【番外】クリスマスから大晦日





**********急募! ホワイトクリスマス!




池袋の駅前の東口正面には、綺麗なイルミネーションがある。
ここに来るまでに大山ハッピーロードのイルミネーションも見た。
人々が流れるように歩いていく。
それこそが一番の飾りに見えた。
そんな中、二人で出かけた23日。
「本当信じらんない!」
「……ごめん」
クリスマスイブもクリスマスもバイトを入れたという幸輔に対し、葵が怒っていた。別に本気で怒っているわけではない。仕方が無いという思いもあるし、兄と過ごしたいという気持ちもある。だが、少しだけ寂しかった。寂しかったのだ。
「もうちょっと事前に言うとかさ」
そこまで思考が回らなかった幸輔が唇を噛んだ。
はためには苛立つように睨んでいるようにしか見えない。
二人の様子に、周囲の席や店員さんが息を飲んでいる。
主にやりあっている葵を凄いと思っている層と、案じている層が半々だ。
「悪かった、その……」
「その? 言い訳なら聞かないよ?」
「……来年は休みにするから」
周りには不貞腐れたように、実際は焦って悲しそうに幸輔が言う。
「!」
しかし思わず葵が息をのんだ。
ーー来年も一緒なんだ。
そっか、これからずっと一緒で、何度もクリスマスは巡ってくるんだ。
そんな長いスパンで考えたことがなかったから、葵の胸が何か温かいもので満ちた。嬉しくて、泣きそうになりながら笑う。
周囲には怖くて無いているように見えたが。
「大好き」
どうしてそうなった! が、周囲の感想だ。
「……夜は帰ってこられるから。だから一緒に寝よう」
毛布にくるまって睡眠。
それが幸輔の幸せだった。
一方の葵は、初体験……!?
周囲は、どういう展開!?
状態だったが、幸輔は気づかない。幸輔の中で、葵は、守るべきヒロインてきな立ち位置を確立しつつあった。終末創造槍は、葵のために生まれた、とすら考えている。ーーああ! 追跡者が!
「兎に角、葵。ここは危ない!」
いつから委員長ではなく葵と呼ばれるのが常になったのか、懐かしく思う。
周囲は、ヤのつく職業の人の影を探す。
「大丈夫だよ、幸輔の頭以上に危ないものなんてないよ」
葵は満面の笑みだった。
「じゃあ、来年のクリスマスは、俺が予約しとくからね」
「え、あ、うん」
おずおずと幸輔が頷く。
「とりあえず今日はどうする?」
「あ、えっと、こ、こ……」
幸輔がその時包装された箱をカバンから出して差し出した。
「ありがとう、俺もあるんだ」
かわりに、葵もまた、袋を差し出す。
「そろってあけよ」
葵の提案に、幸輔が頷いた。そして2人が同時に開く。
「「……」」
互いにプレゼントだったのは、お財布だった。
選んだ柄などはまるで違ったが、何処か根本で似ている2人だった。
きっとこれからも2人の時間は重ねられて行くのだろう。
「有難う」
「お、俺こそ」
そんなやり取りをしていると、2人が頼んだブッシュドノエルが届いたのだった。



窓の外ではちょうど、雪が降り始め……ない!
ーー嗚呼、ホワイトクリスマス、急募!







**********カレー蕎麦を食べてから


葵はカレーが得意らしい。だからなのか年越し蕎麦もカレーそばだった。
いつもは家族と過ごすのだが、現在は、新家族? となった、四人で高杉家にいる。
コタツの中で目を覚ました幸輔は隣で眠っている葵を見た。薫たちは寝室で寝たらしい。
時計を見れば、もうお昼の三時だった。
コタツから出て、風邪を引かないように葵にブランケットをかける。
それから水を飲みにダイニングへと向かうと、そこには浅木が立っていた。
「……」
見れば浅木は一人で、蒲鉾を切っていた。
「ああ、起きたのか」
すると包丁を起き、手を洗って拭いてから浅木が、冷蔵庫から玄米茶を出してくれた。グラスを受け取り飲み込むと美味しかった。
「……何をしてるんだ?」
幸輔は会話を探すべく必死で声帯を知ったした。
「御節の用意をな。昨日は葵くんにーー……カレー……いや、一応年越し蕎麦を作ってもらったからな。引っ越し蕎麦にもカレーそばを出してもらったし」
そう言った浅木手の中では、綺麗に今度は伊達巻が切られて行く。
他にも栗金団や黒豆、数の子や筑前煮、などなど、綺麗なおせちの具が並んでいた。
「……料理、うまいんだな」
「うまくなる努力をしたんだよ。お前の母さんに食べさせたくてな」
「……」
「なんて、男の恋人がいる身じゃいえたものじゃないか。悪いな。でも俺は今、薫のことが大切なんだ」
「……別に。それに」
幸輔は唾液を嚥下してから強くいう。
「俺も葵が大切だから」



中二病親子がそんなことをしていた頃、コタツの中でようやく葵が目を覚ました。
薫が中へと入ってきたからだ。
「初詣どこ行く?」
「んー俺と浅木さんは雑司が谷行くけど」
「じゃあ俺と幸輔は北池袋行こうかな」




このようにして新たな高杉家の新年は始まったのだった。