻撃があっても俺が守ってやるから……そもそもただの空想だし……」
口ごもりながらも必死で幸輔がそういうと、葵が満面の笑みを浮かべて頷いた。
「有難うね、指輪」
「べ、別に――……俺があげたかっただけだし」
「でもすごく嬉しいんだ、俺」
「良かった」
本当は自分からの指輪など、キモいと言って捨てられるかもしれないとすら、幸輔は思っていたのだ。
「毎月、それに来年も再来年も、こうして過ごしていけたらいいね」
花のような葵の笑顔に、頬を紅潮させたまま幸輔は頷いたのだった。