【25】真昼間だけど。(★)
昼食後、俺はユフェルと共に、まだ真昼間だというのに、寝室へと向かった。イゼルを想って帰ってきたというのに、これで良いのだろうか?
しかし俺は、ユフェルに寝室に誘われてから、抗えずずっと赤面したまんまだ。言葉も上手く出てこない。だからユフェルに話しかけられると、コクコクと頷いてばかりである。
正直、卵がデキてから、一度も俺達は体を重ねていないので、俺は実を言えば溜まっている。そしてイゼルが生まれてからもずっとユフェルと同じ寝台にいた為、自分で処理する暇もなく――夜泣きにより、そうした気力も失せていた。
それがユフェルの言葉で一気に自覚してしまい、体が熱くなってきた次第である。もう媚薬の熱は無いというのに……。いいや、だからこそ、ド緊張してしまい、俺は真っ赤のままなのだろう。
その時、そっとユフェルが俺を正面から抱きしめた。
「嫌か?」
嫌では無かったし、俺もどこかでそれを望んでいるのだが、羞恥に駆られて言葉が出てこない。
それに……もうイゼルは生まれたのだ。ユフェルが俺を抱く必要も、本来無いはずだと思っていた。だからこれまで誘われない事を不思議に思った事は無かったのだが……――正直嬉しい。
「……」
「カルネの本意で無い事は分かっているんだ。ただ、どうしても君が欲しい」
そう言うとユフェルは、俺の額に口付けた。その温かな感触が嬉しくて、俺は思わずユフェルの服を掴む。
「嫌じゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「もうユフェルは目的を果たしたわけだし、その……」
俺はもう不要なのではないのか、だとか、本当に俺で良いのか、だとか、思う事は色々あるのだが、上手く言葉にならない。するとユフェルの両腕に力がこもった。
「俺の今の目的というか目標は、カルネとイゼルを幸せにする事だ」
「え?」
「俺にとって、君はかけがえのない伴侶だ」
「そ、それは、伴侶紋があるからじゃ?」
「いいや違う。大切な家族だと思っている」
ユフェルが穏やかな声を紡いだ。その言葉が嬉しくて、俺は思わず両頬を持ち上げる。
「だからこそ――これまでに酷い事をしたし、酷い事を言ったし、酷い仕打ちをしてしまったと悔いている」
「ユフェル……」
「いっそ糾弾されたならば楽だったかもしれないとすら感じる。カルネは俺に何も言わなかったが……嫌だっただろう?」
それを聞いたら、俺は思わず苦笑してしまった。
「償いたい。償わせてくれ」
「俺は、平気だから――」
「いいや。カルネは根が優しすぎる。抱え込んでいるだろう? 伴侶であるのだから、これからは俺に何でも話してくれ。辛い思いをさせた俺が言えた事ではないかもしれないが」
根が優しいのはユフェルだと俺は思う。確かに生家の家族の事などが辛くなかったかと問われたならば、辛くないと言ったら嘘になってしまうが、そばにユフェルがいてくれたからこそ、今ここに乗り越えて、俺はいられるのだと思う。
「今では、焦るのではなく、少しずつ君と、前へと進んでいけたら良いと俺は思っているんだ」
「前へ?」
「俺の利己的な形式から始まった婚姻だからな。今となっては――本当の家族になりたくてならないし、俺は個人的にはそう思っているが……カルネの気持ちが欲しい」
考えてみれば、俺はユフェルをこれほど意識しているというのに、未だにその気持ちを告げた事は無い。
「俺は魔族に生まれた事を、後悔しないようにしようとこれでも必死で……これまでは、それは陛下の為、王室の為、この国の為に、帝国との関係を改善する事こそが自分の使命であるから、その為に生まれてきたのだと考えるようにしていたんだ」
「ユフェル……」
「けれど今は、魔族に生まれた事、心から後悔は無い。この伴侶紋のおかげで、カルネと出会う事が出来た。都合が良い事を口にしているのは、理解している。だが、これが俺の本心だ」
ユフェルは微苦笑すると、改めて俺を抱きしめ直した。その表情を見てから、俺は額をユフェルの厚い胸板に押し付けた。ドクンドクンと心臓が煩い。それからチラリと自分の左手首へと視線を落とした。酷く痣が熱い気がしたからだ。
「だから、だからこそ、ずっと君を欲しているんだ」
俺の肩に顎を乗せたユフェルは、それから俺の耳の後ろを指でなぞった。その優しい手つきに、俺は目を閉じる。そして確信した。俺も――溜まっているだとか、そんな理由を抜きにして、ユフェルの事を欲しいと思っているという、自分の気持ちを。
契機はどうあれ、それに体から絆されてしまったのかもしれないが……もうとっくに俺は、ユフェルの事が好きになってしまったらしい。
「抱かせてくれ」
「……うん」
小さく俺が頷くと、ユフェルが俺の顎を持ち上げた。それから啄むようなキスをした。しっかりと目を開けていた俺は、端正なユフェルの顔をじっと見据える。すると続いて深いキスが降ってきた。薄く唇を開き、俺はその口付けを受け入れる。
「ぁ……は」
「俺は、愛する自信が無いと最初に告げたが、気づいたら、カルネの事が愛おしくて仕方が無くなっていた」
それを聞いて、俺は思わず苦笑した。俺も同じだからだ。
その後、俺達は寝台へと移動した。
一糸まとわぬ姿になった俺は、緊張しながら、シーツをギュッと握った。俺の服を脱がせたユフェルは、自分の服も脱ぎ捨てると、正面から俺を押し倒した。
「久しぶりだからな、ゆっくり慣らそう」
「ン、ぁ……」
香油の瓶を手に取り、ユフェルが指にまぶして、俺の中に差し入れた。挿ってきた一本の指の感触が、切なくも愛おしい。押し広げられる感覚には慣れなくて、俺は息を詰める。なにせ、意識が清明かつ理性がある状態で体を重ねるのは、これが二度目なのだ。
けれど俺の体は、快楽を覚えていたらしい。ユフェルの指が進んでくる度に、体の奥深くから燻るように熱が浮かび始める。
「ぁ、ぁ、ァ」
その時、ユフェルの指が、俺の内部の感じる場所を刺激した。そうされると、俺の全身に快楽が響く。次第に規則的な指の動きが早くなっていく。
「ああ!」
それから指を、弧を描くように動かされ、二本目の指も挿入された。指先を押し開くように動かされ、俺は震える。それからすぐにまた、今度は揃えた二本に指先で、感じる場所を刺激された。
気づくと俺の体は汗ばみ始めていて、後ろを弄られただけだというのに、陰茎が反応していた。
「ひ、ぁァ……」
ユフェルが俺の中への刺激を続けたまま、もう一方の手で、俺の陰茎を握る。そして優しく扱き始めた。前と内側への同時の刺激に、俺は震える声を上げる。穏やかな情交に、次第に体が弛緩し始める。ユフェルは優しい顔で俺を見ている。
そうして三本目の指が入ってきた。
「あ、ああ……あ、あ」
陰茎を握っている手の動きも早くなっていく。俺は出てしまうと思って、ギュッと目を閉じた。体がじっくりと昂められていく。ゆっくりと丹念に開かれていく。
――もっと、欲しい。
そう思ってしまった俺は、浅ましいだろうか?
「ユフェル……も、もう……」
「一度放つか?」
「ん、ン……あ、出ちゃう……――うああ!」
そのまま呆気なく俺は果てた。すると同時に寂しくなった。ユフェルと共に気持ち良くなりたかったと強く感じてしまったのだ。生理的な涙が浮かんできた瞳で、ユフェルを見上げる。ユフェルは、俺を見て優しく笑っているままだ。俺の上がった呼吸が落ち着くまでの間、ユフェルはずっと俺を見ていた。俺もまた、ユフェルを見ていた。
「――挿れても良いか?」
「う、ん」
呼吸が落ち着いた時、ユフェルに問われたから、俺は小さく頷いた。頬が熱い。ユフェルと一つになれるのだと思うと、それだけで幸せな気持ちになってくる。
「ン、あ、あああ――……!!」
ユフェルが俺の中に、陰茎を進めた。
「うああ……あ、あ、あ……ン――!!」
熱い。指とは全然違う。挿入されただけで、俺の陰茎は再び硬度を取り戻した。体がドロドロになってしまいそうだ。そう感じた時、手首に再び熱さを感じた。そこからも熱が広がっている感覚がする。次第に俺の全身は、その熱に絡め取られた。
不思議な感覚だった。まるで水面のように穏やかなのだが、お風呂のように温かい。
体がフワフワする。内心ではそう思うのだが、繋がっている箇所からは灼熱が襲ってくる。ユフェルの陰茎がもたらす熱に、俺の体は蕩けていく。
「動くぞ」
「ん、あ、あああ! あ、あ、ユフェル……ユフェル、ァ」
「辛いか?」
「平気だ。違う、あ、俺、変だ――……あああ!」
その時、ユフェルが巨大な先端で、俺の最奥を貫いた。すると俺の体が小刻みに震え出し、汗がびっしりと浮かんできた。髪が汗で肌に張り付いている。俺は荒く吐息しながら、快楽の本流に耐えようと、足の指先に力を込めた。
「――変じゃない」
そんな俺の太ももを持ち上げると、今度は斜めにより深く、ユフェルが貫いた。これほど奥深くまで挿入された事があったのか、俺は思い出せない。
「あ、あ、あ」
ユフェルが動く度、俺の口からは嬌声が漏れる。あんまりにも気持ちが良い。俺はポロポロと涙を零した。快楽が怖くなってきて、俺はユフェルの首に腕を回す。ユフェルの動きは次第に激しさを増していく。皮膚と皮膚が乾いた音を立て、それが香油の立てる水音と交差していく。
「ああ、ア! あ、あああ、っく、うああ、あ、あ、ああ!」
「愛している、カルネ」
そう言うとユフェルが一際強く突き上げて、俺の中に放った。結合箇所から白液が溢れたのが分かる。しかしユフェルの動きは止まらない。人間では考えられないが、あるいはユフェルが絶倫なのかは知らないが、俺の中ですぐに硬度を取り戻したのである。そのまま連続で突き上げられて、俺は泣いた。俺もまた、果ててしまいそうになった。
「あ」
その時、頭が真っ白になった。どんどんより奥深くまで貫かれていく内に、全身をさざ波のような快楽が襲ったのである。俺は平均的だから、媚薬でも無ければ、二度も連続では果てられないはずなのだが――出た、と、思った。しかし俺は放っておらず、気が付けば、中だけで絶頂感に襲われていた。
「うああああああ!」
強すぎる快楽に、俺は咽び泣く。だがユフェルの動きは止まらない。絶頂感を覚えている状態で、さらに激しく打ち付けられて、俺の理性が焼き切れた。
「ダメだ、あ、あ、あああああ!!」
「悪い、止まらない。ずっと欲しかったんだ」
「あ、あ、あああ、待って、待ってくれ、またイっちゃう――やああ!!」
目を伏せた俺の目尻からは、ボロボロと水滴がこぼれ落ちた。あんまりにも快楽が強い。気持ち良すぎた。震える腕でユフェルにしがみついた俺は、何度も嬌声を上げた。その内に、わけがわからなくなってしまった。
この日、何度も何度もユフェルは俺の中に放ち、俺もまた果てたのだった。
なお、その日から、俺とユフェルは夜、体を重ねるようになった。